打ち合わせ

 パーティーの翌日、ムチャとトロンはマニラに闘技場の事務所に呼び出され、ライブの打ち合わせをしていた。今日は事務所の机にはおかきでなく、ちょっと高価そうなクッキーが置かれている。

 しかし、マニラと打ち合わせをしているムチャとトロンは珍しく固い面持ちをして、クッキーには手を出していなかった。どうやら大きなステージで単独ライブをするという実感が湧いてきて緊張しているようだ。


「で、音楽が盛り上がったらアナウンスを入れるから、このタイミングで赤の門からの登場でいいかしら?」

 マニラの言葉を聞きながら、二人は背筋を伸ばし、ただマニラの顔を見つめてコクコクと頷いている。

 そんな二人の様子を見て、マニラが言った。

「どうしたの? らしくないわよあなた達」

「だ、だって……なぁ」

 ムチャはトロンを見た。

「だって……ねぇ」

 トロンもムチャを見た。

 二人はこれまでネタをするときは、路上でであったり、イベントの前座であったり、状況に応じてノリと勢いに任せてだったりしたので、ちゃんとした会場で、自分達のためにスタッフが付いて色々してもらう事に慣れていないのだ。それが二人には大きなプレッシャーであった。

「緊張するのはわかるけど、今のうちからそんな風だと本番でも良い芸はできないわよ。今回のライブはあなた達が勝ち取ったご褒美みたいなものなんだから、面倒な事は全部私達に任せて、あなた達は好きなようにやりなさい」

「好きなように?」

「そう、あなた達はお客を楽しませたいんでしょ。ただそれだけに集中すればいいと思うわ」

 マニラの目は珍しく優しかった。

 そんなマニラを見て、二人は力強く頷く。

 それからの打ち合わせは、マニラと二人が意見を交わしながら和気藹々と進んだ。

 テーブルの上のクッキーは、打ち合わせが終わる頃にはすっかり無くなってしまっていた。


「じゃあ、開催は今日から七日後という事でいいわね。進行表を渡しておくわ。ネタはもうできてるみたいだけど、しっかり稽古していてね」

「おう、もちろん!」

「大丈夫、そこは任せて」

 帰り際に、二人のポケットいっぱいにクッキーが詰め込まれている事に気付いたマニラは、お土産にクッキーを缶ごとプレゼントすると、二人は軽やかにスキップをしながら事務所を出て行った。

 マニラの心中には正直不安もあったが、闘技場でのビッグカードの試合を組んだ時とはまた違うワクワクを感じており、とても新鮮な気持ちであった。

「子を見守る親の気持ちってこんななのかしら。私も子供欲しいわ」

 そのためにマニラはまず自分の性別と向き合わねばならないのである。



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