四戦目
その日のアレル闘技場からは、いつも以上の熱気が溢れていた。
それもそのはず、今日はムイーサ地方の闘技場の代表選手と、アレル闘技場の代表選手による試合が行われるのだ。
闘技場にはいつもの倍近くの観客が集まり、老若男女が期待に胸を膨らませて試合の開始を待っている。
そんな中、ムチャは闘技場の控え室で何やら深刻な顔をしていた。トロンはベンチに横になり、胸の上で指を組んで目を閉じている。
「奴を倒せば復讐は終わる」
「……」
「待っていてくれトロン、絶対にお前の仇を取ってやるからな」
「……」
「だが、奴を倒してもお前はもう微笑んでくれない……」
「……」
「もう二度と、お前の笑顔を見る事はできないんだな……
「……」
「トロン……何か言ってくれよ!! トローン!!」
ムチャ達がいつもの小芝居をしていると、控え室の扉が開きいつもの係員が入ってくる。
「続きが気になるが時間だ! お前らたまには緊張しろ!」
そう言った係員の背後には、複数の人影があった。
「あんた達余裕ねぇ」
それはプレグ、ニパ、ソドル、ゴドラ、ポロロ、ギャロ、カリン、イワナ達であった。
「おー! どうしたんだよ、みんなして」
ムチャとトロンはその大所帯に驚く。
「激励だ、今日勝てば夢のステージなんだろ」
ゴドラが言うと、皆が次々と激励の言葉を二人にかける。
「まぁ、怪我しないように頑張りなさい」
「頑張ってね」
「病院に来る人にも君達のファンがいてね、頑張ってくれたまえよ」
「君達ならきっと勝てるよ」
「けけけ、俺達に勝ったんだから勝ってもらわなきゃ困るな」
「負けたら承知しないわよ!」
「でも無理はするなよ」
皆の激励を受け、ムチャとトロンの目は僅かに潤んだ。
「さぁ、行くぞ」
なぜか一緒に目を潤ませている係員に促され、ムチャとトロンは控え室を出る。そして二人は振り返り、皆にグッと親指を立てた。
長い廊下を歩き、入場口に立った二人は、いつも以上の熱気と歓声をその身に感じた。あまりの熱気に肌がピリピリとした刺激を感じる。
「次勝てば……」
「うん」
ムチャとトロンは互いに軽く拳を合わせる。その手は僅かに震えているような気がした。
「さぁ! 皆様お待たせ致しました! いよいよ本日のメインイベントです! 本日は遥々遠くからやってきたムイーサ闘技場の代表選手と、我らがアレル闘技場の代表選手との試合を行います!」
司会者が声高らかに言うと、闘技場全体が湧き上がった。
「それでは選手の入場です! まずはタッグマッチ部門にて、あの最強の夫婦を破り我等がアレル闘技場の代表となったこの二人! 「最強の芸人コンビ」ムチャとトロンの入場です!」
係員に背を押され、二人はリングへと歩みだした。
二人に雨のような歓声が降りかかる。
「ちょ、ちょっとばかし緊張するな」
「ちょ、ちょっとだけね」
二人はプルプル震える足を抑えながらリングへと上がる。
「この二人、アレル闘技場に彗星の如く現れ、僅か三戦で代表の座を手にしました! しかしその三戦、一組とて楽な相手はいなかった筈です! この場にいる誰もがこの二人を代表として認めている事でしょう!」
観客席から歓声が上がる。
うおー! 芸人コンビー!
トロンちゃん結婚してー!
ムチャー! 気張れよー!
やっちまえー!
「しかし、相手はあの荒々しさで有名なムイーサ闘技場の代表選手。彼等もまた、ムイーサ闘技場に彗星の如く現れ、あっという間に代表の座を勝ち取った、謎多きスーパールーキーであります! はたして最強の芸人コンビは勝てるのでしょうか? それでは入場していただきましょう! 「仮面の騎士」コンビの入場です!」
ムチャとトロンの立つリングの反対側から、仮面を被り、マントを羽織った二人組が入場した。一人は黒い仮面を、一人は白い仮面を被っており、白い仮面には赤い羽飾りが付いていて、体格的にもどうやら女性のようだ。
「紆余曲折……まさに紆余曲折だった……」
黒い仮面が言った。
「相手が誰であれ、私達の勝利は揺るぎません。いえ、揺るがせません」
白い仮面が言った。
ムチャとトロンは黒い仮面の声に聞き覚えがあった。
「まさか……」
「あの人……」
ムチャとトロンが訝しんだ時、仮面の二人組は各々の仮面を掴み、上空に放り投げた。
「この二枚目顔を見忘れたか!?」
「ナップ様と、このフロナディアがお相手致しますわ!」
二人の顔を見て、ムチャとトロンの頭上に巨大なビックリマークが浮かぶ。
「ナップ!?」
「そして……誰?」
混乱する二人を見て、ナップの白い歯がキラリと輝いた。
「うははははは!! ここに来るまで長かったぞ!! 長かったぞーーー!!」
闘技場にナップの声が響く。果たしてナップに何があったのか!?
※ここよりナップ氏の回想に入ります。ナップが嫌いな方は読み飛ばすことをオススメ致します。
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