クリバー学園の怪談9

「あーあ……鍵かけてたのに」

 幽霊少女はひたいに手を当てて首を振る。

「あなただぁれ?」

 トロンは幽霊少女に話しかけた。

「私はヨチ。昔この校舎で死んだ幽霊よ。今はこの校舎の管理人」

「オバケなのに管理人なの?」

「オバケじゃなくて幽霊。死んだけどあの世に行きそこねて学園をウロウロしていたら、ベローバ先生がここにいてもいいって言うから勝手に管理人してるのよ」

 ヨチはフフンと胸を張った。


 その後、ヨチはなぜリャンピンが猫っぽくなったのかを教えてくれた。

 どうやらトロン達が入った部屋は、倉庫兼ヨチが呪いの練習の際に生み出した呪いの道具の保管庫であると言う。そして、リャンピンがたまたま身につけてしまったのが。

「猫呪いのブレスレット?」

「そう、あれをつけたら猫みたいになっちゃうのよ」

 即ち、あのブレスレットをつけたリャンピンは、リャンピンならぬニャンピンになってしまったわけだ。

「なるほど。じゃあ、あれを外せば元に戻るんだ」

「そうよ。でも、長く着けてると元に戻れなくなっちゃうから、早く外してあげないと」

 トロンは頭のお団子が猫耳になったリャンピンをイメージする。

 トロンとヨチは保管庫を出て、ニャンピンを探しに行く事にした。


 トロン達が保管庫を出た同じ頃、エスペリアとハリーノは、相変わらず微妙な距離を保ちながら校舎の二階をうろついていた。

 ハリーノの癖っ毛の髪は、先程エスペリアに火炎魔法を喰らわされた事により、チリチリのパンチパーマになっている。

「エスペリア様にも苦手なものがあったのですね」

「そりゃ……私だって苦手な物くらいあるわよ。人間なんだから」

 エスペリアはハリーノをパンチパーマにしてしまった事に少しだけ罪悪感を感じているのか、気まずそうに顔を背けた。

「エスペリア様の悲鳴なんて初めて聞きましたよ。案外女の子らしいですね」

 ハリーノはそう言って微笑む。

 その笑みは親しみを込めた爽やかな笑みであったが、悲しいかなパンチパーマのせいで滑稽であった。

「案外って失礼ね! 私はれっきとした女の子よ! それより、そのエスペリア様っていうのやめなさいよ」

「え? なぜですか?」

 エスペリアは僅かに頬を赤らめて言った。

「だって、その……私達友達でしょう?」

「……友達?」

 友達と聞いて、先を歩くハリーノはピタリと立ち止まる。


「そうよ、ただの友達なんだから」

 エスペリアとしては「ただの友達だから調子に乗らないで」という意味を込めたつもりだったのだが、立ち止まったハリーノは急に満面の笑みを浮かべて叫んだ。

「いやっほう! エスペリア様と友達になったぞ! 一歩前進だ! この一歩は巨人の一歩よりも大きいぞ!」

 ハリーノはパンチパーマを揺らしながら、ガッツポーズをして小躍りを始める。

「大袈裟なのよあなたは! みんな私を様付けで呼ぶけど、距離感あって嫌なのよ。確かに私は天才で美少女だけど、普通の女の子なんだから」

「そうです! エスペリア様は美少女です!」

「だから様はやめなさいってば!」

「じゃあ、なんて呼べば?」

「それくらい自分で考えなさいよ!」

 そう言われて、ハリーノはふと考えこむ。

 そして、モジモジしながらエスペリアの名を呼んだ。


「じゃあ、エ、エスペリア」


 ハリーノに呼び捨てにされ、エスペリアの顔がにわかに赤くなる。

「な、なんで名前呼ぶだけで照れてるのよ! 男なんだから堂々としなさいよ!」

「でも、なんだか照れ臭くて……」

「友達の名前呼ぶのが何で照れ臭いのよ! それなら、もっと親しげに呼んでみなさい。あだ名とか!」

「あ、あだ名!? じ、じゃあ……」

 ハリーノはたっぷり考えて言った。


「エリー」


 ボムン


 エスペリアの顔面が爆発した。

 もちろん比喩である。しかし、エスペリアの顔は、ハリーノからは薄暗くてよく見えないが、本当に爆発したかのように真っ赤になっていた。

「え、エリーは、ダメよ……」

「なぜですか? 馴れ馴れしすぎますか?」

「そうじゃなくて……なんか、恥ずかしいというか……」

 エスペリアはかつてないほどモジモジし始める。杖を握りしめるその手は、本人にもよくわからぬ汗でぐっしょりと濡れていた。

「エ、エリー。行きましょう」

「だから、エリーはダメだって……」

 モジモジペアはモジモジしながら歩き出す。

 この二人は十二分に肝試しを堪能していた。

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