合体!!

「合身!!」

 ムチャが剣を放り出して叫ぶ。するとトロンはおんぶをされるようにムチャの背中に飛び乗った。

 トロンがムチャの背中から杖を伸ばしてリングを叩くと、まるで地震のようにリングが地響きを上げて震え始めた。

「なんだ!?」

 突然の出来事に驚き、ナップとフロナディアは警戒して足を止める。

「大地よ、堅牢な鎧となり、我らを護りたまえ」

 トロンが唱え、トロンの杖からリングへと魔力が流れる。するとムチャとトロンの周辺の岩盤がめくれあがり、ムチャとトロンを包みこんだ。

「岩盤装着」

「ダダダン♪ ダダン♪ ダンダダン♪ 無敵の巨人が目をさーますー♪」

 ムチャが歌い出すと、ムチャの体から凄まじい量の喜のオーラが溢れ出す。

「出力安定。いける」

「つーよーくーやーさーしーくーかっこよーくー♪」

 二人を包んだ岩盤が徐々にその形を変え、五メートルを超える巨大な人型となる。それはさながら魔法使いが生み出すゴーレムのようであったが、デザインは鎧のようにメカメカしい。

「な……何ですのこれは……」

 ナップとフロナディアは唖然として目の前にそびえ立つ岩の巨人を見上げた。


 ぷしゅーっ!!


 巨人の関節から喜のオーラが勢い良く吹き出すと、巨人は一歩踏み出しかっこ良くポーズを決めた。

 巨人の中心部にいるムチャが叫ぶ。

「笑撃合体!!」


「「ムチャトロン見参!!!!」」


 闘技場が沈黙に包まれた。

 観客達はアホのようにポカンと口を開けて、岩の巨人、否、ムチャトロンを見つめている。

 そんな中、ニパと一部の子供達だけが目をキラキラと輝かせていた。

「かぁっこいい!!」

「どこがよ……」

 プレグはやれやれと首を振り、額に手を当てた。


 ブォン!!


 ムチャトロンの拳が唸りをあげて横薙ぎに振るわれ、ナップとフロナディアを弾き飛ばす。

「ぐあぁ!!」

「きゃあぁ!!」

 それを見てムチャトロンの中心にいるムチャは高らかに笑った。

「うははははははは!! 強いぞ!! かっこいいぞ!!」

「ムチャ、あんまりテンション上げないで。制御できなくなるから」


 ここで説明しよう。笑撃合体ムチャトロンとは、トロンが大地の魔法でムチャとトロンを中心に岩の鎧を作り出し、ムチャが感情術を鎧の全体に通わせて操作するというゴーレムマスターも真っ青なとんでも技である。

 この際、ムチャはムチャトロンの巨大なボディを操るために全力で感情術を駆使する必要があるのだが、ムチャは強く感情術を発動するほど感情に振り回されてしまうという欠点がある。しかし、トロンがムチャに密着し、感応魔法でムチャの思考と感情術の制御をする事で、その欠点は解決するのだ。

 こうして完成したムチャトロンは、鉄壁の守りと強力な攻撃力を持ち、ゴーレムよりも素早く思い通りに動かせる無敵の巨人なのだ。ちなみに視界はトロンの千里眼の魔法で確保し、ムチャと共有している。

 これはムチャの強力な感情術と、トロンの膨大な魔力により発動為し得る新たなる必殺技である。


 ブレイクシアとの戦いの後にムチャとトロンは思った。これからも健やかに笑いの旅を続けるためには、もっともっと強くある必要があると。そこで生み出した技の一つが、攻守共に強力な「笑撃合体・ムチャトロン」である。

 強さを追い求めたのはナップとフロナディアだけではなかったのだ。もちろん、ムチャとトロンの本業は芸人であり、戦いが好きというわけではない。しかし、ムチャは巨人を自らの思うがままに操れるという事実にテンションをうなぎ登りに上げていた。


「進めー!! ムチャトロン!!」


 ムチャトロンが地響きを立てて歩き出した。


 第三ラウンドが始まる。

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