路地裏へようこそ

 トロンがギリギリのコーナリングテクニックを駆使しながら、何とか女性に食らいついてゆくと、いくつかの角を曲がった所で泥棒がピタリと立ち止まる。それに続いて女性とトロンも止まった。


 泥棒の前には壁が立ちはだかり、行き止まりとなっている。そして、壁の前には数名の男達がたむろしていた。泥棒が男達に何かを言うと、たむろしていた男達はトロンと女性を睨みつける。どうやら彼等は泥棒の仲間で、ここは彼等の溜まり場らしい。

 男達の中で一際ガタイの良い男が、女性の前に進み出る。

「なんだいお姉ちゃん達、男の尻追っ掛け回すたぁいい趣味とは言えねぇな。寂しいなら俺達が遊んでやるよ」

 男達はゲヘヘと下卑た笑みを浮かべた。そしてガタイの良い男が女性の肩に手を掛ける。すると。


 プニュリ


 女性は男の手を取り、その豊かな胸に男の手を押し付けた。

「へ?」

 突然の事に、その場にいた全員が目を丸くする。そして。


 ゴキリ


 女性は男の手首を握りつぶした。

「ぎゃああああああ!!」

 手首を握りつぶされた男は、たまらず悲鳴を上げながら地面を転がる。男を見下ろしながら女性は言った。

「乳が揉めたんだから、ちょっとくらいやり過ぎても良いだろう?」


(お前が揉ませたんだろ!!)


 男達は、いや、トロンすらも思ったが、誰もそれを口には出さなかった。

「てめぇ! ふざけやがって!」

 例によって男達は怒り、女性に襲いかかる。

「私はこんな人数を相手できるほど若く無いよ」

 どちらとも取れる際どいセリフを吐きながら、女性は男達の攻撃をスイスイと躱す。そして攻撃を躱しながら男達のボディを一発ずつ軽く叩いてゆく。女性があっという間に全ての男達のボディを叩き終わると。


「「オロオロオロオロオロオロ……」」


 男達は一斉に胃の中の物を吐き出す。辺りは男達の吐瀉物まみれだ。

「あはは、若いから沢山出すねぇ」

 女性は今度は明らかにアウトなセリフを吐いた。そしてニコッと笑い、空中のトロンにVサインを向ける。

 その時、女性の背後で、最初に手首を潰された男がナイフを片手に立ち上がった。

「氷結せよ」

 それに気付いたトロンの杖から魔法が放たれ、女性の頭の横を過ぎ、ナイフを振り下ろそうとした男に直撃する。

「か……か……か……」

 女性が振り向くと、氷結魔法の直撃を食らった男はカチコチに凍り付いていた。

「あらあら、こんなに固くなっちゃって」

 女性はカチコチになった男を撫で、またしてもギリギリアウトなセリフを吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る