二人のメイド
ムチャとトロンは専属として働く間、屋敷の一室を宿泊所として割り当てられていた。部屋に案内された時、
「ニコル坊ちゃんの悪影響になるような事はなさらないでください」
と、言い含められていたが、二人は当然そんな事をするつもりはなかった。
その部屋で二人はしこしことネタを考える。
「やっぱり子供には漫才よりコントだよな」
「掴みが悪い時に方向転換できなくなるよ」
「じゃあ、ショートコントの連発ならどうだ?」
「たくさんやれば一つくらいはウケるかも」
「だよな。子供が好きそうなショートコントかぁ」
「子供ってドラゴン好きだよね」
「じゃあやっぱりエンシェ……」
その時、窓の外から声が聞こえてきた。
「坊ちゃま! いつまでお屋敷に引きこもっているつもりですか!」
二人はそーっと窓の外を見た。
すると、窓の外に見える庭では、リベラがニコルの腕を引っ張り無理矢理屋敷から連れ出そうとする様子が見えた。
「旦那様と奥様が亡くなられたのがショックなのはわかりますが、いつまでもそんな事でどうするのですか!」
「嫌だ! 離せよ!」
ムチャとトロンは互いに頷くと、部屋を出て庭に向かった。
「離せよリベラ!」
「今日という今日はお屋敷の外に出てもらいますからね!」
リベラに引きずられ、ニコルはズルズルと屋敷の門に近づいてゆく。そこにムチャとトロンが現れる。
「ちょっとリベラさん! そんな乱暴にしたらかわいそうじゃねぇか!」
「あなた達には関係ありません! さぁ、坊ちゃん行きましょう」
そしてリベラはさらにニコルの腕を引っ張る。
「嫌だ! 助けてニーナ!」
ニコルが叫ぶと屋敷の中から箒を持ったニーナが駆けて来た。そしてリベラとニコルを引き離すとニコルをギュッと抱きしめた。
「リベラさん! 何をしているのですか!?」
「坊ちゃんがいつまでも屋敷から出ようとしないので、今日という今日は外に出ていただこうと思ったのです」
「本人が出たくないと言っているのに無理矢理外に出そうだなんて可哀想じゃありませんか」
そう言ってニーナはニコルの頭を撫でた。
ニコルはニーナの胸にしがみつく。
(あのエロガキ……)
(ムチャ)
私怨を燃やすムチャの頭をトロンの杖がゴチンと打つ。
「あなたがそうやって甘やかすから坊ちゃんはいつまでたっても外に出ようともしないのです」
「私は坊ちゃんが自分から出ようとするまで待つべきだと思います」
「それで坊ちゃんが一生外に出なかったらあなたはどうするつもりですか?」
「それは……」
その時、ニコルが口を開いた。
「リベラなんて嫌いだ! どっか行っちゃえ! 僕にはニーナがいればいい!」
ニコルがそう叫ぶと、リベラの顔に悲しげな表情が浮かんだ。
「……私は旦那様と奥様から坊ちゃんを任されています。だから出て行きません」
そう言うと、リベラは屋敷の中へと入って行った。
「坊ちゃん、怪我はありませんか?」
「うん! ニーナ、ありがとう」
ニコルはニーナの顔を見て笑顔を浮かべる。
ニーナもニコルに対して微笑み返した。
「いいえ、大切なニコル坊ちゃんのためですもの。またリベラさんに何かされたらいつでも呼んでくださいね」
「うん!」
そしてニコルはムチャとトロンを一瞥すると、屋敷の中へと去っていった。
「騒々しい所を見せてしまいましたね」
ニーナはムチャとトロンにぺこりと頭を下げる。
「いやいや、びっくりはしたけど」
「リベラさんてニコルにいつもあんな感じなの?」
「はい……まぁ……」
ニーナは顔を伏せた。
「何か訳ありなのか?」
「実は、以前旦那様とリベラさんの間には不倫関係があったと噂されていて、もしニコル坊ちゃんが居なければ旦那様は奥様と別れてリベラさんと一緒になるつもりだったらしいのです。それでリベラさんはニコル坊ちゃんの事を以前から疎ましく思っていたみたいで……」
「だからニコルに辛く当たるのか」
ニーナはコクリと小さく頷いた。
「私は気が弱いのでああやって坊ちゃんを庇うので精一杯なんです。情けない話ですが……」
「いやいや、あのリベラさんに物申せるだけ凄いよ」
「旦那様と奥様には生前良くしていただいたので、せめてあれくらいは……お二人共、もし良ければ坊ちゃんのお友達になってあげて下さい。坊ちゃんはきっと寂しがっていると思うので」
ニーナは潤んだ瞳でムチャを見た。
「あぁ、そういう事なら任せておけよ! 俺が絶対ニコル坊ちゃんを笑わせてやるから!」
ムチャは鼻息を荒くして言った。
「俺達が、でしょう」
トロンはそんなムチャをジロリと睨む。
「是非お願いします」
ニーナはムチャの手をギュッと握りしめそう言うと、二人に一礼して屋敷の中に入って行った。
「やってやるぜ……ニーナさんのためにな」
「ムチャ、鼻の下長い」
ムチャの鼻の下はいつもの倍くらいに長くなっていた。
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