ムチャとトロンのアルバイト
ここはクリバー学園から南下した、とある平凡な町。
今日は町に初めてできた大型商店のオープン記念という事で、町はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。商店のあちこちには綺麗な飾り付けがされており、所々「開店セール」の垂れ幕が掲げられている。そして入口の前には、沢山の風船を手にした着ぐるみのクマが立っていた。
「クマさーん! 風船ちょうだい!」
そう言いながら駆け寄ってきた子供に、着ぐるみのクマは無言で手に持った大量の風船の一つを手渡した。
(はぁ、オープン記念のアルバイトって書いてあったから、イベントの司会とか、ネタ見せかと思ったのに……)
着ぐるみの中にいるのは、世界一のお笑い芸人を目指して旅をしている少年、ムチャであった。
旅の途中でこの町に立ち寄ったムチャは、相方と共に広場で客寄せをしていたのだが、リッチそうな紳士に良いアルバイトがあると言われて、懐が寂しかった事もあり、ついつい引き受けてしまったのだ。
本来彼はお笑いに関わらぬ仕事は引き受けないようにしているのだが、クマさんから風船を貰った子供達は皆笑顔になっている。笑顔に貴賎なしという事で、彼は無理矢理自分を納得させた。
(それにしても暑い……)
今日はオープン記念に相応しい晴天で、上着を羽織るのもためらう暖かさである。上着どころか着ぐるみを着ているムチャは、それはそれは暑かった。
ムチャが暑さにうんざりしていると、クマさんを見つけた数人の子供達が駆け寄って来た。表情を作る必要は無いのだが、ムチャが笑顔で子供達に風船を渡そうとすると。
「クマの魔物だー!! やっつけろー!!」
突然子供達がムチャを殴ったり蹴ったりし始めた。中にはいったいどこで習得したのか、ローリングソバットを繰り出してくる子供もいる。
「い、痛い! やめ……痛い!」
着ぐるみは動きやすいように薄手の生地でできており、無抵抗で子供達の攻撃を受けるのは結構痛い。しかし着ぐるみに入っているからには、子供達を怒鳴りつけて追い払うわけにもいかない。そう、今のムチャはクマさんなのだ。躾の悪いガキとはいえ、夢を壊すわけにはいかないのだ。
すると、一人の子供が放ったアナコンダフックが、ムチャの股間に直撃した。
「か……は……」
悲しいかな、彼は少年とはいえ立派な男である。クマさんは内臓を鷲掴みにされたような痛みに悶絶して、膝をつきその場に倒れる。それを見た子供達は、ワイワイ喜びながら店内へと駆け込んで行った。
手放してしまった大量の風船がふわふわと飛んで行く。ムチャは仰向けになり、なぜ自分が男に生まれて来たのか後悔しながらそれを見送った。
その時である。
パァン!
飛んで行く風船の一つが突如破裂した。
「ウハハハハ! ずいぶん景気良くオープン記念をしてるじゃねぇか! 金を出せ!」
ムチャが下品な声のした方を見ると、そこには銃を手にした実にわかりやすい強盗が数人いた。
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