ムチャとトロンのアルバイト2

 風船が破裂したのは、強盗が上空に向けて放った威嚇射撃がたまたま風船に命中したようだ。


「さっさと金を持ってこねぇと、このガキをぶっころしてやるぞ!」

 よくよく見ると、強盗の一人が先程ムチャのゴールデンボールにアナコンダフックを喰らわせた少年を脇に抱えている。どうやら人質にされてしまったらしい。アナコンダフックの達人も、流石に銃を持った強盗には敵わなかったようだ。


 店先にいた人々は、皆強盗達を恐れて動けずにいる。だいたい店を狙った強盗なら、店の中にアプローチすれば良いのに、わざわざ外に出て叫ぶなど頭の悪い強盗だ。


 そこでムチャはピンときた。

(そうか! これはアトラクションか!)

 ムチャはこう考える。突如湧いて出た強盗も、その頭の悪い行動も、全て客寄せのアトラクションで、きっと勇気を出して「やめたまえ!」と進み出てきた人に何か豪華景品がプレゼントされるのだと。


 ムチャがどうせなら強盗役をやりたかったなぁと思っていると、一人の中年男性が前に進み出た。

「君達! そんな事はやめたまウンッ!?」

 中年男性は普通に撃たれた。

 肩を撃たれただけで生きてはいるようだが、どうやらマジモンの強盗らしい。


「うるせぇ! よし、それなら人質を増やそうじゃねぇか! オイ!」

 強盗のリーダーらしき男が仲間に合図をすると、仲間は店内に入り、一人の少女を引きずってきた。

「おい! それを置いてさっさとこい!!」

「やだ」

 強盗に引きずられながら出てきたのは、背に身長程の大きな杖を背負い、魔法使いのローブの上からエプロンを身に付けた少女である。少女の手には試食のウインナーが載った盆と、ウインナーが刺さった爪楊枝が握られている。


「そんなバナナ……」

 ムチャは思わず呟いた。なぜならその少女は、ムチャのお笑いの相方であるトロンだったのだ。そう、ムチャが外で着ぐるみのバイトをしている一方で、トロンは試食配りのバイトを任されていたのだ。なぜ配る側のトロンの口にウインナーが大量に詰め込まれているのかは謎だ。


「このお嬢ちゃんの頭が飛び散るのを見たくは無いだろう?」

 強盗はトロンの頭に銃を突きつける。引き金を引けば真っ先に飛び散るのはトロンの頭よりも咀嚼されたウインナーであろうが、そのどちらも見たくはない。


 クソガキはともかく、大切な相方を失うわけにはいかない。ムチャは股間の痛みをラマーズ式呼吸でなんとか誤魔化しながら、ゆらりと立ち上がる。

「おっとそこのクマ、余計な動きはするんじゃねぇ」

 強盗がそう言った瞬間、ムチャは我慢できずに叫んだ。

「動かなきゃ金持ってこれないだろうが!!」

 それはそれはごもっともなツッコミであった。


「う、うるせぇ! なんだお前はクマのくせに! お前らやっちまえ!」

 リーダーに命じられた強盗達がムチャに銃を向けるが、それはあまりに悠長すぎた。クマの足から黄色いオーラが立ち上り、クマさんは一瞬にして姿を消す。

「なに!?」

 ムチャは感情術を使い、驚くべき速度で上空高く跳躍したのだ。


【感情術】


 それは、己の心に宿る感情の力を引き出し、身体能力や治癒能力を高めたり、武器に纏わせて破壊力を増したりする不思議な術の事である。


「いーやっほーい!!」

 ただし、ムチャの場合は感受性が高過ぎるせいなのか、感情術を使うとテンションがおかしくなる事がある。


「綺麗脚!!」

 上空から襲いかかってきたムチャの蹴りを喰らい、二人の強盗が吹っ飛ばされた。ムチャの攻撃で強盗達が混乱している隙に、トロンはウインナーが無くなった盆を投げ捨て、襟を掴む強盗の手に爪楊枝を突き刺す。

「痛っ!!」

 そして力が緩んだ隙に強盗を突き飛ばし、背負った杖を手にして魔力を込めた。

「雷よ」

 トロンが呟くと、杖の先端から電撃が迸り、強盗達を一斉に痺れさせる。彼女はただの食いしん坊ではなく、凄腕の魔法使いなのだ。

 猛威を振るうクマさんと試食のお姉さんにより、強盗達はあっという間に制圧されてしまった。


「お、お前達はいったい……」

 怯えるリーダーに、クマさんが言った。


「俺達は、ただのお笑いコンビだ!」


「そ、そんなバカな」

 次の瞬間、リーダーの絶叫が「開店セール」の垂れ幕を震わせた。

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