番外編5〜ムチャとトロンの食生活〜

「せやっ!」

「雷よ」


 ムチャの剣がスライムを叩き潰し、トロンの杖から発せられた雷が別のスライムの体内を駆け巡る。


「これで最後か」

「みたいだね」


 ムチャとトロンの周りには、大量の半固形生物スライムの死骸が転がっていた。

 二人は旅先で立ち寄った果樹園にて、一晩泊めてもらう代わりに果樹園を荒らすスライムの退治を頼まれたのだ。

 そして今、二人は数時間かけて、広い果樹園に繁殖した大量のスライムをようやく駆除し終えた所であった。

「ふぅ……疲れたな。果樹園のおっさんに報告しに行くか」

「うん、朝から戦いっぱなしで疲れたね」

「だな、腹もぺこぺこだよ」


 ぎゅぅーっ


 その時、二人のお腹が同時に空腹を知らせた。

「なぁ、ここの果物ちょっと食べたらダメかな」

「ダメだよ勝手に食べちゃ。早く報告しに行こう」

 と、トロンが言ったが、ムチャは立ち止まり何かをじっと見つめている。

「なぁ、トロン」

「なぁに、ムチャ」

 ムチャの視線の先にはスライムの死骸があった。

「前にスライム食べた事あるよな」

「うん、確か泥の味がして二人共お腹壊したよね」

 ムチャはまだスライムの死骸を眺めている。

「俺は思うんだけど、前に食べたスライムは沼に棲んでたスライムを食べたからお腹を壊したんじゃないか?」

「沼ネズミを食べた時もお腹壊したもんね」

 ムチャは足下に落ちていた一匹のスライムの死骸を拾いあげる。半固形のスライムがムチャの手にブラリとぶら下がった。

「このスライム達は、ここ一年くらい果樹園の果物をたらふく食べて育ったんだよな」

「うん」

「もしかして美味いんじゃないか?」

「……えー」

 トロンはムチャの手に乗っているスライムを眺めた。そして鼻を近付けてくんくんと匂いを嗅いでみる。

「……いい匂いがする」

 ムチャも鼻を近付けて匂いを嗅ぐ。

「本当だ」

 二人は顔を見合わせた。


 数分後、二人は近くの川で数匹のスライムの死骸をじゃぶじゃぶと洗っていた。二人の食への探究心はそこら辺の料理人より強かった。

「よし、綺麗になったな」

「うん」

「じゃあ、俺から食べてみる」

「本当に食べるの?」

 トロンの顔に不安そうな表情が浮かんだ。

「あぁ、腹を壊したら治癒魔法を頼む」

「わかった」

 トロンは親指をぐっと立てた。

「じゃあ、いきます」

 ムチャは覚悟を決めると、うっすらと赤色をしているスライムにかぶりつく。


 がぷっ

 ぬちゃあ……


 ムチャの口の中にドロリとしたものが広がる。

 ムチャはそれをもちゃもちゃと咀嚼した。

「どう?」

「ちょっと待って……………ぷっ」

 ムチャはスライムを一度吐き出すと、首を傾げ、ムニムニとスライムを揉みしだく。そしてもう一度スライムにかぶりついた。しばらく咀嚼して、今度はそれをゴクリと飲み込む。

「どう?」

「……あのな、筋っぽい所は多分内臓なんだ」

「うん」

「そこは噛みきれないし、あんまり味とかしない」

「うん」

「でもそこを避けたら、めっちゃリンゴの味がする」

「……本当?」

 ムチャはトロンにずいっとスライムを差し出した。

 トロンはそれを受け取りしばらく眺めていたが、やがてスライムをムニムニと揉みしだくと、覚悟を決めて一番柔らかい部分にかぶりついた。そしてもちゃもちゃと咀嚼するとゴクリと飲み込んだ。

「どうだ?」

「……すごく……リンゴ」

「だろ!?」


 二人はリンゴ味のスライムを食べ終わると、他の色をしたスライムも味見し始めた。

「この青いのはプルーンの味がするよ」

「このピンクのはさくらんぼ味だ」

「この緑のは…………スイカ?」

「スイカ……と言うよりは、スイカの皮の味だな」


 ムチャとトロンが様々な色のスライムを食べた結果、甘みの強い果物を食べたスライムは味が良く、甘みが控えめで皮の厚い果物を食べたスライムの味は微妙であった。

 二人は味の良かった色のスライムを何匹か果樹園の主人に持って帰り、食べさせてみた。

「………うまっ!」


 後にムイーサ地方の名物となるフルーツスライム誕生の瞬間であった。

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