熱血!フェアリーボール!

 ある日の放課後の事である。

 その日は授業が半日しか無く、ムチャとトロンはお笑いのネタ探しために二人で校内を探索していた。

 ある程度校内をうろついた二人は、校庭が見渡せる土手へとやってくる。

「しかしトロンさん、この学園は広いですねー」

「なんでも中くらいの街くらいあるらしいですよ」

「それだけ広いと待ち合わせとか大変そうですね」

「じゃあ、ちょっと待ち合わせしてみましょう」

「いいですよ」

「放課後に机の前で待ってるね」

「アバウトだな! 誰の机の前だよ!」

「学園の敷地のど真ん中で待ってるね」

「具体的だけどわかり辛いよ!」

「あの夏で待ってるね」

「ロマンチックだな! 思い出の中にいる女かよ!」

「先に帰っとくね」

「待っとけよ! 待ち合わせどうしちゃたんだよ!」

 そんな風に二人がアドリブで漫才をしていると、校庭の方から二人の頭上にボールが飛んできた。ムチャが腕を伸ばしてボールをキャッチすると、ボールを追いかけるように、校庭からリャンピンが走ってくる。

「おーい! こっちにボールこなかった?」

 ムチャはキャッチしたボールをリャンピンに投げてよこした。

「ありがとう、変態三号」

 リャンピンはムチャがレオとハリーノと共に覗きをした日から、ムチャをそう呼んでいた。因みにレオが一号でハリーノが二号である。

「まだその呼び方するのかよぉ……」

「乙女の入浴を覗いたんだから当たり前でしょ」

「他の女子にも変態扱いされたらどうするんだよ」

「だって変態じゃないの。でも、そろそろ許してあげようかな。そうだ! 二人ともちょっと来て」

 リャンピンはムチャとトロンに手招きをすると、校庭の方へと歩き出す。

 二人は顔を見合わせて、リャンピンの後に続いた。


 二人がリャンピンについて行くと、校庭では女子生徒と男子生徒が入り乱れてボールを追いかけていた。

「おー、フェアリーボールかぁ」

 フェアリーボールとは、ベリス王国内で流行している国民的スポーツである。王都や大きな都市にはフェアリーボール専用のスタジアムが設けられ、そこで行われる各地方代表のクラブチーム同士の試合には、多くの観客達が訪れる。

 この競技は学生達の間でも流行しており、このグリバー学園にもフェアリーボールのクラブがあるのだ。

「私、フェアリーボールクラブに入ってるんだ。よかったらちょっと一緒にやってみない?」

「おー! やるやる!」

 リャンピンの誘いに、ムチャは二つ返事で了承したが、トロンは困り顔を浮かべている。

「私はルールわからないから見てるよ」

「大丈夫大丈夫、ルール教えてあげるから一緒にやろうよ!」

 リャンピンはドンと胸を叩く。

 こうして、リャンピンのフェアリーボール講座が始まった。

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