サキュバスパンデミック2

 ムチャ達があんぐりと口を開けて、若返った自分にウットリしているベローバを見ていると、近くで舞い上がったサキュバス達がムチャ達に、そして遠くの空からもサキュバスの大群が学園に向かって飛んでくるのが見えた。


「じゃあ、ゲーム開始!」


 プリムラは楽しげにそう言うと、翼を翻し、学園で一番高い建物である時計塔に向かって飛んで行く。取り残されたムチャ達は、バッサバッサと羽音を響かせながら飛んでくるサキュバス達に慄く。


「と、とりあえずみんな逃げろ!!!!」


 ムチャの声を合図に、その場にいた全員が一斉に逃げ出した。ムチャ達だけではない、空から迫り来るサキュバス達を見て、学園祭の準備をしていた生徒達も蜘蛛の子を散らすように、準備をほっぽり出して逃げ出す。しかし、一部の男子生徒達は素早く飛来するサキュバス達にとっ捕まり、次々と黒い球に変えられていった。そして女子生徒達も。


「きゃあ!」


 ムチャ達のすぐ後ろで、一人の女子生徒がサキュバスに捕まる。そして抱擁を受けると、一瞬にしてその姿をサキュバスに変えた。


「「えー!?」」


 そう、女性をサキュバスに変える能力を持つのはプリムラだけではない。プリムラにサキュバスに変えられた者も、同じ能力を持っているようだ。つまり、サキュバスは感染病のように次々と増殖していくという事である。


「嘘だろー!?」


 徐々に数を増すサキュバスの大群に追われながら、ムチャ達は走り続ける。状況は早くも絶望的だ。このまま走り続けても、いずれは力尽きてサキュバス達に捕まってしまうであろう。


「ムチャ、どっかに隠れないと」

「わかってるよ! でも、どこに隠れれば……」


 すると、レオが思いついたように叫ぶ。


「そうだ! 旧校舎だ! あそこなら魔物避けの結界が張ってある!」

「「それだ!」」


 目的地が決まり、がむしゃらに走っていた一同は湖へと足を向ける。すると。


 べしゃっ


 ムチャ達の背後で誰かが転んだ音がした。

「うえぇ……痛いよぉ」

 振り返ると、そこには涙目で地べたに這いつくばるマリーナの姿がある。


「マリーナ!」

 それを見て、真っ先に駆け出したのは親友のニパだった。

 ニパは素早く踵を返し、マリーナの元へと駆け戻る。しかし、ニパがマリーナに手を伸ばした瞬間、複数のサキュバスの翼にニパの視界は塞がれた。サキュバス達は死体に群がるハゲタカのように、次々とマリーナに覆い被さる。


「こんのぉ!」


 ニパはマリーナを囲むサキュバス達を、一体ずつその怪力で引き離して放り投げた。サキュバス達は上空に次々と放り出され、群がるサキュバス達の隙間からマリーナの手が見える。遅れて戻ってきたムチャ達は、引き剥がされたサキュバス達が再び襲って来ないようにニパのガードに入った。


「マリーナ! 掴まって!」

 ニパがマリーナに向かって大きく手を伸ばすと、ニパの腕を、マリーナの腕が掴んだ。


 ニパはその腕を思いっきり引っ張り、サキュバスの群れからマリーナを救い出しす。しかしその勢いで尻餅をついてしまい、引っ張り出されたマリーナがニパの上に覆い被さる。

「いてて……マリーナ大丈夫!? 早く立っ……あれ?」

 ニパが救い出したマリーナの服装は、先程と違い真っ黒でぴっちりでちょいエロだった。

「ま、マリーナ?」

 マリーナの背後に、バサっと漆黒の翼が開く。

 そう、マリーナは既にサキュバスに変えられていたのだ。

 そしてサキュバスマリーナはウットリとした目でニパを見つめた。


「マリーナ! しっかりして! 正気に戻って!」

 ニパが叫ぶが、マリーナはまるで聞こえていないかのように、ニパの顔に自分の顔を近づける。

「マリーナ!」

「ニパチャン」

「は、はい」

「ニパチャン、イイニオイ……」

「いや、ちょ、待って!」

「ニパチャン、カワイイ……」

「ダメ! やめてマリ……ふんむぅぅぅううう!?」

 マリーナとニパの唇が重なる瞬間、二人の周りを漆黒の球が包み込んだ。


「ニパ! マリーナ!」


 漆黒の球に触れようとするリャンピンの肩を、レオの手が掴む。

「レオ! 放して! ニパとマリーナが!」

「あいつらはもうダメだ! 今は自分の事を考えろ! ここで俺達が全滅しちまったら元も子もないだろ!」

 レオのドライとも思える言葉にリャンピンは下唇を噛むが、レオの言っている事は間違ってはいない。ここで皆が捕まってしまったら、ニパとマリーナは永遠に夢の中でイチャコラする事になるのだ。


「行こう!」


 レオを先頭に、皆は集まったサキュバス達をすり抜けて、旧校舎へと再び駆け出すのであった。

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