ある日の放課後

 夕日に赤く染められた校舎の裏には、一組の少年と少女が向かい合って立っていた。

 少し離れた運動場からは、スポーツに精を出す少年達の掛け声が聞こえてくる。

 しかし、校舎裏の二人のいる空間はしんと静まり返っており、まるで世界から隔離された空間のようだ。

「お願いします。俺と付き合ってくれませんか?」

 長身で短髪のハンサムな少年は、そう言って少女に頭を下げ、右手を差し出した。

 しばらくの沈黙の後、少女はそっと少年の右手に手を伸ばす。

 すると、少年の手に何かが握らされた感触があった。

「……えっ?」

 少年が頭を上げて右手を開くと、そこには一粒のどんぐりが乗っている。

 少女は口を開いた。

「どんぐり、あげる」

「え? それはどういう……」

「私、恋人がいるの」

 少女の言葉に、少年はギュッとどんぐりを握りしめた。

「だ、誰ですか!? あのよく一緒にいるムチャって奴ですか!?」

 少年の問いに、少女はふるふると首を横に振った。

「私の恋人は……」

 校舎裏に風が吹き、少女はサラリと髪をかきあげる。

「お笑い」

 少女はそう言って、いい女っぽく校舎裏から立ち去っていった。

 残された少年は去って行く少女の背を見送り、手のひらに残されたどんぐりを見つめる。すると、すぐ側の生垣から複数の少年達がわらわらとわいて出てきた。

「やっぱりダメだったか!」

「これで五人目かぁ……」

「ボーッとしているようで手強いな」

「だが、そこが良い」

 少年達は小さくなった少女の背中を熱い瞳で見つめる。

「「どんぐり姫」」

 それが少女につけられたあだ名であった。


 どんぐり姫、もといトロンが校門前に着くと、そこには似合わないローブを着たムチャが校門にもたれかかってトロンを待っていた。

「お待たせ」

 トロンに気付き、ムチャは校門から背を離す。

「遅かったな。またか?」

「うん」

 トロンが頷くと、二人は並んで校門から伸びている広い山道を下り始めた。

「モテますなぁ、どんぐり姫」

「どんぐり姫?」

「知らないのか? トロンが振った相手にいつもどんぐり渡すから、男子の間ではそう呼ばれてるぞ」

「えー、この前は松ぼっくりあげたよ」

「意味わからねぇよ!」

 夕暮れの山道を、二人は他愛も無い事を話しながら歩き続ける。


 二人は恋人同士ではない。


 でも、ただの友達でもない。


 切なくて、楽しくて。


 近くて、遠い、そんな関係。


 そう、二人は……


 ずっこけお笑いコンビ。



 冷たい風が吹き、ムチャはブルルと身を震わせた。

「うー、やっぱり山岳地帯は冷えるな」

「だねー」

 男子寮への道と女子寮への分かれ道に着いた二人は、ピタリと立ち止まる。

「じゃあ、また明日ね」

「おう、じゃあな」

 そして二人は互いに背を向けて互いの部屋がある寮へと帰ってゆく。


 二人がここクリバー学園に来てから一月が過ぎていた。

 なぜ二人がこの地に来ることになったのかというと……

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