対決、ブレイクシア城11

 竜の抵抗は凄まじく、トロンの魔力を全開にしても簡単には封印させてくれない。むしろ余計に荒れ狂い、暴れ回った。

(これ、無理かも……)

 想像を上回る竜の抵抗に、トロンの脳裏に諦めの文字が浮かぶ。すると突然、ムチャが障壁の外に飛び出した。

「怒、哀……合技!」

 飛び出したムチャの体が、紫色に染まってゆく。

「重鎮!」

 そして全身が紫色に染まった時、ムチャの体重が急激に増加し、足が地面にめり込んだ。ムチャは降り注ぐ瓦礫をものともせずに、ズンズンと歩みを進めると、剣から出ている竜の首を掴んだ。

「おらぁ!!!!」

 そして剣に向かって全力で引っ張る。

 ジュウゥゥゥゥゥウ

 高熱を発する竜に触れているムチャの手が焼け焦げ、焦げ臭い匂いが辺りに漂う。それでもムチャは全力で首を引っ張り続けた。

「ムチャ!」

 苦痛に歪むムチャの顔を見て、トロンは思わず声をあげた。

「集中しろ!!!!」

 ムチャはトロンの方を見もせずに怒鳴った。

「お前だけにやらせるかよ。俺達はコンビだろ!」

 力の均衡が揺らぎ、竜の首が徐々に宝石の中に引き込まれてゆく。すると、竜が一本の柱に牙を食い込ませた。引き込まれていた竜の首がぴたりと動きを止める。トロンがいくら魔力を込めようとも、ムチャが力を込めようとも、竜の首は動かなくなった。


 ズルリ


 焼け焦げたムチャの手の皮が剥け、激痛が走る。手が限界を迎えたムチャは、今度は全身でしがみつく。

「がぁぁぁぁあ!」

 高熱は容赦なくムチャの体を焦がす。ムチャは歯を食いしばり、竜の首を引く。しかし、竜の首は動かない。逆に竜は顎に力を込め、宝石から徐々に体をを引き摺り出そうとする。トロンの魔力も限界を迎えようとしていた。もうダメかと思われたその時、二人の耳にどこからか声が聞こえてきた。


 大丈夫、あなた達ならできるわ


 その声は今まで聞いたどんな声よりも優しく、美しく、力強く、二人の耳に響いた。そして、二人の脳裏に今までの旅が思い出されてきた。

 誰かを笑顔にして嬉しかった事、悪党に出会い怒りを覚えた事、ネタがウケずに哀しかった事、相方が隣にいてくれたおかげで楽しかった事。

 二人の心に、様々な感情が駆け巡り、膨れ上がる。そして、消耗したはずの力が戻ってきた。

「ねぇ、ムチャ」

「なんだ、トロン」

「私、今なら何でもできる気がする」

「奇遇だな。俺もだ」

 竜の食らいつていた柱が砕けた。それを見たムチャが思いっきり竜を引っ張ると、巨大な竜の頭が宙に浮く。そして掴んだ首を剣に向かって投げ飛ばした。トロンは全力で魔力を込める。すると風車に巻き込まれた紐のように、竜の首は宝石の中へと吸い込まれてゆく。竜は悔しげに咆哮した。

「一応、お前のおかげで助かったんだし、礼を言っとくよ。ありがとな……っと!!」

 ムチャはその鼻っ面に、ドロップキックをかまして宝石へと押し込んだ。


 キュポン


 竜の頭は完全に宝石の中へと吸い込まれた。

 吹き荒れていた暴風が治り、辺りに静寂が訪れる。

 ムチャとトロンは肩で息をしながらその場に立ち尽くした。

「……やったな」

「……やったね」

 ムチャはその場に大の字に倒れ、トロンはぺたんと座り込む。

「あの声、何だったんだろうな?」

「わからない。けど、助かった……」

「うん」

 二人は天井を見上げ、今生きている喜びを噛み締めた。


 ゴゴゴゴ……


 ブレイクシアとの戦闘と、竜の大暴れのせいで、城が崩壊しようとしていた。

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