学園祭3
二人は今度は校舎へと入った。校舎内にも様々な展示や店が出ており、二人は一つ一つの教室に入り、展示物を見て回る。
すると、何やら結構な行列ができている教室を見つけた。列に並んでいるのは主にカップルで、ところ所から「怖〜い」というワードが聞こえてくる。何の行列なのか先頭まで見に行くと、教室の入り口には「怪奇! これが本当のお化け屋敷!」と書かれた看板が置いてあった。
「なるほど、お化け屋敷かぁ」
「入ってみる?」
二人がそんな話をしていると、列の最後尾の方にニパとマリーナの姿を見かけた。以前はニパといえば相方はプレグであったが、今ではすっかりマリーナと一緒に見かける事が多くなった。
「入ろうよマリーナ!」
「やだよぉ〜! 怖いよニパちゃん!」
どうやら二人はお化け屋敷に入るかどうか揉めているようだ。そんな二人にムチャ達は声をかける。
「よう、入らないのか?」
「ひぁっ! 参謀! き、昨日ははしたないところを見せてしまいすいません!」
ムチャに話しかけられたマリーナの顔はほんのりと赤くなる。サキュバスのケセラといい、半魚人のマリーナといい、ムチャは純粋な人間より亜人にモテるようだ。
「ねぇー、マリーナったらお化け屋敷が怖いって言うんだよ」
「学園祭のお化け屋敷だぞ、そんなに怖くないだろうから大丈夫だろ」
「そんな事言われても怖いものは怖いんですよぉ」
照れながら怯えるマリーナを見て、ニパはちょっと悪い事を思いついた。
「じゃあ、私じゃ頼りないから、ムチャさんがマリーナと一緒に入ってよ」
「えぇ!? ちょっとニパちゃん!?」
「トロンさんは私と一緒に入ろう!」
「いいよー」
こうして、ムチャはマリーナと一緒にお化け屋敷に入る事になった。
マリーナはお化け屋敷に入るのは怖かったが、ムチャと一緒に入れるのは嬉しかった。もしお化けに驚いて、参謀に抱きついちゃったらどうしよう、なーんてピュアピュアな事を考えながらドキドキしていた。
列が進み、二人はお化け屋敷の入り口に立つ。
「大丈夫か?」
「は、はい」
マリーナは頷き、さり気なくムチャの袖を握った。本当は手を握りたかったが、恥ずかしがりのマリーナにはそれが精一杯の勇気だった。
(もし来年も一緒にお化け屋敷に来れたら、今度こそ手を握ろう)
明日には別れが来る事も知らず、マリーナはそう誓った。
二人は暖簾を潜り、お化け屋敷の中に入る。
すると、中にも列が続いており、その先にはテーブルが置いてある。テーブルの先には誰かが立って、いや、浮いていた。
「きゃー! 私本物の幽霊初めて見た!」
「あなたが噂の旧校舎の幽霊ね! サインちょうだい!」
「何か怖い事言ってー!」
テーブルを挟んで入れ替わり立ち代わり握手を求めて来る生徒達を捌いていたのは、あの旧校舎の幽霊ヨチであった。それを見たムチャとマリーナは漫画のようにずっこける。
「ヨチ!?」
「あなた達も来たのね、いらっしゃい。サイン? 握手?」
「いやいや、お前何やってんだよ!?」
ヨチの話によると、昨日のサキュバス達の襲来と、ベローバによる結界の崩壊で旧校舎がボロボロになってしまったため、旧校舎が復旧するまでベローバがヨチをこちらに引っ越しさせてくれたらしい。そして、皆が学園祭の準備をしているのを見て、ヨチも何かやりたくなったようだ。
「看板にお化け屋敷って書いてあったぞ」
「いるじゃない、ここに」
ムチャは激しくツッコミたかったが、ぐうの音も出なかった。確かにある意味、どんなクオリティの高いお化け屋敷よりも本格的なお化け屋敷であった。
「私、生きてる時は学園祭に参加した事なかったけど、こうして参加してみるとなかなか楽しいわね!」
楽しげなヨチを見て、ムチャはいまいち納得はしていなかったが、まぁよしとする。マリーナはムチャに抱きつけずにちょっと残念だったが。
お化け屋敷を出たムチャとトロンは、ニパとマリーナに別れを告げて、どこかに去って行った。
「ヨチさんが元気そうで良かったけど、ムチャさんに抱きつけなくて残念だったね」
ニパはそう言ったが、マリーナは首を横に振った。
「いいんだ。今はこれで」
それは仲よさげに去って行く、二人の背中を見送るマリーナの精一杯の強がりであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます