ゴーレム村の過去

 ツンツン


「ううん……エンシェント…ホーリー…むにゃむにゃ」


 ツンツン


「んん……トロン……もうちょっと寝かせてくれよ……」


 ゴチン


「いてっ! おいトロン、起こすならもうちょっと優しく!」

 ムチャの眼前には皺くちゃの顔がどアップで鎮座していた。

「ぎゃあ!! ジジイだ!!」

 ムチャは驚いて飛び起きる。

「ジジイで悪かったな。まぁ、ジジイだが」

 ムチャの隣で寝ていたトロンも目を覚ました。

「ムチャ……どうしたの?」

 トロンは目をこすりながら起き上がる。

「あ……」

「お前ら、なぜこんな所で寝ている?」

「なぜって……爺さんがゴーレムを……あ、いや、何でもない! 夜中に散歩してたら急に眠くなって、なぁ、トロン?」

「すごく寝心地の良さそうな庭だったからつい」

(トロン! それはさすがに厳しいだろ!)

(ムチャこそ、さすがに苦しい)

 二人がひそひそ話しをしていると、老人がため息をつきながら言った。

「お前ら見たんだな」

 ムチャとトロンはそれを聞いてビクッとする。

「みみみ、見たって何を?」

「あ、見たよ、満天の星空を」

(いいぞトロン!)

「確か昨夜は曇っておったがの」

(ダメだトロン!)

 二人の頬を汗が伝う。

「ふん、別にごまかさんでも良いわ。見てしまったなら仕方ない」

 老人はやれやれと首を振った。

「来い、茶くらいは出そう」

 そう言って老人は手招きした。

「ムチャ、どうする?」

「とりあえずついて行くか」


 老人が昨夜ゴーレムを作っていた家に招き入れられた二人は、テーブルを挟み老人と対面していた。

「別に覗きをするつもりは無かったんだよ、でも昨日の夜部屋に……」

「その話はもういい。お前らワシがゴーレムを作っているのを見たんだろ?」

 ムチャとトロンは頷いた。

「ふん、こんな誰もこないような村で自分で作ったゴーレムと暮らしてるなんておかしなジジイだと思っただろう」

「あぁ、思った」

「ムチャ……」

 ムチャは即答した。

「いいさ、事実だからな」

 そこにゴーレムがお茶を持って来た。

「あ! 昨日のゴーレム!」

 そのゴーレムは昨夜二人を宿から連れ出したゴーレムだった。

「なんだお前ら、ソノを知っとるのか?」

 ムチャとトロンは昨夜あった事を話した。

「ふむ、それは妙だな。そんな事をするように命じておらんのだが。ソノ、お前何を考えとるんだ?」

 老人は問いかけたが、ソノと呼ばれたゴーレムは何も言わずに部屋を出て行った。

「あいつを作った時にはまだゴーレムの作成にも慣れとらんかったからな。たまに命じとらん事をすることもあるんだ」

「あいつを作った時って、爺さんいつからこんな暮らししてるんだ?」

 老人は茶を一口飲み言った。

「かれこれ三十年くらいかの」

「三十年!?三十年もこの村でゴーレムと暮らしてるのか?」

「この村で暮らしてるのはもっと前からだ。まぁ、その頃は人がおったがの」

「その人達はどこに行ったんだよ?」

「死んだよ。全員な」

 老人は村の過去を話し始めた。


「ワシが若い頃、この村にはまだ人がたくさんおってな。小さいがのどかで良い村だった。しかし村には医者がおらんかった。だからワシはたまたま村に立ち寄った医療魔術師に弟子入りして修行の旅に出たんだ」

「修行を終えたワシは医療魔術師としてこの村に戻って来た。そして結婚を約束していた女と結婚し、娘も授かりこの村の医者として暮らしていた」

「しかしな、ある日この村で原因の分からぬ病が流行した。ワシは全力を尽くし皆を治療したが、ワシの腕ではどうにもならん病でな。次々に村人は死んでいったよ。だからワシは王都までより腕の良い医療魔術師に助けを求めるために旅に出た」

「だが戻って来た時にはもう手遅れだった。村中の人間は死に絶えていた。ワシの女房も娘もな」

「今でも思い出すよ。ワシが王都へ旅立つ前に娘が病床で行かないでくれと泣いていた時の顔を……これは娘の死体が身につけていたペンダントだ。こっちは女房の物だ」

 老人は首から下げたペンダントと指輪を二人に見せた。

「ワシにもっと力があれば皆を救えたんだ。きっと皆ワシを恨んで死んでいっただろう。あのゴーレム達はワシの償いなんだ。村の奴らを病からは救えなかった。だからせめてゴーレムとして蘇らせああして村で生活させているのさ」

 ムチャとトロンは黙ってその話しを聞いていた。

「長々と話して悪かったな」

 老人は茶をぐいっと一気に飲み干す。

「でもよ。住人の死体でゴーレムを作ってもゴーレムはゴーレムなんだろ?意味ないじゃねぇか」

「わかっとる。だがワシには他に償う方法がわからんのだよ。あいつらをあまり人目に晒したくないから人避けの結界を張っていたのに、偶然とはいえまさかこの村に来る人間がいるとはな。ゆっくりしていけとは行ったが、お前らもこんな村には用はあるまい。街道までの道は教えてやる。食料も好きなだけ持って行っていいから早くこの村を出るんだな」


 そう言うと老人は外に出て行った。


「ムチャどうする?」

「どうするも何も、俺達ができる事は1つだろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る