対決、ブレイクシア城8

 二十四時間前、ムチャとトロンを探して旅をしていたナップは、クフーク村を訪れていた。

「最近は東に向かう馬車がやけに多いな」

 ナップがクフーク村へと辿り着くまでの道中、数多くの東へと向かう馬車とすれ違っていたのだ。

 ここ数日歩き通しで、ろくな食事を取っていなかったナップは、空腹感を覚えて村の食堂へと入る。そして美人な店員さん(ペノ)おすすめのジャンボハンバーグを食べると、デザートを食べようとカバンから瓶を取り出した。

「あら、お客さんその瓶なぁに? ジャムかしら?」

 食器を下げにきたペノは、ナップが取り出した瓶の中身に興味を示して尋ねた。

「いえ、これはフルーツスライムと言って、ここから東にある果樹園で購入した物です。フルーツの味がするスライムを加工したものだそうですよ」

「へぇー! それスライムなんだ、初めて見たわ」

 ペノは瓶の中身をしげしげと眺めた。

「これからブームになるかもしれない新商品だと言われてつい買ってしまったのですが、これがなかなか美味しいんです」

「あら、そうなの?今度買いに行ってみようかしら」

 ペノが食器を下げようとすると、ナップは思い出したようにペノに声をかけた。

「そうだ、お嬢さん。この二人を見ていないだろうか?」

 ナップはカバンを漁り、一枚の紙を取り出した。そこにはやたら人相の悪い少年と、やたら神々しい少女が描かれている。それはムチャとトロンの人相書きであった。

「あらー、上手な絵ね。これ、あの二人じゃない」

 ペノはナップから絵を受け取り、しげしげと眺めた。

「お嬢さん! この二人をご存知か!?」

「えぇ、命の恩人よ。ただ……男の子はもっと優しそうな顔してたし、女の子はもっととろーんてしてたけど」

 それを聞いたナップは食い付いた。

「この二人はいつこの村に来た!? そしてどこへ向かった!? まさかまだこの村にいるのか!?」

「ちょっとお兄さん、落ち着いてよ。この二人は昨日まで村にいて、昨日の昼前にロイヒ荒野の古城へ向かったわよ」

「ロイヒ荒野だな! 感謝するぞお嬢さん!」

 ナップは椅子から立ち上がり、ハンバーグ代をテーブルに置いた。そして足早に立ち去ろうとする。

「あ、お兄さん! 瓶忘れてるわよ!」

 ペノはナップの背中に声をかける。

「それは情報の例だ、あなたが食べてくれ! さらばだ!」

 ナップはそう言うと、食堂を出て村の出口へと向かった。

 ペノはナップが残して行った瓶を眺めると、指で中身をすくって口に運んだ。

「うまっ!」


 それからナップは疲労を軽減する楽の感情術を使いながらロイヒ荒野へと駆けた。多くの馬車とすれ違い、軍隊を追い越し、疲労困憊で古城が遠目に見える丘まで辿り着いたのがつい先程の事だ。古城の城門前では魔法の光がチカチカと輝いている。

「あれはまさか……巫女様の魔法か!?」

 そして疲れた体に鞭を打って城門前まで駆けつけると、ゴブリンに囲まれたプレグとニパを見つけたのだ。


「へぇ、あんたもあの子達の知り合いなのね」

 話を聞いたプレグは、座り込んでいたナップに手を差し出し、引き起こした。

「突き飛ばしちゃってごめんね。頭も」

 ニパは赤くなっているナップの額を撫でた。

「いや、こちらこそレディを魔物扱いしてすまなかった」

「まぁ、レディだって!」

 レディと言われてニパは頬に手を当てて喜んだ。

「レディの基準があんたなら私はババァよ。それより、目的はともかくここまで来たって事はあの子達の所へ向かうんでしょう?」

「もちろんそのつもりだ」

 ナップはコクリと頷いた。護るべき巫女が魔物が集結している城にいるとなれば、救いに行かぬわけにはいかない。

 三人は静かに佇む城の方を見た。

 その時。


 ゴゴゴゴゴゴ


 突然大地が激しく震え出した。ニパはバランスを崩しプレグへしがみつく。

「地震か!?」

「急になんなの!?」

「……ねぇ、何か凄い気配を感じる」

 プレグにしがみついたニパは、古城の方を見ながらカタカタと震えていた。


「一体、城の中で何が……」


 そして、古城から凄まじい轟音が聞こえた。

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