獣達の夜3

 三人は看板を通り過ぎ、細い山道に入る。そして地図に従い、道をひたすらに進んだ。

 夜の山は静寂に包まれているのかと思いきや、風が草木を揺らす音、虫や鳥の声、遠くから聞こえる獣の遠吠えで案外賑やかである。しかし、それらは人為的な賑やかさとは違い、どこか不気味でムチャ達の胸をざわつかせる。


 しばらく山道を進んだ時、三人の前方にある茂みがガサガサと音を立てた。

「何だ?」

 先頭を歩いていたハリーノが足を止め、ムチャは剣を抜き、レオはダガーを構える。


 ガサガサ……ガサガサ……


 それは風による揺れとは明らかに違い、茂みの向こうに何かがいる様子であった。

 魔物か? はたまた人間か?

 ムチャ達はゴクリと息を呑んだその時、茂みの中から黒い影が飛び出してきた。

「来るぞ!」

 三人の間に緊張が走る。


「チクー」


 三人の前に飛び出してきたのは、背中にトゲトゲとした毛を生やしたタヌキであった。

「何だ……トゲタヌキかよ」

 それはトゲタヌキというベリス王国全土に生息しているタヌキである。毛がトゲトゲしており、時折人を攻撃する事から分類は魔物となっているが、性格は臆病で、普通のタヌキとあまり変わらない。

 飛び出してきたトゲタヌキは、三人をジーッと見つめると、「チクチク」と鳴きながら逃げて行った。


「あー、びっくりしたよ」

「ダークウルフとかだったらどうしようかと思ったぜ」

 安心した三人は、顔を見合わせて笑った。

 その時、ムチャはハリーノの背後に何かがいる事に気付いた。その何かは人型で、腕を広げてハリーノに襲いかかろうとしている。

「ハリーノ危ない!」

 ムチャがハリーノの腕を掴んで引き寄せると、横薙ぎに振るわれた何者かの腕が空を切る。


「動くな!」

 レオは背負っていた短弓に素早く矢をつがえ、何者かに向けて引き絞った。

 ハリーノが光の灯った杖をそちらに向けると、何者かの正体が明らかになる。光に照らされたそれは、土でできた人型の人形、ゴーレムであった。

「ゴーレム!? 何でこんな所に!?」

 ゴーレムは緩慢な動きで、抱きつこうとするかのように両腕を広げて三人に近づいてくる。

 ムチャは少し躊躇ったが、剣を振り、そのゴーレムを袈裟切りにした。斬られたゴーレムは肩口から下腹まで両断され、ボロボロと崩れ落ちる。


「何でゴーレムがこんな所にいるんだよ……」

 ムチャがゴーレムの残骸を軽く蹴ると、中から白い骨が出てきた。ハリーノはそれを拾い上げ、まじまじと眺める。

「これは、動物の骨だね。込められた魔力も弱いし、お手軽ゴーレムってとこかな」

「誰かがゴーレムを作って山に捨てたのか?」

「いや、そうじゃないと思う。たぶんだけど……」

 ハリーノが言葉を続けようとした時、三人の周りにある茂みが一斉に音を立て始めた。


 ガザガザガザガザガザガザガザガザ


「なんだなんだ!?」

 三人は互いに背中を合わせ、周囲を警戒する。

「光よ!」

 ハリーノは杖を上に掲げ、杖から光の玉を生み出した。光の玉は宙に浮き、三人の周りを照らす。

「「げっ!?」」

 明るくなった周囲を見て、三人は驚きの声をあげる。三人はいつの間にか、ゴーレムの集団に囲まれていたのだ。

「どうなってんだよぉ……」

 果たして三人は無事秘宝を持ち帰り、度胸を示すことができるのか?

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