第444話 スカンディナビア帝国編 パート32


⭐️ソイビーンの町に場面は変わります。



 「節水を行っていますので、今日はお風呂に入ることができませんがよろしいでしょうか?」



 私はソイビーンの町の宿屋に泊まる予定だったが、どの宿屋も節水をしているためお風呂に入れないと言われていた。詳しく宿屋の主人に事情を聞いてみると、砂漠の緑地化計画で水の利用制限があるとのことで、お風呂は週に3回しか入れないらしい。



 「ルシスお姉様、私は今日かなり汗をかいたのでお風呂に入れないと困ります」



 と小ルシス2号は言っているが、基本小ルシス2号はゴーレムなので汗などかかない。



 「でも、どこの宿屋もお風呂は入れないと言っているのよ。今日は諦めましょう」


 「嫌です。私の唯一の楽しみはお風呂です。お風呂に浸かって1日の疲れを癒す時間が至福の喜びです」



 小ルシス2号は私の頭の上をくるくる回って駄々をこねる。しかし、宿屋ではお風呂を利用できないし、銭湯などがあるわけではない。まだ時刻は18時なので魔法を使って簡易の家を作ることはできるがどうしよう。



 「ルシスお姉様!水が不足しているのなら、地下から水脈を掘り出したらいいのです。ここは私に任せてださい」



 『ツイン・ドリル・スクリューパンチ』



 小ルシス2号は体を回転させてドリルのように地面に激突した。そして、土をかき分けて地中深く潜って行った。私は地面にできた小さな穴を覗き込んだ。



 「2号ちゃん!この辺りは雨がほとんど降らないから砂漠化したので、地下水はないと思います」


 「・・・」



 返事は返ってこない。


 30分後。



 「ルシスお姉様、残念ながら地下には水一滴たりともありませんでした。あったのは黄金に輝くしょぼい石しかありません。こんな黄金の石などなんの役にも立ちません」



 小ルシス2号は右に持っていた黄金を自分が掘った穴にポイっと捨てた。



 「あ・・・2号ちゃん。それはかなり価値のある物なのに」



 小ルシス2号は黄金の価値を知らなかった。小ルシス2号が捨てた黄金は一年間遊んで暮らせるくらいの価値がある物であった。



 「違うところを探してみます」



 小ルシス2号は別の場所の地中に潜って行った。



 30分後。



 「ルシスお姉様。また、水脈はありませんでした。代わりに光り輝くしょぼい石しかありませんでした」



 小ルシス2号が持っていたのは大きなダイヤモンドであった。小ルシス2号はダイヤモンドの価値をわからずにまた自分の掘った穴にダイヤモンドを捨てたのである。

 

 ちなみソイビーンの町の下には古代の遺跡が眠っており、小ルシス2号は古代文明の宝を発見していたのであった。



 「2号ちゃん、この地域は気候変動が起こって雨が降りにくくなって砂漠化したと宿屋のご主人が言っていました。なので、地下の水脈も枯渇しているはずです。とりあえず一時的に水源を確保するために、この辺りの地図を見せてもらって、水源が確保できないか確かめます」


 

 私は宿屋に戻って宿屋の主人にこのあたりの地図を見せてもらった。



 「お嬢さん、地図を見てどうするのかな?」


 「どこかから水を引けないか確認したいのです」


 「お嬢さんの気持ちは嬉しいけど、そんな簡単に水を引くことなんてできないんだよ。カレン様は、何年もかけて砂漠に木を植えて水魔法などで木々を育て緑地化を行なったり、また、遠くから水を引くために灌漑工事を行っている。こうした地道な努力がいつかこの町を豊かにしてくれるはずなんだよ。お嬢さんの気持ちだけ受け取っておくよ」



 宿屋の主人は子供を諭すように優しく言った。



 「近くに高い山はないですか?雪山とかあればそこから水を引けるかもしれません」


 「100kmくらい離れたところに大きな山脈があるが、そこから水を引くことはカレン様も考えてはいるが実現的に難しいのだよ。あまりに遠すぎるのです」


 「あ!あの山のことですね」



 私は思い出した。ヘカトンケイルの武器を取り上げたときに、武器を投げつけて山のことを。



 「ありがとうございます」



 私は宿屋の主人にお礼を言って宿屋を出て行った。


 もう日は沈んであたりは星空に包まれていた。私は綺麗な星空を見ながら目的の山に向かって猛スピードで飛んでいった。


 30分もしないうちに山にたどり着き、私は『ディメンション』の魔法を使って、山から川へと流れでる水の流れにもう一つの川を作ることにした。黒い大きな手が、地面に穴を掘りソイビーンの町の近くまで川を作り最終地点の場所に大きな湖を作ることにした。


 湖が出来上がるまで待つのが面倒なので、私はソイビーンの町へ戻り宿屋のご主人に、明日には近くに湖ができることを説明した。



 「ありがとう、お嬢さん。その気持ちだけで嬉しいよ」



 宿屋の主人は私の話を信用していない。



 「ルシスお姉様。残念ながら宿屋の主人にルシスお姉様の偉大さに気づくのは無理でございます。それよりも、ルシスお姉様の作った湖ができるのは時間がかかりますので、カレン様の家に行ってお風呂に入らせてもらいましょう」



 私は、カレン様の家に泊まるように勧められていたが、小ルシス2号が迷惑をかける恐れがあるので、泊めていただくのは断ったのである。しかし、どうしても小ルシス2号がお風呂に入りたいというので、カレン様の家に向かうことにした。



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る