第105話 武道大会パート6



 観客席は騒然としている。特に自分の親族・友達が参加した人々達の、悲鳴と泣き叫ぶ声が鳴り止まない。



 「どうなっているんだ。あの燃え盛る炎はなんだ!」

 「私の子がいるのよ、誰かあの炎を消してちょうだい」

 「クレアーーーーー」

 「ペイトーーーーーン」

 「誰か助けに行ってよーーー」



 「国王様、緊急事態です。救助部隊の派遣の指示をお願いします」


 「大丈夫だ。心配しなくてもよい。全員無事のはずだ」



 アールヴ王は、ポロンさんから会場で何が起こっても、心配しなくても大丈夫だと聞いていた。それは、ポロンが全出場者から集中攻撃を受けても止めないでほしい、というものだと思っていたが、それは違っていた。



 「精霊神の加護が、これほどもモノだったとは・・・・」


 「あなた、本当に、ポロンは大丈夫なの・・・」


 「ポロンの言葉を信じよう」



 「お姉様、あの大爆発はなんですの?ポロンは大丈夫なの」


 「大丈夫よ、ポロンの気配を感じますわ」


 「でも、心配ですわ」


 「炎が消えていきますわ・・・・」




 「審判から、この大爆発の詳細が入りました。先程の大爆発は、ポロン選手の魔法によるものです。しかしご安心してください。ポロン選手の話しによると、火力は最小限に抑えてあるそうです。そして、熱風による真夏の猛暑のような暑さは感じますが、体には特に影響はありませんとのことです。出場選手は、熱風による暑さと、迫り来る無数の炎による恐怖のために、選手全員は気を失ってしまったそうです。今から救護班が向かいますので大丈夫です」



 ポロンさんは、広場にいた審判だけは、サークルシールドは張って熱風の暑さ燃え盛る炎による恐怖から守っていた。審判までも気を失うと自分の勝利の説明するのが、大変だと思ったからである。



 「ロイドお兄様、あの爆発の炎はポロンの魔法みたいよ」


 「そうみたいだな」


 「ロイドお兄様の対戦相手はポロンになりますわ。心配ですわ」


 「あの炎には、正直俺もビビったが、正体がわかれば問題はない。炎はただの幻影で、熱風を魔法で起こして、相手に恐怖を与えるだけのハッタリ魔法だ。発想はすごいが、タネがわかればもう使えないだろう」


 「そうですね。それに、あれだけの幻影魔法を使った後ならば、魔力もかなり消耗しているはずね」


 「そういうことだ。連戦で魔力切れのポロンなら問題ないだろう。俺のウォーターリーパーの力で、ポロンを倒してやるぜ」



 ウォーターリーパーとは、ヒキガエルの体に、コウモリの羽と尻尾を持つ妖精である。水・氷魔法の強化を得意として、自在に水を操る能力があるのである。




 「バトルロワイルの勝者はポロン選手です。予定よりもかなり早くバトルロワイヤルが終了しましたので、武闘大会開始まで、特設会場にて出店でのお食事でも楽しんでいてください」



 通常、バトルロワイヤルは、お互いに様子も見ながら、戦うので、なかなか決着はつかない。なので2時間の制限時間が設けれていた。2時間を超えると、審判の裁定で優勝者が決まるのであった。しかし今回は、5分で試合が終わったので、武道大会まで時間がかなり余ったのであった。



 ポロンさんは、控え室に戻り収納ボックスからブドウジュースとぶどう酒を取り出した。ぶどう酒は、もちろん、イフリートの分である。さすがのポロンさんでも、武道大会前にお酒を飲むことはしない。



 「ポロン、大丈夫なの」



 姉のヘラが、ポロンのことを心配して、控え室に駆け込んできた。


 

 「お姉様、大丈夫ですわ。試合も楽勝でしたわ」



 自慢げにポロンさんは言う。



 「あの魔法なんなの?何か爆発したのかと思って心配したわよ」


 「私の力である」



 イフリートが自慢げに言う。



 「ポロン・・・この小さな炎は何?」


 「その子は、イフリートですわ。私の妖精ですわ」



 普通は妖精と契約しても、精印からは妖精は出てくることほとんどない。あくまで、力を貸すだけであって、一緒に戦うこと珍しい。しかしイフリートはサラちゃんの一部であり、サラちゃんと召喚契約を結ぶことによって、イフリートも簡単に召喚できるようなった。


 しかし、本当の理由は、イフリートはお酒が欲しいので、ポロンさんが召喚しなくても、自分から率先して出てくるのであった。



 「召喚までできるのね」


 「はい。お姉様」


 「召喚するには、妖精との信頼関係と膨大な魔力が必要だわ。たった2年ほどの修行で、召喚契約をするなんて、どれだけ辛い修行をしてきたの」



 姉のヘラは25歳である。ポロンさんよりも8歳年上で、魔力量もポロンさんよりも多い。そのヘラですらまだ召喚契約はできていない。早い者で、妖精と契約して10年くらいでやっと、妖精との召喚契約を結ぶことができるのであった。


 それほど召喚契約とは、難しいのである。



 「はい。とても苦しい修行でした。でもこうやって、大きな力を手に入れて、家族にまた再会できたので、頑張った甲斐がありました。努力は必ず報われるのです」


 「ポロン・・・本当によくがんばったね」



 ヘラは、ポロンさんを強く抱きしめた。ポロンさんが、ここまで強くなるなんて、誰も想像はしていなかった。なので、かなりの過酷な修行をしてきたのだと勘違いしているのであった。


 一方、ポロンさんは姉に褒められて満足げな顔になっていた。実際にポロンさんは、かなりがんばってきた。エルフということで、神守聖王国オリュンポスでは差別を受けることもたくさんあった。それを乗り越えて、聖霊神の加護を手に入れてのである。なので、少しくらい天狗になってもいいのであった。





 

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