第435話 スカンディナビア帝国編 パート23


 ヘカトンケイルの頭部は、精度の高いフリーキックのように、見事にヘカトンケイルの胴体の首の部分に飛んでいき、頭部は首に繋がり元の姿に戻ったのである。しかし、ヘカトンケイルは、私との実力差をまざまざと見せつけられて、戦意は完全に失っていた。



 「お願いします。きちんとヘカトンケイルさんに、魔王様の降臨方法は間違っていると説明したください」


 「だ・か・ら・・・なんで俺様がお前の言うことを聞かないといけないのだ!」



  ビューレイストは、剣を構えて私に襲いかかろとする。すると、大きな拳がビューレイストの目の前に落ちてきた。




 「魔王様に失礼な態度を取ると俺が許さないぞ!」



 ヘカトンケイルは私の圧倒的な力を見て、私を魔王様だと勘違い?したのである。



 「ヒィ・・・」



 ビューレイストは、先ほどの同じように腰を抜かして倒れ込む。しかし、今回は体を透明にして姿を消して逃げたのである。



 「あいつ・・・どこへ逃げたのだ!」



 ヘカトンケイルは周りを見渡すがビューレイストの姿は全く見えない。



 「姿を消しても無駄ですよ!」



 魔力感知をしても探すことができない完璧な『透明』の能力を持つビューレイストだが、私は地面の僅かにできる窪みを見逃しはしない。いくら姿を消しても注意深く状況を確認すれば居場所を特定できるのである。


 私は、ビューレイストがいてるであろう場所に極小のファイアーボールをを投げつけた。



 「ギャーーー」



 小さな炎が燃え上がるとともにビューレイストの悲鳴が轟いた。そして、透明になっていた姿がぼんやりと姿を映し出されるのである。


 ヘカトンケイルは大きな手をゆっくりと降ろして、ビューレイストを捕まえた。そして、そのまま持ち上げて自分の顔の付近までビューレイストを近づけた。



 「熱い・・熱い・・・助けてくれー」



 たいして燃えていないが大袈裟にビューレイストは騒ぎ立てる。ヘカトンケイルは、鬱陶しそうな顔をしながら、「フーーー」と息を吹きかける。すると燃えていたビューレイストの体の炎はかき消された。



 「お前が俺に教えた魔王様の降臨の方法は本当に正しいのか?」


 「ジャイアント様から教わったので正しいと思います」



 ビューレイストは、涙目になりながら答えた。



 「ジャイアントが言ったのだな?」


 「はい。そうです」


 「そうか・・・まぁ良いだろう。方法はどうあれ俺は魔王様の降臨に成功したのだから」



 ヘカトンケイルは、ジャイアントが魔王様の降臨の方法を知っているはずがないとわかっているので、ビューレイストから教えてもらった魔王様の降臨方法は嘘であると判明したが、それは、もうどうでも良かったのである。それは、私を魔王様と勘違いしているので、目的は達成できたので満足なのである。



 「魔王様の言われていた通り、ビューレイストは虚偽の報告をしていました。魔王様は生贄など差し出さなくても、真摯に魔王様のことを思って入れば、私の前に姿を現してくれるのだと理解しました」



 ヘカトンケイルは、私の目の前に跪いて頭を下げる。


 私は魔王様の子供であって魔王様ではない。しかも魔族であることは秘密にしているので、魔王様を言われても迷惑だが、魔王様と言われて悪い気分はしないので、ニタニタとニヤついているのである。



 「私は、魔王様のような偉大な人物ではありません。でも・・・魔王様と呼ばれるのは悪い気分ではないのです」


 「特大のデクの棒!ルシスお姉様に対するその姿勢は合格点を差し上げてもいいのですが、私たちは先を急いでいるのです。あなた方の相手をしている暇などないのです」



 小ルシス2号の言う通りである。少し寄り道をしてしまったが、私はソイビーンの町へ急いで行かなければならないのである。しかし、寄り道をしたのは小ルシス2号なのに、なんで、そんなに偉そうに言えるのか不思議である。



 「魔王様の邪魔立てをして申し訳ありません。私にできることがあればなんでもお申し付けください」


 「そうですね・・・それなら王都パステックに戻ってヴァリ王を拘束してもらえないでしょうか?」


 「わかりました。すぐに王都へ戻ります」


 「私はどうすればいいのでしょうか・・・」



 ビューレイストはガクガクと震えながら声を発する。



 「そうですね・・・あなたは兵士たちを連れて、ロキお姉ちゃんのところへ戻って、ヘカトンケイルさんが協力してくださることになったこと伝えてください」


 「わかりました」


 「ビューレイストさん、余計なことは考えないでくださいね。ちゃんとロキお姉ちゃんに協力して、スカンディナビア帝国を正常な国に戻す手助けをしてください」


 「もちろんです。私は魔王様に忠誠を尽くします」



 ビューレイストも私のことを魔王様だと信じてしまったのであった。


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