第183話 倭の国パート24



 「間違いないわ。あの人間について行けばわんこそば大会の会場に行けるはずだわ」



 サラちゃんは、まるまる太った人間を見て後をつけることにした。サラちゃんがこっそりと後をつけていると、太った男が大きな建物に並び出した。


 その大きな建物にはたくさんの太った人達が行列を作っていた。



 「私の目に狂いはありませんでしたわ」



 サラちゃんは小さくガッツポーズをして行列にきちんと並び出した。



 「お嬢さん、何をしているのかな?」



 サラちゃんが行列に並ぶと、違和感を感じた行列に並んでいる男性がサラちゃんに声をかけた。



 「私も参加するのですわ」



 サラちゃんは素直に答えた。



 「・・・」



 男性はとても驚いた顔をしている。



 「本当に参加するのですか」


 「もちろんよ」



 サラちゃんは大声で叫んだ。サラちゃんの声が聞こえた周りの人達が騒ついている。



 「おい。あんな可愛らしい子が参加するみたいだぞ」


 「本当かよ。でもよく見ると亜人の子供みたいだぞ。よほど腕に自信があるのだろうよ」


 「でも、屈強な男達の中で、いくら亜人が力が強いからといって勝てるとは到底思えないぞ」



 まるまる太った男達は、よく見るとただの太った男達ではない。太ってはいるが筋肉はしっかりとついていて、体も柔らかくただの不摂生によって太ったというよりも、意図的に体重を増やしているとしか思えないのであった。


 

 「小さい女の子なのに大相撲大会に参加するなんて勇気がありますね」


 「オオスモモ大会???」



 サラちゃんが並んでいるのは、わんこそば大会ではなく大相撲大会であった。


 サラちゃんが、大相撲大会の意味がわからずに頭に?マークが浮かんでいる時に、大きな建物の中からいい匂いがしてきた。



 「なんですか、この濃厚な香りは」


 「お嬢さん、それはちゃんこ鍋の匂いです。鶏ガラベースの出汁のとても美味しいちゃんこ鍋です」


 「ちゃんこ鍋・・・よくわかりませんが、これは絶対に食べないといけないモノですわ」



 サラちゃんの目が爛々と輝きだす。そして、口元からはよだれがすーーと垂れ下がる。



 「お嬢さんはちゃんこ鍋を知らないのですね。ちゃんこ鍋とは野菜たっぷりの美味しい鍋です。相撲大会に参加される方は、自由に食べることができるのです」


 


 サラちゃんは目を瞑って冷静に考えた。サラちゃんはわんこそば大会に参加するために、私からきつく怒られる危険を顧みずに、ポロンさんの精印から倭の国へやってきた。なので、わんこそぼ大会に参加するのを諦めて、意味のわからないオオスモモ大会に参加するか真剣に考えていた。


 サラちゃんは瞑想しているが、ちゃんこの美味しい匂いがサラちゃんの嗅覚を襲う。サラちゃんは目を閉じているが、口は大きく開いてヨダレが滝のように流れ落ちている。


 そう、考えるだけ無駄であった。もうサラちゃんの体は答えを出しているのである。



 「オオスモモ大会・・・私の全ての叡智を集結させてわかったことがありますわ。スモモとは美味しいフルーツの一種でしたわ。そばという食べ物も興味がありましたが、スモモというフルーツも食べてみたいですわ。それにあのちゃんこ鍋の匂いも気になりますわ。仕方がありません・・・私がオオスモモ大会の王になってあげますわ」



 サラちゃんは大相撲大会に参加することにした。



 「早くちゃんこ鍋を食べさしなさいよ」



 サラちゃんが大声叫ぶ。


 サラちゃんの声に気づいた係の人がサラちゃんの元へやってくる。



 「お嬢さんも参加するのかい?」


 「もちろんですわ。何か問題でもあるのですか」


 「年齢制限も男女の制限もありませんが、危険が伴いますので参加をおすすめすることはできません」


 「危険など何もありませんわ。私の煮えたぎる炎で全ての食材を消化することができますわ」


 「大相撲大会では魔法の使用は禁止となっています」


 「炎で食材を燃やすなんてことはしませんわ」



 係の人とサラちゃんの伝えたい意図は微妙にずれている。



 「そうです。炎の使用は禁止になっています。本当に参加されるのですね」


 「もちろんよ。だから早くちゃんこ鍋を食べさせるのよ」


 「申し訳ありませんが順番があります。大相撲大会の参加の受付が済み次第ちゃんこ鍋を食べてください」


 「わかったわよ」



 意外と聞き分けの良いサラちゃんであった。サラちゃんは綺麗に背筋を伸ばして行列に並び直した。



 「お嬢ちゃんにちゃんこ鍋を食べさせてやれ」



 係の人とサラちゃんのやりとりを見ていた1人の力士が係の人に声をかけた。



 「雷電様のお知り合いですか?」


 「そうではないが、こんな可愛いお嬢ちゃんがちゃんこを食べたくて、大相撲大会に出ると言っているのだ。ちゃんこを食べさせて帰ってもらった方が良いだろう」


 「確かにそうでございます。配慮がかけていて申し訳ありませんでした」


 「ルールに従うことは悪いことではない。しかし、時にはその場に応じた対応もすることも必要だぞ」


 「その通りでございます」



 係の人は雷電に頭を下げた。


 サラちゃんは、雷電の計らいにより、ちゃんこ鍋をすぐに食べれることになった。


 大きな建物の中には、中央に相撲をする土俵があり、その土俵の周り取り囲むように観客席があった。そして、土俵がある大きなホールのすぐ横にある部屋に、ドラム缶ような大きな鍋が4つあり、そこでちゃんこが食べれるのであった。


 ちゃんこのある部屋に着くと、サラちゃんに小さな器と箸が渡されて、それで好きなだけ食べるようにと言われた。



 「こんな小さな器なんて必要ありませんわ」



 サラちゃんが、係の人に小さな器を返してちゃんこの元へ颯爽と移動した。


 そして数分後・・・・



 「雷電様、大変です」


 「どうした。そんな血相を変えて・・・何があったのだ」


 「あのお嬢さんが・・・お嬢さんが・・・」


 「あの子に何があったのだ!」


 「あのお嬢さんが、全てのちゃんこを食べ尽くしてしまいました」


 「えーーーーーーーーーーー」

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