第65話 アトラス山脈にてパート4



 翌朝、私たちはイディ山へ向けて出発の準備をしていた。



 「私は、自分で飛行するので問題ないです」


 「俺は、エウリさんがいいぜ」


 「いや私が、エウリさんですわ」



 トールさんとポロンさんが揉めている。実は、2人ともメデューに乗りたくないのである。ロキさんはステンさんに乗ることが決まっているので安心している。



 「なんで、誰も私に乗ってくれないのー」


 「だってお前何かやらかしそうだし」


 「そうですわ」


 「そんなことないもん。ちゃんとイディ山に連れて行くよー」


 「・・・・・」



 2人は信用していない。いつものロキさんなら、私が乗ろうと言って揉め事を解決するのだが、ロキさんも何か不安を感じているのだろう。



 「大丈夫だもん」



 そう言って、メデューは足をバタバタして拗ねている。



 「トール信用してあげて・・・」


 「俺に乗れってことか?」


 「そうね。トールなら何かあっても対処できるでしょ」



 やっぱりロキさんは、メデューを信用してない。



 「私からもお願いするわ。責任は持てないけど・・・」



 姉のステンさんからも信用されていない。



 「わかったぜ。俺が犠牲になってくるわ。メデュー乗せてもらうぜ」


 「仕方ないわね。どうしても言うのなら乗せてあげるわ」


 「ロキ・ステン、こいつをぶん殴ってもいいよな」


 

 2人とも静かに頷いた。



 「イターい何するのよ」


 「昨日の仕返しだ。お前全然反省してないだろ」


 「昨日・・・何も覚えてないやー」



 メデューはニコって笑う。そして、トールさんはため息をつく。



 「みんなのパートナーは決まったので、イディ山に向かいましょう」



 メデューはドラゴンの姿になる。体長5mくらいの灰色のドラゴンに変身した。メデュー達はロックドラゴンという種族らしい。ロックドラゴンは体が岩のように硬くゴツゴツとしている。


 ステンさん、エウリさんもドラゴンに変身した。2人は銀色の美しいドラゴンだ。ロックドラゴンの進化したミスリルドラゴンである。体はロックドラゴンのようなゴツゴツした感じはなく、絹のような繊細で優しい鱗で、強度はダイヤモンドより硬いらしい。メデューもあと数年したら、2人の姉のような、美しいドラゴンになるらしい。



 「やっぱり、エウリのが良かったぜ。メデューはゴツゴツして乗りにくいぜ」


 「そんなこと言わないでよ。スピードなら私が1番ですよ」



 自慢げにメデューは答える。これは悪い予感しかしない。



 「飛ばしすぎるなよ。俺が乗ってることを忘れるなよ」



 トールさんは不安しかない。


 私は、イディ山の場所を教えてもらったので、一足先に行くことにした。しかしそれが、悲劇の始まりになるとは思わなかった。



 「それでは、私は先に行ってきます。どんなところか先に行って確認してきます」


 「わかったぜ、俺らはのんびりとドラゴンに乗って、空の散歩でも楽しむぜ」


 「それがいいですわ。ドラゴンに乗れるなんて、もう2度とないかもしれないわ」


 「そうね。急ぐ必要もないしのんびり行きましょう。ステンさんゆっくりでお願いします」


 「いいわよ、上空からの景色を存分に楽しんでね」


 「先にいってきます」



 私は、みんなにそう言うとイディ山に向けて、猛スピードで飛んでいった。上空を全力で飛ばすのはとても気持ちがいい。



 「私たちは、のんびりと上空の景色を楽しみましょ」



 3人のドラゴンは静かに羽ばたき上空に飛び上がった・・・・


 もちろん、メデューは・・・



 「ルシスちゃん、はやーーーーい。私も負けるわけにはいかないのよ。トールさんしっかりとつかまっていてくださいね。全力で追いかけますよ」


 「おいメデュー、聞いてなかったのか?俺たちは、のんびりと上空の景色を眺めながらの飛行だぞ」


 「大丈夫ですわ。追いつく自信はありますので、安心してくださいのー」


 「おい、人の話を聞いているか・・・」


 「それでは、行きますよーーー!全力飛行を楽しんでくださいね」


 「だから、こいつには乗りたくなかったんだぜー。俺は死んだかな・・・」



 メデューは、激しく羽根をばたつかせて、ものすごいスピードで私を追いかけてきた。私は、メデューが追いかけてきたのをすぐに気が付いた。しかし、ここで負けるわけにはいかない。私の闘争心に火がついた。私はさらに加速してメデューを引き離す。しかし、メデューも負けてはいない、更なる加速をして私を追い抜こうとする。


 2人の争いはイディ山の麓まで続いた。



 「ヤッタァー。私の勝ちです」


 「やりますわね。ルシスちゃん」


 「メデューこそ、なかなかのものです」



 争いの後に生まれる友情というものが、ここにも生まれた。激しい死闘の後に残るのは、憎しみでなく、お互いを讃え合う美しい友情なのである。


 2人は強く抱きしめあって、お互いの健闘を讃えあったのであった。


 しかし、そのすぐ側には、白目をむいてグッタリと倒れているトールさんがいた。私は、トールさんを、見ないようにそっとイディ山を見上げた。



 「ここに、精霊神のサラマンダーがいるはずです。必ず、ポロンさんが精霊神の加護を受けて、胸を張ってエルフの国へ戻れるようにしないといけないです」



 私は強く決心するのであった。



 「ルシスちゃん・・・・トールさんはどうしますか。ぐったりして起き上がらないよ」



 あなたのせいでしょ・・・と私には言えなかった。私が競争にのってしまったのだから、私にも責任がある。回復魔法で、すぐに治してあげないといけないのだが、怒られるのが怖いのであった。





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