第66話 アトラス山脈にてパート5

 


  このままトールさんを放置するわけにもいかないので、私は回復魔法を使った。



 「う・う・う」


 「トールお姉ちゃん大丈夫ですか」


 「まだ、頭がクラクラするが大丈夫だ。それよりメデューはどこにいる?」


 「メデューなら用事があるから、帰りました」



 私は、メデューにトールさんに怒られるから先に帰るように言った。もしもメデューが余計なこと言って、私にもトールさんの怒りが飛び火するのを恐れたからである。



 「あいつめ。あれほど飛ばすなと言ったのにな。次に会った時は懲らしめてやらないとな」


 「そうですね。次に会った時は私も一緒に怒ってあげます」


 「エーン。エーン。ひどいよルシスちゃん。一緒に競走したのに私だけが悪者になっているよーー」


 「メデュー・・・帰ったんじゃなかったのか?」


 「帰ろうと思ったけど、トールさんのことが心配だったから戻ってきたの」


 「ル・シ・ス・・・・競走とはどういうことだ!!!!」



 やばい・・・バレてしまった。これはなんとか誤魔化さないと。


  

 「トールお姉ちゃん。あれがイディ山です。ここに精霊神がいてると思います」


 「今はそんなことよりも、競走のことが知りたい!」


 

 これは誤魔化すことは難しいみたいである。こうなったらこれしかない。異世界転生者最大級の謝罪方法・・・土下座だ。



 「メデュー、いまから私がする事と同じ動作をしてね」


 「はーい」


 「トールお姉ちゃんごめんなさい。ついつい調子に乗って、メデューと飛行競走をしてしまいました」



 私は土下座をしてトールさんに謝った。メデューは、よく理解していないが同じように土下座をした。



 「なんだ、そのポーズは」


 「これは、私の国で心のこもった謝りかたです。これで許してください」


 「・・・わかったぜ。反省しているみたいだから、許してやるわ」

 

 「ありがとうございます」


 「許してもらえたの?よかったねルシスちゃん」


 「・・・・」



 メデューは、自分も怒られている事をもう忘れているのである。




 少しすると、ロキさんとポロンさんも到着した。



 「メデュー、飛ばしたらいけないと言ったでしょ」



 次はステンさんに、メデューは怒られている。私は知らないフリをした。



 「だって、ルシスちゃんが・・・」


 「ルシスちゃんのせいにしないの」


 「ごめんなさい」


 「ステン、それくらいにしてやってくれ。俺はもう許してあげたし、悪いのはメデューだけじゃないしな」


 「トールさんがそう言うならこれくらいにしとくわ。でも、メデューはまだまだ子供だから、きちんと教育しないといけないわ」


 「メデューは、いくつになるのだ」


 「竜人としては、18歳になるけど、人間の年齢にしたら9歳くらいかな」


 「それなら、ルシスよりも年下になるのか」


 「そうね。だから、悪いことは、きちんと怒って注意してあげないとね」


 「そうだな。ルシスもきちんとした教育が必要だな」



 やばい・・・私に飛び火してしまいそうだ。



 「メデューの事は、そのくらいにしといて本題に入りましょう。



  ロキさんが悪い流れを変えてくれた。



 「そうですわ。やっと念願の精霊神様のいるイディ山に来たのよ。これからどうするか考えましょう」


 「そうだな。それで、これからどうするよ」


 「精霊神に会いに行くためには、この先にある試練の扉から入る事ができるわ。エルフなら、誰でも入る事ができるはずだわ」


 「ステンさんは精霊神様の事は詳しいのですか」


 「アトラス山脈の事はなんでも知っているわ。イディ山は活火山で、絶えず噴火を繰り返す火の山と言われているわ。そして、火の精霊神サラマンダーの住処になっているの。サラマンダーはマグマの中で力を吸収し火の妖精たちに力を与えているのよ」


 「サラマンダーの試練はどんな内容なのですか?」

 

 「残念ながら、試練の内容は極秘になっているのよ。今までに、何人かのエルフが、サラマンダーの試練に挑戦したが一度も突破した者はいないわ」


 「かなり難しい試練なのね」


 「そうだと思うわ。しかし、試練は仲間と一緒に参加できると聞いているわ。みんなの力を合わせれば、突破できるかもしれないわ」


 「それは、嬉しい事ですわ。みんなの協力があれば突破できるはずですわ」


 「え、俺も参加するのか」


 「もちのろんですわ」


 「めんどくせーな」


 「トール!ポロンのためよ。みんなで協力しましょう」


 「はーい。私は協力します」



 精霊神のサラマンダーに会えるなんて、とてもワクワクしてきた。ドラゴンの次は大きなトカゲだ。これぞ異世界って感じがする。



 「はい、はい、わかりました」



 私たちは、ステンさんたちにお礼を言って、イディ山の試練の扉に向けて山を登り始めた。



 「めちゃくちゃ暑くないか」


 「そうだな。火の山と言われるだけの事はあるな」


 「ルシス、暑くないのか」


 「私は、魔法を使っているので快適です」


 「お前だけずるいぞ」


 「トールお姉ちゃんも、魔力で体にシールドを張れば暑さはしのげますよ」


 「そうなのか」


 「はい。魔力シールドは、暑さ・寒さなどを防ぐこともできるのです。しかし、戦闘でのシールドとは異なり、薄いシールドを二層にして張るといいですよ。これで暑さの対処ができます」


 「ルシスは、なんでも知ってるな」


 「小さい頃から、本を読んで勉強していたので魔法の応用は得意です」


 「なら初めから教えてくれよ」


 「教えるの忘れていました」


 「そこはしっかりしてくれないと・・・」



 3人は、私の教えたシールド魔法により、イディ山の暑さに苦しむ事なく、試練の扉にたどり着くことができたのである。

 

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