第280話 ホロスコープ星国 パート57


 ヴァンピーは、屋敷に私がたどり着くのを確認すると、すぐに門の警備に戻った。かなり時間を費やしてしまったが、シーシェとグェイは、ヴァンピーはお腹を下してトイレにこもっている思っているので、深く追求することはないのである。



 「もう大丈夫なの?」



 シーシェは、さらりとヴィンピーに尋ねる。



 「もう、問題ないわ」



 ヴァンピーは、何を心配されているかわからないが、とりあえず無難受け答えをする。



 「そう、それなら安心したわ。あまり変な物は食べないようね」



 シーシェは、ホッとしたように笑みを浮かべていた。シーシェは、これからウルフキングが王都を襲ってくるかもしれない緊急時に、ヴァンピーがトイレに籠られるのは困るのであった。



 「変な物・・・そうね、そうするわ」



 「変な物なんて、フェニちゃんじゃあるまいし食べるわけないでしょ!」と言いたかったが、なんとなく、話が読めてきたので、大人しく話を合わせるヴァンピーであった。



 私がヴァンピーの屋敷にたどり着くと、レオが私の帰りを待っていてくれた。レオは、私が救出されたことを知ると、安心して睡眠を取るのであった。


 パン屋さんの開店時間は9時からである。今はまだ6時なので、まだ時間はあるので、とりあえず、私も眠る事にしたのであった。もちろん、無駄に走らされたスコーピオは、屋敷の玄関で死んだように眠っているのであった。


 私たちがのんびりとヴァンピーの屋敷で寝ている時、シリウス城では大混乱が起きていた。



 「俺の食事はどこだ!」



 アリエルが大声で叫ぶ。



 「俺の食事も見当たらないぞ、どうなっているのだ」



 シリウス城では、『星の使徒』専用の豪華な食堂がある。そこで、ジェミニを筆頭に『星の使徒」が食事をするのであった。今は緊急事態で、タラウスは関所へ、スコーピオは地下牢へ、カプリコーンはカペラの町へ、レオ、キャンサー、サジタリウス、ピスケス、ライブラは緊急任務で不在である。なので、『星の使徒』専用の豪華な食堂には、ジェミニとアリエルしかいないのであった。



 「料理長を呼んでこい」



 ジェミニは血相を変えて、アリエルに言った。


 いつもなら、料理長が食堂に待機して、料理の説明などをするのに、料理長の姿も見えないのであった。



 「わかりました」



 とアリエルは答えるが、内心は、はらわたが煮えくりかえるくらいに、激怒しているのであった。アリエルは非常にプライドが高い男である。『星の使徒』である自分が、なぜ?下等な職業である料理長を、探しに行かなければならないのかと。アリエルは、料理長ならびに料理人は、絶えず食堂に待機して、『星の使徒』の世話をすべきであると思っているのであった。


 アリエルは、ブツブツと文句を言いながら、調理場に向かった。



 「だれもいないではないか!」



 アリエルは、目を見開いて驚いていた。普段なら、調理場には数名の料理人が居て、いつでも、追加の料理を作れるように準備しているのである。それなのに、1人も調理人がいないのであった。



 「パンがないぞ!」


 「こっちにもパンがないぞ!」


 「リンゴジュースもない・・・」



 調理場を挟んで、反対側には兵士たちの大食堂がある。その大食堂で悲鳴のような大きな声が、轟いているのであった。



 「おい!パンもリンゴジュースもないではないか!!!」



 鬼のような形相で、数名の兵士が調理場に現れた。



 「うるさいぞ!」



 アリエルが、兵士を怒鳴りつける。



 「料理人はどこにいる」



 兵士が、『星の使徒』であるアリエルに歯向かうことなど、絶対にありえないのである。しかし、唯一の楽しみである朝食のパンとリンゴジュースがないことに、怒りを抑えることができないのである。



 「俺も探しているところだ!兵士が俺に意見を言うな!!!」



 アリエルはプライドが高い。兵士に文句を言われて、今にもキレそうなのであった。



 「パンがないぞ!」


 「パンをよこせ」



 調理場に次々と兵士が押し寄せてくるのであった。



 「黙れ!!!お前らのパンなどどうでもいい。早く俺の料理を用意するように、料理長を見つけてこい」



 アリエルは我慢の限界がきた。下等な身分である兵士が、自分に向かって文句を言っているので、怒りが頂点に達した。実際には、兵士たちはアリエルに文句を言っているのでなく、調理場にいているだろう料理人に文句を言っているのであるが、お互い料理がなくてイライラしていて、周りが見えていないのであった。



 「俺たちにとって、パンとリンゴジュースは大切なものだ!お前が料理長を見つけてこい!」



 兵士たちは、楽しみしていたパンとリンゴジュースがなくて、理性を失いかけている。今まで、奴隷のように扱われていたが、食事だけは、おいしい物が用意されているので、我慢できていた。しかし、その最後の砦までもが奪われてしまったので、怒りが爆発したのであった。



 「俺に抵抗するのか?俺は『星の使徒』だぞ。お前らが束になってかかってきも勝てる要素はないぞ」



 アリエルは兵士を鋭い眼光で睨みつける。



 「俺たち全員を殺す気か!できるものならやってみるがいい」



 食堂から、ほぼ全員の兵士たちが、調理場に押し寄せている。そして、全員がアリエルを睨みつけて、対峙しているのであった。



 「お前ら本気なのか・・・」



 アリエルはビビっている。流石に兵士全員を相手にするのは危険であった。



 「俺たちは本気だ。おいしいパンとリンゴジュースがないのなら、お前の指示には従わない」



 兵士たちは、アリエルと戦う覚悟を決めたのであった。



 「お前ら・・・必ず後悔させてやるぞ」



 そう言うと、アリエルは食堂の窓から、空を飛んで逃げたのであった。ちなみにアリエルの『ゾディアックサイン』の能力は『空とぶ羊』である。アリエルは『空とぶ羊』の能力を使って、、空をプカプカと浮かびながら、王都の門を守っている王国魔法師団に、助けを求める事にしたのであった。

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