第433話 スカンディナビア帝国編 パート21
「しかし、2号は1号と違って口がかなり悪いぜ」
「トール、あなたは人のことは言えないわよ」
「俺はTPOは弁えているつもりだぜ。それに比べて2号は何も考えていないぜ」
トールさんが腕を組んで小ルシス2号を睨みつけるが、他のメンバーはどちらも似たようなものだと思っていた。
「口だけは達者なトールさん。私は嘘偽りのない真実を述べているだけです。なので、口は悪くはありませんし、TPOも弁えているのです」
負けじと小ルシス2号は言い返すが、すぐに私は小ルシス2号の口を塞いだ。
「私が辺境にあるソイビーンの町へ行って、カレン様の状況を確認してきます」
「ルシスちゃん、お願いするわ。カレン様が無事でしたら、私たちも無事であることを伝えて欲しいわ。そして、私たちでスカンディナビア帝国を正常の状態に戻すと伝えてくれるかしら」
「わかりました」
「ルシスちゃん。カレン様に会ったらアルフヘイム妖王国の第3王女がロキの支援に回ったと伝えてくれるかしら」
「わかりました」
「『オリュンポス国』もロキさん達の支援をすると伝えてくれるかしら」
「わかりました」
「ルシス。小ルシス2号も連れて行ってくれ。こっちは1号がいてくれたら問題はない」
「モゴモゴ・モゴモゴ」
小ルシス2号は必死に何か言いたそうだが、私が強く口を塞いでいるので何も言えない。
「わかりました。2号ちゃんは私が責任を持って管理します」
小ルシス2号は、トールさんから戦力外通告受けて私と一緒にソイビーンの町へ行くことになった。私は肩に小ルシス2号を乗せて飛び立った。
「胃袋お化けの言うことも正しと思います。私以外でルシスお姉様と対等にパートナーを組める者なのでいないのです。良い判断と思います」
小ルシス2号は自分が戦力外になったとは微塵も感じていないのである。
私は、かなり早めのスピードで空を飛んでいると下の方から何やら騒がしい声が聞こえた。
「マグニはどこだ!」
「こいつは偽物です」
「こいつも偽物です」
マグニの『分身』能力は自分と全く同じ姿をした10人の分身を作り出すことでき、その10人の分身の中にどれでも自由に出入りできる能力なのである。なので、マグニを捕まえるには10人全てのマグニを捕まえないといけないのである。
「マグニを10体見つけるのだ!あいつの能力はどの分身体にも移動可能なのだ」
マグニの能力を知っているビューレイストは、大声を出して騎士たちに命令を出す。
「ヘカトンケイル様、なぜ、キュクロプス様はロキ達の元へ戻ったのですか?」
「マグニを逃したのは確実にロキのはずだ。だから制裁を与えてに行ったのだろう」
「ロキを殺すのですか?」
「俺たちの邪魔をする者は誰であろうと許しはしない。もしマグニを取り逃したらお前も命はないと思え」
ヘカトンケイルの大きな二つの目がビューレイストを飲み込むようにギョロリと睨みつける。
「ヘカトンケイル様は、私たちに協力をしてくれるのではないのですか?魔王の降臨の儀式はアーサソール家を生贄に差し出せば問題ないはずです。なので、ロキの命は助けてもらえないでしょうか?」
ビューレイストは、体を小刻みにして震えながらもロキさんの命を助けてもらえるように懇願する。
「『神の血縁』者なら誰でもいいのだ。お前ら4人を生贄に差し出せば、俺たちの悲願である神への復讐を果たせたはずだったのだ。ロキがマグニを逃したせいで俺たちの計画は延期になってしまったのではないか」
ヘカトンケイルは、無数ある腕の中から大きな槍を持つ腕を振りとして、ビューレイストの目の前の地面に突き刺した。
ビューレストは、あまりの恐怖で腰を抜かして座り込む。
「た・た・助けて・・・ください」
ビューレイストは座り込んだまま命乞いをした。
「早くマグニを見つけ出せ。それまでは生かしてやろうではないか」
「そ・・ん・・・な」
結局は殺されると知ってビューレイストは絶望した。ビューレイストの『能力』は姿を消し去ることができる『透明』である。『透明』になれば逃げることは可能なのだが、今は絶望感でそのことさえ考えることができない状態なのであった。
「ルシスお姉様のメロンパン屋の名前を読んだのあなたかしら」
「そ・・んな」
「メロンパン屋『ソンナ』に何か御用ですか?」
「そ・・ん・・・な」
ビューレイストは、絶望感で周りが全く見えていないので小ルシス2号に気づかない。
「あのーー!メロンパンが欲しいのですか?『ソンナ』は『オリュンポス国』のラディッシュの村にあります」
小ルシス2号は大声で叫ぶが、恐怖状態で思考が停止したビューレイストには何も言っても聞こえない。
「2号ちゃん!いきなり飛び出したらダメじゃないのよ」
野次馬根性丸出しの小ルシス2号は、騒がしい地上の方に興味が湧いて、私の肩から飛び降りて地上の方へ飛んで行ったので、私は慌てて追いかけたのである。
「この間抜けな顔をした方が、『ソンナ』に行きたいと言っているのです」
小ルシス2号は真剣な表情で私に訴える。
「そんな・・・そんな・・・」
放心状態のビューレイストは、とても小さな声で「そんな」という言葉を連呼している。この状態はどこかで見覚えがある・・・・そうだ!私がメロンパン屋の名前を『魔王様の鉄槌』にしようとしたら、ディーバ様に却下された時と同じような状況である。・・・とくだらないこと考えていた私の背中に大きな槍が降り注いできた。
「お前は何者だ!」
ヘカトンケイルは地鳴りがするような大きな声で叫んだ。
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