第85話 パーシモンの町パート5



 カチンカチン山に住むタヌキングは、体長5mもある大きな狸の魔獣である。炎属性の魔獣で、炎を自在に操り、カチンカチン山を炎の山に変えている。カチンカチン山の木は消えることのない炎の葉で覆われて、タヌキングが自在に炎の葉を操り、山に登ろとする冒険者目掛けて攻撃してくるのである。タヌキングの討伐難度はC1であり、この国では最高難度の魔獣と言われている。


 しかし、タヌキングの討伐難度がC1なのは、タヌキングの強さもあるのだが、さらに配下であるモエタヌキの存在もある。


 モエタヌキは、討伐難度はFとかなり低いが、その愛くるし黒い大きな瞳で、冒険者を誘惑しふさふさの茶色い毛並みで冒険者の心も体も癒してくれる。一度モエタヌキの魅了に誘惑された者は、本来の目的を忘れて、モエタヌキと共に森で楽しく過ごして山を降りて行くのである。



 「タヌキングにモエタヌキ軍団か・・・かなりの強敵だな」


 「そうですね。モエタヌキの誘惑に勝てる自信がないわ」


 「モエタヌキの可愛さは、どんなに高ランク冒険者でも勝てないと言われているみたいよ」


 「私がいるから安心するといいわ。サラマンダーより可愛い生き物なんて、いるわけないのだから」



 サラちゃんは、可愛いいと思うけどサラマンダーの姿は余程の爬虫類の好きな人しか可愛さがわからないと思ったが、ここはあえてスルーしておこう。


 しかし、私には、タヌキング・モエタヌキよりも、あの子の事が気になって仕方がない・・・・またあの子が、とんでもないことをやらかしていないことを祈ろう。



 私たちが、カチンカチン山にたどり着くと、思っていた感じとは違っていた。燃え盛る木などはなく、普通の穏やかな山であった。私たちの得た情報は間違っていたのであろうか・・・



 「全然燃えて、ないじゃないか」


 「そうですわ。聞いていた感じとは違いますわ」


 「そうだな・・でも気をつけろ、いつ攻撃を仕掛けてくるかわからないぜ」


 「私に、おそれをなして逃げたのですわ。さあ進みましょう」



 早くマグマ石を手に入れたいサラちゃんが、先を急ぐのであった。



 「待て、サラ、モエタヌキもいるし慎重に行動しろ」


 「問題ないですわ。私の可愛さに嫉妬し、モエタヌキ軍団は白目を剥いて倒れていますわ」


 「そんなことないだろ・・・・・」


 「どうなっているのかしら」


 「これはどういうことだ」



 私たちが、山を登っていくと、そこには、とても可愛らしいモエタヌキが、目を白くて倒れていた。倒れている姿も、とても愛くるしくて萌え萌えしてしまうのである。


 

 「きゃーかわいいーーー」



 ポロンさんが、倒れているモエタヌキを、ぬいぐるみのように抱き抱える。


 ポロンさんは、魅了にかかったわけではなく、本当に可愛くて抱き抱えているみたいである。



 「ここで何があったんだ」


 「私たちより先に、誰かがここを訪れたと思いますわ」


 「それにしても、こんなに可愛いモエタヌキに、容赦なく攻撃できるのヤツは一体何者なんだ」


 「そうね。私には無理かもしれないわ」


 「そんなの楽勝よ。私なら秒で片付けてあげるわ。それよりも、早くマグマ石を食べに・・・取りに行きましょう」



 確かに、早くマグマ石を取りに行かないと、危ないかもしれない。もしモエタヌキを倒した犯人が、あの子なら、マグマ石を残さずに全部持っていくはずだから。



 私たちは、モエタヌキを抱きしめて離さないポロンさんを、無理矢理に引っ張って山頂を目指した。


 山頂にたどり着くと、そこには、モエタヌキ同様に、白目をむいて倒れているタヌキングがいた。



 「タヌキングまでも、倒されているわ」


 「一体誰の仕業なんだ・・・タヌキングは、討伐難度C1の魔獣だぜ。こんな簡単に倒せる冒険者などいるのか」



 「可愛いね。可愛いね」



 ポロンさんは、新たなモエタヌキを大事に抱きしめている。恐るべし、モエタヌキの可愛さである。


 

 「そんなことより、マグマ石を探さないといけませんわ」



 サラちゃんの言う通りである。私たちは、タヌキングを討伐しに来たのでなく、マグマ石を取りに来たのである。



 「マグマ石は、どこにあるのだろう」


 「そんなのタヌキングに、聞けばいいのよ」



 サラちゃんは、倒れているタヌキングを、乱暴に揺すって無理やり目を覚まさせた。



 「勘弁してくれーーー。好きなだけマグマ石を、持って行っていいからもういじめないでくれ」


 「やったぁーー。好きなだけ持って行ってもいいみたいよ。タヌキングさん、どこにマグマ石はあるのですか」


 「そこの洞穴が、俺の寝床になっている。そこにたくさんあるはずだ」


 「ありがとう。私が全部もらってあげるわーー」



 サラちゃんは、疾風のごとくタヌキングの洞穴に入っていった。



 「サラ、待て、全部持っていくなよ」



 トールさんが、慌てて追いかけて行った。このままでは、サラちゃんが、マグマ石を全部持って行ってしまいそうである。


 洞穴に入った2人がなかなか出てこない。何かあったのだろうか・・心配になった私とロキさんは、洞穴に入って行った。もちろんポロンさんは、モエタヌキを抱いて癒されている最中である。


 洞穴に入ると、そこはとても大きな、空間になっていた。体長5mのタヌキングが、生活しているのだから当然のなのかもしれないが、想像以上に広くてビックリした。あたりは、タヌキングの魔法の効力で、至る所に灯りがあり全体を見渡す事ができる。


 洞穴の奥に、サラちゃんとトールさんが見えた。



 「えーーーん。えーーーん」



 サラちゃんが、泣いている。何かあったのだろうか・・・



 「えーーーん。えーーーん」


 「サラ、泣いても仕方ないぞ」


 「だって、私のマグマ石がどこを探してもないのよーー」


 「お前のじゃないだろ」


 「全部くれるって、タヌキングが言ってたもん」


 「そういう意味じゃないだろ」



 マグマ石は、全て持ち去られた後だった。モエタヌキ、タヌキングを倒した人物が、持って行ったのだろう。


 私の心配していたことが、的中してしまったのであった。


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