第86話 パーシモンの町パート6

  


 マグマ石が、全てなくなっているので、何があったのかタヌキングに聞いてみる事にした。タヌキングは、よほど恐ろしい目にあったみたいで、ガクガクと震えている。



 「タヌキング、洞穴には、マグマ石はなかったぞ。どうなっているのだ」


 「うーーー、うーーーー」


 「トール、タヌキングが怯えているわよ。もっと優しく言わないとダメよ」


 「わかったぜ、おいタヌタヌ、マグマ石はないのだがなぜなのかなぁ〜」


 「うーーーー、うーーーー」


 「トールさんでは無理みたいですわ。私に任せてよ」


 

 マグマ石がなくて、かなり不機嫌なサラちゃんに任せて大丈夫なのか心配である。



 「タヌキさん。私のマグマ石がないのよーー。どこに隠したのよーーー」


 「うーーーー、うーーーーー」


 「何を言っているのよーーー。私のマグマ石はどのなのよーーー」



 サラちゃんは、怯えて話せないタヌキングにイライラしてきた。サラちゃんは、タヌキングに目掛けて炎を吐き出した。



「私のマグマ石はどこなのよーーー」



 サラちゃんの吐き出した炎は、タヌキングの頭をかすめて、タヌキングの鋼のように硬い体毛が一瞬で燃え尽きた。


 

 「・・・勘弁してくだい。マグマ石は、さっき来た女の子が全部持って帰ったのだと思います」


 「どんな女の子がマグマ石を持っていったのですか?」


 

 私には、犯人は分かっているが確認の為に聞いてみた。



 「白い長い髪を、左右に結んだ小柄な女の子です・・・」



 白髪のツインテールの女の子・・・・やっぱりクラちゃんだ。『世界の絶品珍味大事典』には、マグマ石のことはもちろん書いてあった。クラちゃんは、今はグルメツアーをしているのに違いない。クラちゃん相手では、モエタヌキもタヌキングも敵うわけがない。



 「そいつは、メデューからミスリル、奪ったヤツじゃないのか」


 「そうですわ。また先にやられてしまいましたわ」


 「その子は、一体何者なのよ!私のマグマ石を奪うなんて絶対に許さないわよ」



 サラちゃんは、タヌキングを睨みつける。よほどマグマ石を食べたかったのであろう。


 

 「マグマ石なら、この先にある火口の奥深くのマグマ溜まりに行けば、まだあると思います。僕は火口から噴火されたマグマ石を集めていますが、火口の奥深くに行けるなら見つける事ができると思います」



 サラちゃんの睨みにビビったタヌキングは、少しでも、サラちゃんのご機嫌を取ろうと必死であった。



 「本当なの」


 「はい。この山は、他の火山と違い甘火山です。なので、マグマ溜まりで熟成されたマグマ石があると思います」


 「それなら私が行ってきますわ」


 「しかし、マグマ溜まりは鋼をも溶かす高温地帯です。入れる者はいないと思います」


 「何を言っているのよーー。私は、火の聖霊神サラマンダーよ。私にとって炎は心地い風みたいものよ」



 そう言うと、サラちゃんは、サラマンダーに変身して火口からマグマ溜まりへと向かった。



 「初めて、サラが役に立ちそうだな」


 「そうですね。私たちでは火山の火口から中へ入るなんて不可能ですわ」


 「でもあの食いしん坊のことだ。全部私の物と言い出すかもしれないぜ」



 確かにサラちゃんならその可能性は高い。でも私達はサラちゃんを信じる事にした。



 「トールお姉ちゃん。サラちゃんを信じましょう」


 「そうだな・・・ルシス。あいつを信じてみるか」



 10分ほど経過しただろうか・・・火口から、ものすごい勢いでサラマンダーが飛び出してきた。そして、そのまま飛んで消えて行ったのである。



 「・・・」


 「・・・」


 「・・・」


 「・・・」



 私たち4人は唖然として声が出なかった。サラちゃんを信じた私達がバカであった。



 「これからどうする」


 「明日召喚して、マグマ石をもらうのはどうですか」


 「あの食いしん坊が残していると思うか」


 「・・・」


 「イフリート、サラと連絡は取れないのか」


 「サラマンダー様からは私には連絡は取れますが、私の方からは無理でございます」


 「他にないのか、タヌキングに聞いてみるしかないぜ」


 

 私たちは、タヌキングに他にマグマ石はないか確認したが、やはり、もうないとのことだった。なので、マグマ石は諦めて、コチンコチン山に向かう事にした。氷河石は食べる事はできないので、クラちゃんも手を出していないだろう。やっと冒険者らしくアイテム集めができることを私は願っている。


 カチンカチン山を降りると、すぐ向かいにコチンコチン山が見える。コチンコチン山には、ウサクイーンという水・氷属性の魔獣が住み、魔力で全ての木の葉を凍らせている。なので、コチンコチン山は氷の山と化している。


 コチンコチン山には、キュンウサギという、ウサクイーンの配下の魔獣が生息している。モエタヌキ同様に、可愛らしい大きな赤い瞳と、白くてフサフサの毛並みで、見るものをキュンキュンさせて、なぜ?山に入ったのか理由を忘れて、キュンウサギの虜になってしまうのである。虜になった冒険者はとても心を癒やされて、目的を忘れて山を降りて行くのである。




 「あれがコチンコチン山か、噂通りの凍った山だな」


 「そうですな。カチンカチン山と違って、今度は気を引き締めて登らないとね」


 「そうだな。ポロンは特に、キュンウサギには気をつけろよ。カチンカチン山でも、ずっと、モエタヌキを肌身離さずに抱えていたからな」


 「そんなことありませんわ。あれは、傷ついていたから治療をしてあげただけよ」


 「なら、なんで、コチンコチン山を降りる時に、大泣きしてモエタヌキに別れを告げたんだ」


 「それは・・・友情が芽生えたからよ」



 モエタヌキ、キュンウサギの魅了の能力は、魔獣を見てかわいいと感じてしまったら、その心につけ込んで魅了されてしまう。なので、決してかわいいと感じてはいけないのである。ちなみに、ポロンさんは、モエタヌキに魅了されたのではなく、本当に可愛くてずっと抱きしめていたのであった。


 私たちは、防御シールドを張って、寒さ対策をしてからコチンコチン山に入った。まわりの木々は、全て凍っていて、氷の世界に迷い込んだみたいである。地面も凍り付いていて、気を抜いてしまうと、滑って転んで怪我をしてしまいそうである。


 凍り付いた地面では、かなり戦闘はやりにくそうである。しかし、キュンウサギは魅了しかしてこないので、戦うことにならないので問題ないと思われる。


 山も中腹くらいに差し掛かっと時に、キュンウサギがぴょんぴょんと跳ねて現れた。


 白い美しい毛並みに、可愛らしい赤い大きな瞳。長くて綺麗な二本の耳。そして、ぴょんぴょん跳ねるかわいい姿。普通の人なら一瞬で魅了されてしまいそうである。


 しかし、前もって分かっていれば問題はない。かわいい姿を見なければいいのである。うさぎごときの可愛さで私の心が負けるわけがないのである



 「ルシス・・・・・」



 しかし、初めにキュンウサギに飛びついて抱きしめに行ったのは私であった。だって・・・めちゃくちゃ、かわいいんだもん・・・


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