第87話 パーシモンの町パート7

  


 「ルシスが、キュンウサギの虜になってしまったぜ」


 「ルシスちゃんが、最初の犠牲者になるなんて・・・どうしましょう」


 「3人で力を合わせて、キュンウサギを退治しないとな・・・・おい、ロキがいないぞ」



 最初に、キュンウサギの魅了に負けたのは私だったが、そして、次に魅了されたのは、ロキさんだった。ロキさんは、いつもは冷静で、落ち着きのないトールさん・ポロンさんを影から支える立派なリーダーなのだが、実は、小動物が大好きなのであった。モエタヌキの時も、ポロンさんが、モエタヌキを抱きしめている姿を見て、とても羨ましく思っていて、自分もモエタヌキを抱きしめたい気持ちをすごく我慢していたのであった。


 ロキさんは、キュンウサギのピョンピョン跳ねる姿を見て、もう自分の気持ちに嘘をつく事はできなかった。私が真っ先に、キュンウサギを抱きかかると同時に、ロキさんもキュンウサギに向かってダッシュをして、キュンウサギの楽園へダイブしたのであった。


 

 「あそこにロキがいますわ。キュンウサギに囲まれて、楽しそうにはしゃいでいますわ」


 「ロ・・・キ・・・お前まで、キュンウサギの虜になってしまうなんて!」



 いつもなら、ポロンさん・トールさんが何かをやらかして、私とロキさんで解決するのだが、今回は逆になってしまった。あの2人に任せても大丈夫なのだろうか・・・私は不安でしかない。



 「トールどうしますか?キュンウサギを、イフリートの力を使って丸焦げにしてあげましょうか?」

 

 「おい、おい、それは可哀想だろ。あんなにかわいいウサギちゃんを丸焦げにするなんて・・・」



 トールさんは、イフリートの力で丸焦げにされるキュンウサギを想像したら、可哀想でそんなことできるはずはなかった。そして、トールさんは、心の中で思ってしまった。キュンウサギがかわいいと。


 キュンウサギの魅了は、心の中でかわいいと思ってしまったら、その心に忍び込んでくるのである。しかし、ピョンピョン跳ねる愛くるしいキュンウサギを見て可愛いと感じない人などいないのである。



 「トーーーール」



 ポロンさんが、悲痛な声で叫ぶ。


 トールさんは、風魔法で勢いをつけ、キュンウサギ目掛けてジャンプした。キュンウサギが、数十匹集まりトールさんを、胴上げするかのように柔らかい白い体でトールさんを迎え入れた。


 トールさんは、愉悦の表情を浮かべながら、キュンウサギの群れの中へ埋もれていくのであった。



 「イフリートどうしましょう。3人とも、キュンウサギの魅了に負けて、楽しそうにキュンウサギと戯れていますわ」


 「ポロンさんは、大丈夫なのですか」


 「大丈夫ですわ。私の鋼の心は、あんなウサギの魅了なんて通じませんわ」


 「さすが、私の主人様。尊敬いたします」



 実はポロンさんはウサギが大嫌いであった。なぜかというと、それは、ポロンさんは、食べること飲むことがとても大好きであるが、しかし、ポロンさんにはどうしても食べれない物があった。それは人参である。人参だけはどんなに頑張っても食べることができないのであった。


 そのため、人参が好きなウサギを見ると、ウサギが人参に見えるのであった。なので、決して鋼の心など持っていない。どちらかと言うと豆腐の心である。しかも絹ごしの方である。



 「丸焦げにして、殺すのは流石に可哀想だから、こんがり焼く程度にしてあげましょう」



 キュンウサギは、人には危害を加えない。ただコチンコチン山に登らせないように、魅了するだけである。



 「わかりましたポロンさん。私の力で、キュンウサギをこんがり焼いてみせましょう」



 そう言うと、イフリートは詠唱を始めた。



 「熱き衣を纏いし者よ、豪炎なる灯火を、其方への罰として、この英雄たるイフリートの名の下で、永劫なる灼熱の炎により、全てを焼き尽くしたまえ・・・爆連炎上波」



 イフリートの小さな炎の体から、無数の炎の玉が現れる。そして、その炎の玉がキュンウサギに向かって放たれる。


 あたり一帯のキュンウサギが、一瞬で黒焦げウサギになってしまったのであった。


 イフリートは、炎の玉の熱さを弱火にしていたため、キュンウサギは、赤い目が白目になって、意識を失って倒れただけで、死んではいなかった。



 キュンウサギが意識を失ったことで、魅了されていた3人は正気を取り戻し、イフリートのところへ駆け寄ってきた。



 「イフリート何をしている。キュンウサギが可哀想じゃないか」


 「そうだぞ。あんなに綺麗な白い毛並みが真っ黒じゃないか・・・・いや、これはこれで可愛いぞ。よくやったイフリート。グッジョブだ。しかし、やりすぎだぞ」


 「キュンウサギが可哀想です」



 イフリートはその後、私を含め3人に1時間くらい説教されたのであった。キュンウサギの魅了が抜けても3人のキュンウサギへの愛は変わらなかった。


 1時間後、イフリートは3人に何度も謝罪してやっと許してもらったのであった。一方ポロンさんは、「私は反対したのよ」と言って責任を逃れたのであった。


 ポロンさんは、次の日、イフリートに高級なお酒をプレゼントしたのは、そういう事情があったからである。



 話しを戻そう。



 キュンウサギの魅了から解放されたが、黒焦げウサギに、また心を奪われかけた3人であったが、心を鬼にしてその場を離れ、コチンコチン山の山頂を目指すことにした。


 


 頂上にたどり着くと、そこは氷山のように全てが凍っている。防御シールドを張っていないと、瞬時に凍り付いてしまうほどの極寒の地であった。そして、氷の岩の隙間から、大きなウサギの姿が現れた。あれがウサクイーンなのであろう。


 体長は3mで、全身の毛が氷柱で出来ている。大きな長い耳は、毛布のようにフワフワだ。そして、頭には、氷のティアラを乗せて少し可愛げがあるがかなり獰猛な魔獣である。ウサクイーンの討伐難度はC3である。



 「あれが、ウサクイーンか・・・やばそうだな」



 トールさんは後退りした。



 

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