第88話 パーシモンの町パート8
「足元が凍っていていにくそうだな。イフリートの力で溶かしてもらおうぜ」
「それが良いね。ポロン任せたわよ」
「もちろんですわ。イフリート、先程の魔法でこの凍りついた大地を、一瞬で緑の大地に変えてちょうだい」
「・・・・」
「イフリート聞いてるの?この凍りついた大地を一瞬で緑の大地に変えてちょうだい」
「・・・・」
「ダメみたいだわ。先程の説教でいじけてしまって精印から出てきませんわ」
「はぁーー、サラといいイフリートといい大事な時に使えない精霊だな」
「申し訳ないわ・・・私の力不足ですわ」
今回のイフリートの件については、ポロンさんのせいでもある。イフリートに全ての責任をなすりつけて、自分は知らないフリしてしまったからである。だからポロンさんは少し責任を感じているのであった。
「仕方がない。私の剣で氷の大地を溶かすわ」
ロキさんは、魔力を剣に注ぎ込む。灼熱の炎をまとった剣をロキさんは大きく振りかざす。
「ファイヤーバード」
ロキさんの振りかざした剣から、大きな火の鳥が現れて大地の氷を溶かす。
「私も手伝いますわ。高速無限連射砲」
ポロンさんは、高速で弓を撃ちまくる。それは、火の豪雨のように氷の大地を降り注いだ。
ロキさんとポロンさんの攻撃により、氷の大地は、完全に溶けて緑の大地に戻ったのであった。
「これで、足場は大丈夫だな。俺から攻撃を仕掛けるぜ」
トールさんが、動くより先に岩影に潜んでいたウサクイーンが攻撃を仕掛けてきた。ウサクイーンは、自慢の跳躍で岩を飛び越え、トールさん目掛けてドロップキックをした。なんて身軽な魔獣なのであろう。
不意をつかれたトールさんだったが、体を背中の方へ90度曲げて、ドロップキックをかわす。体の柔らかいトールさんならではの避け方だ。体の硬い私には出来ない芸当である。
ウサクイーンのドロップキックは、空振りして地面に大きな穴をあける。その穴にいるウサクイーンにむかって、トールさんは、得意の風魔法で加速して、ハンマーをウサクイーンの頭に叩きつける。
「カチーーン」
ウサクイーンの頭の硬さで、ハンマーを叩きつけたトールさんの手に痺れが走る。
「これは硬すぎるぜ、手が痺れて力が出ないわ」
トールさんは一旦退いた。
「俺では、相性が悪いわ。ウサクイーンは明らかに、水・氷属性だ。炎属性のロキとポロンのがいいだろう」
「わかったわ。私に任せて」
ロキさんは、灼熱の剣をかまえる。背後でポロンさんが弓をかまえて、いつでも援護できる体制をとる。
ウサクイーンは、穴から飛び出てロキさんのに向けて冷たい吐息を浴びせた。ウサクイーンの口から大きなハート型の氷が勢いよく飛んできた。
危険を察知したポロンさんが炎の矢を放つ。イフリートは拗ねていたが、パーティの危険を察知して、ポロンさんに精霊神の加護の力を与える。炎の矢は、マグマの矢に変わり高速でハートの氷を射抜く。ハートの氷は一瞬で燃え尽きる。
ロキさんが灼熱の剣でウサクイーンを斬りつける。ウサクイーンの大きな耳が伸びて、剣を受け止める。
硬いウサクイーンの氷柱の毛の体も、ロキさんの灼熱の剣にはびびっているみたいである。
ウサクイーンは、大きな耳で、ロキさんを剣ごと吹き飛ばす。
吹き飛ばされたロキさんだが、ポロンさんが、受け止めて落下衝撃を食い止めた。
「なかなかの強敵ですわ」
「そうだな。あの耳は、自在に伸びて手足のように動かせるみたいだぜ」
「そうみたいですわ。でも私のマグマの矢で、粉砕してあげてみせるわ」
ポロンさんが、マグマの矢を連射する。炎の矢の数十倍の熱を持ったマグマの矢が、ウサクイーンに襲いかかる。ウサクイーンは凍てつく吐息を吐き出した。
凍てつく吐息は、冷たい吐息の数十倍の冷たいハート型の氷である。しかし、マグマの矢を防ぐことができず一瞬でハート型の氷は溶けてしまう。
危険を感じたウサクイーンは、ピョンピョン跳ねてマグマの矢を回避する。
マグマの矢に、気を取られているウサクイーンの背後にロキさんが回り込む。ガラ空きの背中に向けて、ロキさんは灼熱の剣を振りかざす。
「キュン、キュン」
背中を斬りつけられたウサクイーンは悲鳴をあげる。ロキさんは、あまりにかわいい悲鳴だったので、追撃の手を緩めてしまった。
「おいおい、あの泣き声は反則だろ」
トールさんもウサクイーン悲鳴にときめいてしまった。
しかし、ポロンさんは全然動じない。悲鳴をあげているウサクイーンに目掛けて、マグマの矢を打ち込む。
「キュン、キュン、キュン」
ウサクイーンは悲鳴を上げながら、マグマの矢を長い耳で撃ち落とす。しかし、マグマの高熱でウサクイーンの耳は焦げていく。
マグマの矢から、逃げ惑うウサクイーンの頭から、氷のティアラがズレ落ちた。
その時・・・・
ウサクイーンの体はみるみる小さくなっていく。
「どうなっているのだ」
「頭のティアラが落ちたら小さくなりましたわ」
「キュンウサギがティアラをつけたら、ウサクイーンに進化するのかもしれないわ」
「多分そうですわ。ウサクイーンは今はキュンウサギになっていますし」
「そう言えば・・・ルシスはどこだ」
「あそこにいますわ」
私は、ウサクイーンの戦闘は参加せずみんなの戦いを見守っていた。今回は、みんなの成長を分析するためではなく、あんなにかわいいウサクイーンを私は倒すことはできない。
私は、みんながウサクイーンを倒して氷河石をゲットしてから、町へ戻りたい気持ちもあるのだが、それなのに心のどこかでウサクイーンを応援していた。
そして、ウサクイーンのティアラが落ちて、ウサクイーンがキュンウサギになったその時、私は何の躊躇いもなくキュンウサギの元へ駆け出して行ったのであった。
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