第180話 倭の国パート21



 「織田将軍大変です」



 柴田敗家が血相を変えて織田将軍の元へ駆け寄ってきた。



 「そんなに慌ててどうしたのだ!」


 「魔獣が現れました」


 「魔獣だと!!どうやってこの柿山の町へ入ってきたのだ」


 「わかりません。急に柿山城から魔獣が現れたのです」


 「この城からだと!妖狐様、この柿山の町で何が起こっているのですか?」


 

 織田将軍が妖狐に尋ねる。



 「わかりません。どんな魔獣が現れたのですか?」


 「8つの頭をもつ大きな蛇の魔獣です」


 「八岐大蛇ですね・・・」


 「妖狐様、八岐大蛇をご存知なのですか?」


 

 織田将軍が妖狐に尋ねる。



 「八岐大蛇は8つの頭をもつ大きな蛇の魔獣です。いくら頭を切り落としても、頭が再生する不死の魔獣と言われています。八岐大蛇を倒す方法は1つだけです。八岐大蛇が、どこかに隠し持っている草薙の剣で全ての頭を切り落とすことです」


 「草薙の剣がないと倒すことはできないのですね」


 「そうです。しかしもう1つ手段はあります」


 「教えてください」


 「封印するのです。100年ほど前にも八岐大蛇が現れたことはあります。その時は、私の師匠である九尾の狐様が、自身の全て妖力を使って封印する事に成功しました」


 「それでは、今回は妖狐様が封印してくれるのですか」


 「それは難しいです。私の妖力では八岐大蛇を封印するのは無理なのです」


 「それならどうしたらよいのでしょうか」


 「これだから、妖怪はあてにならないんだよ」



 柴田敗家が悪態をつく。



 「柴田、失礼だぞ」


 「しかし、こんな時のために妖怪がいるんだろ。外では、蛇の化物が暴れているみたいだ。なのに対処できないとはどういうことなんだ」


 「俺が倒してきてやるぜ」



 柴田の言葉にカチンときた酒呑童子が柿山城から飛び出していった。



 「織田将軍、私も外に行って状況を確認してきます。草薙の剣さえ見つける事ができれば、八岐大蛇は倒せます」



 妖狐は酒呑童子を追って外に出た。



 「妖怪と魔獣で殺し合ってくれたらいいのだ」



 柴田は笑いながら言った。



 「柴田、妖怪様のことを悪く言うのではない。今まで俺たちを守ってくれていたのだぞ」


 「俺は今まで我慢していたんだあんな気持ち悪い妖怪と暮らしていることを。魔獣を追っ払ってくれるから仕方なく倭の国へ住まわせていた。しかし織田、外を見てみろよ」


  

 織田将軍が柿山城から、町の様子を見ると柿山の町が炎で包まれていた。



 「あの蛇の魔獣相手に妖怪は全く歯が立たない。妖怪達は魔獣を倒すことができないから、町民達を逃すことで必死で、俺の大事な屋敷は燃え尽きてしまったぞ。よく考えてみろよ!町民より俺の屋敷のが大事だろ。そう思わないか織田!」


 「それがお前の本心なのか!」


 「ああ、そうだ。どうせあの魔獣に倭の国は滅ぼされるのだ。最後くらい言いたいことは言わせてもらうぞ」


 「好きなだけ言いたいことを言えばいい。だがお前は侍だろ?侍ならば妖怪様に助けを求めて、城に逃げるのでなく町民のために命をはれ」


 「城でふんぞり返っているお前には言われたくないな」


 「俺は今から妖狐様と一緒に戦いに行く。お前は怯えながら城の中で震えているんだな。秀凶、行くぞ」



 織田将軍は妖狐を追って城から外に出た。しかし秀凶はついて来なかった。


 外では、町の護衛役の鞍馬天狗の天狗部隊と酒呑童子の率いる鬼の部隊が八岐大蛇と戦っていた。



 「妖狐様、私も助太刀いたします」


 「織田将軍ここは危険です。すぐに柿山の町から逃げてください」


 「いえ、私も共に戦います」


 「織田将軍気持ちは嬉しいですが、この状況を見てください。妖怪達でも八岐大蛇に太刀打ちできずに炎に焼かれて死んでいます。人間のあなたは邪魔になるだけです」


 八岐大蛇は8本の口から炎を吐いて柿山の町を燃やし尽くしている。八岐大蛇の進行を防ごうと、天狗達は団扇で大きな竜巻を作るが、八岐大蛇の強大な炎を防ぐことができずにいる。



 「八岐大蛇よ、俺が相手をしてやる」



 酒呑童子が八岐大蛇の前に立つ。



 「鬼ごときが、俺に勝てると思っているのか」


 「星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子、一斉にかかれ」


 「よっしゃー」



 酒呑童子の配下の鬼の四天王達である。



 4体の鬼が八岐大蛇に襲いかかる。8本の頭は、鬼に向かって炎を吐きつけるが、炎の合間を潜って、八岐大蛇の頭を金棒で殴りつける。



 「ぎゃーーー」


 

 八岐大蛇の頭が砕ける。



 「一気にやっつけろ」



 酒呑童子も三又の矛で八岐大蛇の頭を串刺しにする。



 「ぎゃーーー」



 酒呑童子の率いる鬼の四天王の協力もあり八岐大蛇の頭が5本潰されてしまう。


 しかし、潰れた頭はすぐに再生してしまう。



 「やっぱり効かないのか・・」



 酒呑童子は呆然と立ち尽くす。

 



 「酒呑童子様でも歯が立たないのですね」


 

 織田将軍が妖狐に言う。



 「そう言うことです。八岐大蛇を倒すためには草薙の剣を見つけない限り倒すことはできないのです。なので、織田将軍はお逃げください」


 「できません。俺は倭の国の将軍です。妖怪様達に全てを任せて逃げることはできません」


 「倭の国の将軍だから逃げるのです。私たち妖怪が死んでも何も問題はありません。しかし、あなたは倭の国の大事な将軍です。あなたがいないと倭の国の平和を保つことはできません」


 「八岐大蛇がいる限り倭の国の平和は訪れません。それに私は妖狐様の側で戦いたいのです。倭の国の将軍としてではなく、1人の男として戦いたいのです。私は妖狐様を見捨てて逃げることはできません」



 織田将軍は妖狐の手を握りしめて、自分の思いをぶつけたのであった。



 「織田将軍も立派な男になったものですね。この前までおねしょをして泣いていたのにね」


 「子供の頃の話しはやめて下さい。私はもう30歳です。きちんと大人として見てください」


 「私からしたら30歳などまだまだ子供です。でも立派に成長してくれて嬉しいです。織田さん一緒に戦いましょう」


 「ありがとうございます」


 

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