第181話 倭の国パート22
「妖狐様、酒呑童子様が危ないです」
酒呑童子は、八岐大蛇の再生能力を目の前にして、戦意を喪失して立ちすくんでいる。
八岐大蛇は、酒呑童子を食らおうとして大きな口を開けて襲ってきた。
酒呑童子が八岐大蛇に食べられそうになった時、強大な手が酒呑童子を掴み八岐大蛇の捕食から守った。
「ダイダライボッチ来てくれたのですね」
ダイダラボッチとは50mくらいの大きな巨人の妖怪である。
「八岐大蛇が封印から解放されたみたいだな」
「そうなのです。草薙の剣が見つからない限り手の打ちようがありません」
「お前では封印はできないのか」
「私の妖力では、封印のツボを作るくらいしかできません。九尾の狐様のようなことはできません」
「そうか・・・それなら仕方がない。俺達の妖力をお前に託そうではないか!」
「そんなことをしたら、みんなの妖力が無くなって死んでしまうのではないですか」
「このままだと、倭の国の人間を見捨てて逃げるか、八岐大蛇に殺されるかの2つしか選択肢がないぞ。お前は妖怪の命よりも倭の国の人間の命を守りたいのだろう」
「・・・」
妖狐は何も言えないのであった。ダイダラボッチの言っていることはあっているのである。八岐大蛇を倒すことは不可能に近い。それなら、倭の国の人間を見捨てて逃げたらいいだけのことである。そうすれば妖怪達は助かるのである。しかし、妖怪達が逃げ出せば倭の国は八岐大蛇に滅ぼされるだろう。
八岐大蛇は倒すことはできないが、妖怪達の妖力を妖狐に託したら、八岐大蛇を封印して倭の国を守ことはできる。しかし妖怪達は妖力を失い死んでしまうのである。妖狐は可能性が1番少ない、草薙の剣を見つけることを選んでいたが、もうそんな時間もないのであった。
「妖狐、お前が決めるのだ。俺たちはお前の意思に従うぞ」
ダイダラボッチは妖狐に妖怪の命運を決める大役を任せた。
妖狐もわかっていた。妖怪の命を捨ててしか倭の国を救う手段がないことを。しかし、今の現状では、妖怪達に命を差し出すように言えないのであった。それは、逃げ遅れた人間達の妖怪に対する罵声が、妖狐の判断を鈍らせていたのであった。
「この役立たずの妖怪め」
「妖怪がいるから、こんなことになったのだ」
「早くあの蛇の化物を倒しやがれ!なんのために倭の国に住まわせていると思っているのだ」
「早くなんとかしてよ。私の家が燃えてしまうじゃないのよ」
柿山城の近くでは至る所で妖怪達を罵る人間達がいた。人間達も、あまりの恐怖でパニックをおこして、精神的におかしくなってしまうのは仕方がないのかもしれない。しかし、妖怪達は、命をかけて住民達を非難させている。そして、妖怪達は人間達に罵声や文句を言われながらも、言い返すことなく、必死に人間達を救助していた。そんな光景を見ていた妖狐は、妖怪達に命を差し出すようにとは、言えないのであった。
「妖狐様お逃げください。もうあなた方は十分に私たちを守ってくださいました。これ以上妖怪様達の犠牲を出したくありません。倭の国の将軍として命令します。妖怪の皆様はすぐに逃げてください」
織田将軍が大声で叫んだ。
織田将軍の声を聞いた妖怪達はそれでも救助を辞めない。そして、八岐大蛇の攻撃を防ごうと身を挺して倭の国を守っている。
「このばか将軍が。お前の判断が悪いからこうなったのだぞ」
「妖怪は身を盾にして、人間を守れ!」
織田将軍の言葉を聞いた人間達は、織田将軍に向かって怒りをあらわにした。
「織田さん私の覚悟は決まりました」
妖狐が織田将軍の手を握りじっと織田将軍の瞳を見つめている。
「やっと逃げてくれるのですね」
織田将軍は妖狐の手を握り返して、安堵の笑みを浮かべて涙を流して喜んだ。
「いえ、妖怪達の命をかけてあなたの大事な倭の国を守ります」
「・・・」
織田将軍は驚きのあまり声が出ない。
「さようなら織田さん。あなたのような素敵な人間に出会えて私は幸せでした」
妖狐はそういうと、織田将軍の手を離して織田将軍の元を離れていった。
「妖狐様ーーーーーー」
妖狐はダイダラボッチの肩の上に飛び乗った。
「妖狐、覚悟は決まったみたいだな」
「はい。人間は全てが悪い生き物ではありません。織田さんのような優しくて素敵な人間もいます。私は織田さんに、倭の国の未来を託したいと思います。なので、みんなの命を私に預けてください」
「妖狐、周りを見てみろよ。誰も逃げ出さずに戦っているぞ。全ての妖怪の気持ちは、お前と同じだ。みんな喜んでお前に妖力を渡すぜ」
「みんさん・・・ありがとうございます」
妖狐は、妖怪達に頭を下げてお礼をした。
「ところで、この気を失っている酒呑童子はどうするのだ」
「酒呑童子ですか・・・・どこか遠くへ投げて下さい。酒呑童子だけは生き残ってもらいましょう」
酒呑童子は、ダイダラボッチに放り投げられてはるか遠くに飛ばされた。そして、妖狐は倭の国いる全ての妖怪の妖力をもらって、八岐大蛇の封印に成功したのであった。
妖狐に妖力を与えた妖怪達は、全てその場で力尽きて死んでしまったのである。八岐大蛇の封印に成功した妖狐もその場に倒れ込み命を失ってしまった。
「妖狐様・・・なぜ私たち倭の国の人間を救ったのですか。あんなに妖怪様のことを激しく罵っていましたのに・・・人間は妖怪様のように勇敢に恐怖と立ち向かえる者は少数しかいません。だから、人間ではなく妖怪様達が生き残るべきだったのです」
織田将軍は妖狐の死体を抱きしめて話しかける。
「私はあなたを愛していました。気高く、勇敢で美しい妖狐様を愛していました。なぜ私を置いて、先に死んでしまったのですか。私は、本当は倭の国なんてどうでも良かったのかもしれません。妖狐様さえ無事でいてくれたら、それで幸せだったのかもしれまん。私はそんなわがままで自分本意な人間です。こんな私たちのために命を落とすなんて、妖狐様はバカです。大バカ者です」
織田将軍は、妖狐は激しく抱きしめて大粒の涙を流しながら妖狐に訴えかけたのであった。
「織田さん・・・苦しいですよ。女性を抱きしめる時は、もっと優しく抱きしめるものですよ」
死んだはずの妖狐が息を吹き返したのであった。織田将軍の悲痛の涙から歓喜の涙に変わった。
「妖狐様・・・」
「織田さんは、ほんと子供の頃から泣き虫ですね」
妖狐は優しく織田将軍に微笑みかける。
「はい。私は泣き虫です。だから、私が泣かないよにずっと私のそばにいてください」
「私はもうおばあちゃんですよ。そんなおばあちゃんと一緒にいても仕方ないでしょう」
「そんなことは関係ありません。私は死ぬまで妖狐様の側にいたいのです」
織田は優しく妖狐を抱きしめたのであった。
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