第18話 宿屋に戻る

         


 「本当に申し訳ございませんでした」


 「カミラ男爵様お顔を上げてください。きちんと対処していただいたので、もう気にしていません」


 「あの子も昔は、あんな子ではなかったのよ、男に生まれたので魔法はつかえないから、武力に磨きをかけて、神技を習得しようと頑張っていました。でも神技を習得できず、いつのまにか、何事もやる気をなくし家に閉じこもるようになりました」



 この世界の人間は、男性は魔法を使えない。魔法は女性特有の能力である。女性は、魔法を使えるので、仕事には困ることはない。


 男性は、魔法はつかえないが、体を鍛えることによってスキルを習得できる。それが神技である。


 神技とは、肉体強化ができる魔法みたいなものである。神技には、いろいろアレンジすることにより、強力な魔法に匹敵するワザをくりだすことができるのである。


 ただ一部の男性は、その神技すら身につけられない無能力者がいる。


 無能力者が、働く場所は非常にすくないのである。



 「私は、このままではいけないと思い、息子に門兵の仕事を与えました。このような小さな町なので、神技を使えなくても大丈夫だと思いました。息子は、仕事を与えられた事を喜んで、門兵としての責務をまっとうしていましたが、となりの町のパースリに、行くようになってから、人が変わったように、人間以外の人種を憎むようになりました。原因はあの子も言っていた、神守教会の教えだと思います。それから、パースリの町からルークという男性を、連れてきてこの町で神守教会の教えを、広めようとしてました。信仰の自由は、国が認めているので止める事はできませんでした。しかしあの子のおこないは、どんどんエスカレートしていきました。私が早い段階で、対処してればこんな事にならなかったのに本当に申し訳ございません」


 「いえいえ、気にしないでください。それよりも息子さんを、追い出してよかったのですか?」


 「はい。かまいません。いずれこの町から、追い出さなければいけないと考えておりました。それに、あの子は一緒にいたルークと共に、パースリの町へ行くでしょう」


 「わかりました。それでは、今回のベアーウルフの討伐のことをお話しします。ベアーウルフは無事に討伐しました」


 「本当ですか。ありがとうございます」



 そして、ロキさんは何故、ベアーウルフが、町の付近まで来たのか原因を説明し、キマイラも討伐したことを伝えた。



 「ベアーウルフが現れたのは、キマイラが原因だったんですね。そして、キマイラまで討伐してくれたんですね。本当にありがとうございます。もちろん、キマイラの分の報酬も用意します」



 これでトールさんがいくら食べても問題なさそうだ。そのことで私は一安心した。



 「よし、とりあえず腹減ったから、飯にしようぜ」


 「この町には、冒険者ギルドはないから私はカミラ男爵の屋敷で、魔石の確認をしてもらう。みんなは先に宿屋に戻ってもらってかまわないわよ」


 「わかったぜ」



 私たちは、ロキさんを残して宿屋へと向かった。


 宿屋に戻ると、すぐに食堂に行きトールさんはいろいろと注文し出した。



 「たくさん頼みすぎると、ロキお姉ちゃんに怒られますよ」



 と私は注意した。



 「大丈夫ですわルシスちゃん。依頼達成後は、どんなにたくさん食べても、ロキは怒らないわよ。無事に帰ってこれた祝勝会ですからね」


 「そうなんですね。ポロンお姉ちゃん、それなら私も沢山食べちゃいます」


 「そうだぜルシス。たくさん食べようぜ。今回の討伐は、ルシスの力のおかげで勝てたことだしな。それにルシスが、このパーティーに入った歓迎会でもあるぜ」


 「ありがとうございます」


 「ポロンお姉ちゃんはお酒は飲まないのですか?」


 「私はお酒は苦手なので・・・」



 ポロンは、なんだか悲しそうに呟いた。


 この国は16歳からお酒は飲むことができる。私はまだ10歳なので、この国でもお酒は飲むことができない。

 

 食事が用意される頃には、ロキさんも宿屋に戻ってきた。


 

 「魔石の確認は終わったわよ。キマイラも討伐したからかなりの収入になるはずよ。だから、今日は大宴会をしましょう」



 ロキさんも食べる気満々である。



 「キマイラの素材は、この町には冒険者ギルドがないから別の町で換金する事にしたわ。近くだとパースリの町になるけど、あの町に行くとトラブルになりそうだから、北へ向かってバードクの町へ行こうと思うわ」


 「その方がいいな」


 「明日の昼に出発したら、馬車を使えば次の日には着くはずよ」



 この世界の移動は基本馬車になる。魔法があるので、たいていの事はできるので、技術の進歩は低い。技術の探究より魔法の探究のがこの世界では重要なことである。


 馬に疲労回復の魔法を使えば、休息をとらずに何日も走らせる事はできるし、支援魔法を使えるものがいればスピードも早くなる。私の魔法をを使えば、明日の昼に町を出てもその日のうちにたどり着けるだろう。



 「それで決まりだな。朝はゆっくりできるから、今日は飲みまくるぜ。」



 そして私の歓迎をかねた大宴会は、夜遅くまで続いたのであった。





 「ドン、ドン、ドン」 「ドン、ドン、ドン」


 「冒険者様、起きてますか?」



 激しくドアを叩く音で私たちは目が覚めた。



 「うるせぇー」



  トールさんは無理やり起こされたので、少し機嫌が悪い。



 「どうかなされましたか?」



 ロキさんが、扉を開けて宿屋の主人に尋ねる。



 「パースリの町が、ゴブリンの大群に襲われて占拠された。そのことで、町長さんがあなたがたに、話しがあるので起こして欲しいと頼まれました」



 ゴブリンが町を占拠するなんて、そんなことありえない。いったいパースリの町で何がおこっているのだろう…


 急いで用意をすませ、食堂へ降りていった。



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