第168話 倭の国パート9



 「この荒屋に帝がいるのか?」


 「はいそうです」



 トールさんとポロンがあからさまにガッカリしている。



 「なぜ、帝様がこのような荒屋にいているのですか?」



 ロキさんが尋ねる。



 「詳しくは中でお話しします」



 私たちはもみじちゃんに連れられて荒屋の中へ入った。



 「ヒメコ様、冒険者様をお連れしました」



 荒屋の中には、美しい着物を着たとても綺麗な女性と護衛の2人のくノ一がいた。



 「冒険者の皆さん会いにきてくださってありがとうございます」



 ヒメコ様は丁寧にお礼を述べた。



 「こちらこを、お招きいただいてありがとうございます」



 ロキさんも誠意を込めて対応する。



 「皆さんに来て頂いたのは実は大事なお願いがあるからなのです」


 「ぜひ聞かせてください」


 「今の倭の国は、エードの町の領主徳山家康将軍に実権を握られています。家康将軍は、以前は有能な人物であり、倭の国の発展に貢献を努めていたので将軍の座を与えました。しかし、5年くらい前から、家康将軍の態度が一変して、倭の国を支配するようになったのです。私は有能な忍びを使って、家康将軍の身辺を探ったのですが、家康将軍の配下の者に全て殺されてしまいました。そして家康は、今回の剣術大会で、倭の国の有能な剣士を全て抹殺して、倭の国を掌握しようと計画を立てています。そこで、武蔵の家来を簡単に倒したロキさんに協力して欲しいのです」


 「私は何をしたらいいのですか」


 「剣術大会で優勝して、家康将軍の正体をあばいてほしいのです」


 「どういう事ですか?」


 「本当の家康将軍はもう殺されているのかも知れません。今の家康将軍は偽物だと思います」


 「それは本当ですか」


 「それを確かめるためにもロキさんに優勝してほしいのです。今回の優勝者には、家康将軍から褒美として、なんでも望みを叶えてくれると言っています。なので、ロキさんが優勝したら、将軍の座からおりるように言ってほしいのです」


 「わかりました。でも素直に将軍の座をおりるのでしょうか」


 「いえ、おりないでしょう。その代わり正体を現すと私は睨んでいます。もし正体を現したら、冒険者様達で討ち取ってほしいのです。私にはわかります・・・ロキさんがかなりの実力者であり、そして、そこの可愛い女の子はそれ以上の強さを持っていることを。なので、あなた方にお願いしたいのです。家康将軍が入れ替わってからこのエードの町は、平民への差別が強くなっています。以前のような武家も平民も仲良く過ごせる国に戻したいのです」



 ヒメコ様は何者なのであろうか?私の強さを瞬時で感じ取ることのできるとは、ヒメコ様もかなりの実力者だと私は感じたのであった。


 「わかりました。私たちラスパが、家康の正体をあばいて退治したいと思います。子供を平気で殺すエードの町を放っておくことはできません」


 「ありがとうございます」



 倭の国の最高権力者のヒメコ様は、家康将軍の絶大なる力により、次第に権力を奪われて、建前だけの最高権力者となったらしい。なので、エードでの扱いも悪くなり、このような荒屋を用意されたらしいとのことだった。


 今回の剣術大会の本当の目的は、倭の国にある3つの町の名だたる剣豪を殺して、家康将軍の力を倭の国中に示す為の大会であり、これをきっかけに、倭の国を家康将軍が支配する計画の一端であるらしい。


 

 「あの〜ご馳走があると聞いていたのだが・・・」



 トールさんが申し訳なさそうに尋ねる。さすがのトールさんも、エードの町でのヒメコ様の扱いを知って、少し遠慮がちに尋ねたのである。



 「ごめんさない。あれは嘘です」



 もみじちゃんが慌てて謝りだした。



 「もみじ、何を言ったのですか」



 ヒメコ様がもみじちゃんに言い寄る。



 「ヒメコ様、冒険者様がご馳走を用意しないと、来てくれないと言われたので、ご馳走があると嘘をついてしまいました」



 トールさんとポロンさんの、お寿司を食べさせろ威圧感にもみじちゃんはビビっていたのであった。



 「冒険者の皆さん、もみじが嘘の約束をして申し訳ありません。もみじは、私の有能な忍びの一人娘でございます。私の命令で、もみじの親はエード城の侵入任務で命を落としてしまいました。もみじは、決して有能な忍びではありません。いえ、どちらかというと、ミスも多いうえに、いくら注意してもピンクの目立つ忍び装束を着てしまう困ったちゃんです。それでも、私の大事な部下です。どうか、もみじの事をお許しください」



 もみじちゃんがピンクの忍び装束を着ている理由が判明した。ただ単に、ピンクが可愛いから着ているだけであり、いくらヒメコ様が注意しても聞かないだけであった。



 「いえ、大丈夫です。私たちはご馳走が欲しくて、ここに来たのではありません。それに、もみじちゃんのピンクの忍び装束は素敵ですわ」



 


 

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