第169話 倭の国パート10




 「もう、用事は終わったし帰ろうぜ」


 「そうですわ。帰りましょ」



 ご馳走が出ないとわかったトールさんとポロンさんは、明らかに不機嫌になり帰りだした。



 「ご馳走は用意できませんが、これでよければお召し上げりになってください」


 「ありがとうございます」



 ロキさんは丁寧にお礼を言った。


 

 「この黄色いモノが乗った食べ物はなんですか?」


 「たまごのお寿司です。急にお魚が手に入らなくなったのでそんなものしかありません」


 「でも、甘くて美味しいですわ」


 「なんだと!!!」


 「お寿司ですって」



 荒屋を出ようとしていたトールさんとポロンさんが慌てて戻ってきた。



 「この家はとても居心地がいいから、もう少しいてもいいかな・・・」


 「そうですわ。それに、特に用事もないので、もう少しヒメコ様とお話をしたいですわ」



 お寿司と聞いて、2人はヒメコ様にゴマをする。



 私はヘルオクトパスとデスシャークの切り身を出してお寿司を握ってもらうことにした。


 もみじちゃんは、忍びとしての才能はないが、お寿司を握るのがとても上手である。



 「もみじの握るお寿司は、とても美味しいですので、皆さんで食べてください」



 図々しく戻ってきたトールさん達を、ヒメコ様は快く迎え入れてくれた。そして、もみじちゃんは、私の材料を使って、美味しいお寿司を握ってくれたのであった。



 「もみじはできるヤツだと、俺は思っていたぜ」



 トールさんはもみじちゃんを褒める。



 「初めて見た時に感じていたあのオーラは、料理の才能のオーラだったのね」



 ポロンさんももみじちゃんを持ち上げる。



 「私の握るお寿司の腕前は倭の国では有名ですわ。新鮮な魚さえあれば、もっと腕を振るうことができなのに残念ですわ」


 「新鮮な魚・・・ポロンのマグマさえなければ」


 「しーーーーー!トール、余計な事を言わないで!」



 倭の国で新鮮な魚が取れなくなったのは、最初はサラちゃんのせいであり、次はポロンさんのせいと言ってもおかしくない。



 「今、倭海の温暖化の原因ももみじに調べさせています。なので原因が分かり次第対処する予定です」



 ヒメコが真剣な面持ちで説明した。



 私たちの顔が凍りついた。確か・・・もみじちゃんに、倭海を温暖化させる現場を目撃されている。



 「そうだ。用事を思い出したぜ。すぐに帰ろうぜ」


 「そうですわ。急用ですわ。すぐにでも戻りましょう」


 「そうね。お寿司もいただいたし、これ以上ご迷惑をおかけできませんわ」



 ロキさんも、この状況はまずいと感じて、退散することに同意した。



 「そうですか。では、明日の剣術大会は観戦いたしますので、ロキさんの活躍を期待しています」


 「明日は頑張ってねー」


 もみじちゃんが笑顔で手を振る。もみじちゃんが残念な忍びで助かったのである。



 「あっ、そうだわ」



 もみじちゃんが声を上げた。私たちはドッキっとした。もしかしたらもみじちゃんが思い出したのかもしれないと。



 「明日は、剣術大会のほかにもわんこぞば大会もあるので、ぜひ参加してね」



 全然違う内容でホッとした。



 「わんこそば大会?なんだそれは?」


 「犬のお料理ですわ」


 「本当かよ。俺は遠慮しとくぜ」


 「そうね。私も遠慮しとくわ」



 トールさんとポロンさんが、わんこそばについて話をしているがとんだ誤解である。



 「わんこそばとは、熱いそばつゆをくぐらせた一口大のそばをお椀に入れ、それを食べ終えたるたびに、給仕がそのお椀に、次々とそばを入れ続けて、そばをどれだけたくさん食べれるかを競う大会です」



 私はきちんと説明した。



 「あっそうですわ。確かそうでしたわ」



 ポロンさんは慌てて訂正する。



 「それなら参加してみたいぜ」


 「私もお供するわ」



 剣術大会の日は、エードの町で、たくさんのイベントをして盛り上がることになっている。なので、エードの町のイベントを楽しむことにした。



 「明日は楽しみだぜ」


 「そうですわ。剣術大会の件はロキに任せて、私たちはわんこそば大会に出場しましょう」


 「そうだな」



 トールさん達は、ヒメコ様のお願い事をロキさんに任せて、自分たちは食べることに専念することを宣言したのである。



 「最初からあてにはしていないわ・・・ルシスちゃん、あなただけが頼りよ」



 ロキさんの腹は決まっていた。あの2人には期待しないと。


 ロキさんの今の実力なら、剣術大会で優勝すると私は思っている。しかし、家康将軍に入れ替わった者の正体は気になるところであり、ロキさん1人に任せる事はできない。


 明日の予定も決まったので、私たちは町人地に戻って宿屋に泊まることにした。宿屋では、倭の国独特の畳の部屋に、ロキさん達ははしゃいでいたが、私はどこか懐かしく思えて、しんみりとしていた。



 次の日、ロキさんと私は剣術大会に、そして、トールさんとポロンさんはわんこそば大会の会場に向かった。


 私は剣術大会の会場に行って、出場選手の名簿を見てビックリした。剣術大会の参加者の名前に私の名前が載っていたのであった。


 

 「どうして、私の名前があるのかしら・・・」


 「ルシスちゃん・・・・ごめんなさい。1人で参加するのが寂しかったから、ルシスちゃんの名前を書いてしまったのよ」


 「・・・・」



 私も剣術大会に参加することになってしまった。参加するのは問題ないのだが、私には剣がない・・・調理用のナイフしか持っていないのであった。



 「ルシスちゃんはもう行ったようね」


 「はい。剣術大会に行かれました」


 「そう。それなら、もう問題はないわね」


 「はい。出ても来ても怒られないと思います」


 「わんこそば大会・・・私のための大会ですわ」



 そう言ってサラちゃんが、ポロンさんの精印から出てきたのであった。



 「ポロンさん、私も参加するわ」



 私にサラちゃんが倭の国へ来ると、何かトラブルを起こすと判断して、サラちゃんには倭の国へは来ないようにと言っていたのであった。

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