第411話 ボルの人界征服編 パート24


 クラちゃんはクラーケンの姿に変身して無数も噴石をぺろりと食べてしまった。



 「ホクホクで少し舌が火傷しそうになったわ。しかも味もなく料理としては最低だわ」



 クラーケンの額にシワがよってかなり不機嫌な様子である。



 「噴石の温度は1000度を超える高温だぞ・・・食べるなんてありえないぞ」



 ヘファイストスはクラーケンの規格外の食欲にビビってしまい後退りする。



 「もっと美味しい物を出しなさいよ!」



 クラーケンの大きな触手がヘファイトスを襲う。



 クラーケンは触手の長さも合わせると30mという神獣の中でもトップクラスの大きさを誇る。ヘファイトストスが3m以上の巨漢であると言ってもクラーケンからすればあまりにお粗末な大きさである。


 20mはある白くて分厚い触手がヘファイストスの体を巻きつける。触手には吸盤がり一度捕まると逃げるのは不可能と言われている。



 『アドバルーーーン』



 巻き付けられたクラーケンの触手を押し跳ねるように、ヘファイストスの体が風船のようにみるみると大きくなっていく。触手で丸く抑え込まれたヘファイストスは、自らの体を膨らませることで、触手を弾き返そうとするが、吸盤の吸い付きからは逃れられない。


 それでも、ヘファイストスは、さらに体を膨らませていく。ヘファイストスの体が3倍近くになった時、大きな爆発音がして、ヘファイストスの体が砕け散った。まるで膨らませ過ぎた風船のように、ヘファイストスの体はバラバラになってしまったのである。



 「えーーい。えーーい」


 

 クラーケンは砕け散ったヘファイストスの体の破片に触手を叩きつける。


 20mもある触手が地面に叩きつけられて、激しく地鳴りのような音が響き地面に亀裂が入る。そして、砕けたヘファイストスの体の破片が桜が舞い散るように宙に舞う。



 「クラーケン様、もう許してあげてください」



 いいように弄ばれているヘファイストスを助けるためにポセイドンがクラーケンに声をかける。



 「戦いを仕掛けたのはヘファイストスの方ですよ」



 1mはあるクラーケンの大きな赤い瞳がポセイドンを睨みつける。



 「あいつもこれで懲りたと思います。もう2度とクラーケン様に逆らうことはしないでしょう」


 「どうしようかな?」



 クラーケンは白い触手で腕組みをして考える。



 「これから私たちは人界へ行くので、何か美味しい食べ物を手に入れてきます。それで許してくれないでしょうか?」



 クラーケンの赤い瞳が煌々と輝き出した。



 「私は人界の美味しいパンを食べたいと思っていたのよ。人界で1番美味しいパンを買ってきてください」


 「わかりました。クラーケン様がお気に召すパンを必ず手に入れてきます」


 「あ・・・それと人界人に迷惑をかけたらダメだよ」


 「もちろんです。私どもはボルたちがどうなったか調べるだけなので、人界の秩序を乱すようなことはしません」



 ポセイドン達の真の目的は、自分たちが力を与えたオーシャン、フレイムの敵討ちである。しかし、クラーケンに本当のことは言えないので嘘をつくのである。



 「調べるだけ無駄だと思うわよ。もしも、ボル達を倒した相手を見つけることができたとしても、何もしない方が身の為よ。あなた達はおとなしく美味しいパンを買ってくることに専念する方がいいと思うわ」


 「どういうことですか?クラーケン様はボル達を倒した者に心当たりあるのですか?」


 「知らないわよ。ただ、あなた方は弱すぎるので心配してあげているだけですわ」



 クラちゃんは私のことは黙っておくことにした。私が天使様に力を授かったこと、そして神獣達と特訓したことは秘密なのである。



 「ご忠告感謝いたします。しかし、人界に神を倒せる者などいないはずです」


 「そうね。でも、そんなことよりも、美味しいパンを期待しているわ」



 クラちゃんはそういうとその場から去って行った。


 クラーケンがいなくなり、ポセイドンは慌ててヘファイストスの砕けた体をかき集めて、パズルを仕上げるように一つずつ丁寧に繋げていく。この地道な作業をポセイドンは日が暮れるまで根気良く続けたのである。



 「感謝するぜ」



 散り散りになった体を全て貼り付けたことによりヘファイストスは復活した。しかし、微妙にポセイドンの貼り付けがおかしいので、お腹に右手があったり、左手が肩の上にあったり、ピカソの絵のような芸術的な作品に仕上がってしまったのである。



 「しかし、なんだか歩きにくいぜ」



 右下と左足の向きが逆になっているので、右足を前に出しても左足が後ろに行こうとするのでヘファイストスは真っ直ぐ歩くことも難しい。



 「ヘファイストス、その体を一度ウーラノス様に治してもらったほうがいいかもしれないぞ」



 ポセイドンは明らかに自分の貼り付け方が失敗したと潔く認めた。



 「そうかぁ?それほど違和感を感じないぞ」



 鈍感なヘファイストスは自分の体の変化に全く気づかない。なので、必死に前に進もうとするが、円を描くように自分の周りを一周する。



 「おかしい・・・なぜ?前に進まないのだ!」


 「これを見ろ!」



 あまりに鈍感なヘファイストスを見かねたポセイドンは、近くにあった鏡を持ってきて、ヘファイストスに自らの体を見せてあげた。



 「なんじゃこりゃーーー」



 ヘファイストスは自分の芸術的な姿を見て、腰を抜かして驚くのであった。





 

 

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