第369話 竜人国家ユグドラシル編 パート5


 僕の目の前からフェニの姿消えた・・・



 「フェニ・・・」


 「リプロさん、申し訳ありません。私がきちんと説明すべきだったのですわ」



 リヴァイアサンは動揺している。



 「フェニはどうなるのですか?」


 「フェニちゃんは可愛い女の子ですわ。ヨルムンガンド様も無茶なことはしないはずです」


 「あの大木の正体がヨルムンガンドさんなんですね」



 僕は世界樹の頂上に聳え立つ新たな大きな大木から、わずかな魔力を感じていた。これは魔力が少ないという意味でなく魔力偽装をして力を隠している感じであった。


 「そうですわ。しかし正確に言うと世界樹の大木にまとわりついて擬態しているのですわ。ヨルムンガンド様は、世界樹の大木になる不思議な果実を守る役割も担っています。竜人族でさえ、不思議な果実に手を出すことができませんわ」


 「フェニは・・・」


 「リプロさんなら、フェニちゃんがどうなってしまったかは理解できていると思いますわ」


 「そうだね・・・フェニは・・・」



 僕はフェニの魔力を感じていた。だからフェニは死んだわけではないのである。むしろフェニは嬉しそうにケタケタを笑っているのである。



 「フェニはヨルムンガンドさんに連れ去られて、世界樹の頂上に連れて行かれたみたいだね」


 「そうですわ。ヨルムンガンド様は幼い可愛い女の子が大好きなのです。だからフェニちゃんが孫のように可愛くて、フェニちゃんを喜ばすために、世界樹の頂上に連れて行ってあげたのだと思います」


 「そうだったんだね。フェニに危害を及ぼしていないから僕は黙って見ていたが、もしフェニを傷つけるようなことをすれば、僕はヨルムンガンドさんでも容赦はしないよ」


 「ヨルムンガンド様が可愛い女の子をいたぶるようなことは絶対にしないわ。ヨルムンガンド様は、フェニちゃんが世界樹の頂上に行きたいことを知っているので、フェニちゃんを喜ばしたいだけだと思うわ」






 「すごいのですぅー。世界が一望できるのですぅ」



 世界樹の頂上でフェニは嬉しそうにはしゃいでいる。



 「すごいだろ!ここは俺しか入れない領域だ。でも、フェニちゃんは特別にここからの景色を見せてあげるぞ」



 フェニは大きな蛇のような真っ黒なドラゴンの頭の上に乗っていた。



 「本当にすごいですぅ。でも、甘くて美味しそうな果実も気になるのですぅ」


 「世界樹の不思議な果実を食べたいのか?」


 「はい。美味しそうですぅ」


 「食べさせてあげたいが・・・これだけは誰にも食べさせるわけにはいかないのだよ」


 「食べたいのですぅ」



 フェニは頬を膨らませて拗ねる。



 「・・・」



 ヨルムンガンドは悩む。



 「いや、駄目だ。これだけは絶対に食べさせるわけにはいかないのだ」



 ヨルムンガンドは心を鬼にしてフェニの甘えを断った。



 「ヨルちゃんの意地悪!」



 フェニはヨルムンガンドの頭を両手でポンポンと叩く。



 「フェニちゃん、本当にこれだけは誰にも食べさせるわけにはいかないのだ。世界樹の不思議な果実を守るのが竜人族に与えられた使命なのだ」


 「せっかくヨルちゃんのために美味しいパンを持ってきてあげたのに・・・ヨルちゃんになんかにあげないですぅ」


 「美味しいパンだと・・・」


 「そうですぅ。リプロ様がケルト王国の美味しいパンを再現できるように、新しいパン焼き窯を作ってくれたのですぅ。今まで食べたことのないフカフカでモチモチのパンのですぅ」



 フェニは収納ボックスからパンを取り出して、美味しそうに食べる。



 「ほっぺが落ちるほど美味しいですぅ」



 ホクホク顔でフェニはパンを食べている。



 『ゴクリ』



 ヨルムンガンドはその姿を見て唾を飲む。



 「わしにも一つくれ!」



 ヨルムンガンドの口からは豪雨ような涎が降り注ぐ。



 「意地悪なヨルちゃんにはあげないですぅ」



 フェニはこれみよがしにパンを美味しそうに食べまくる。



 「本当に美味しいですぅ。極楽ですぅ」



 フェニは至福の笑みを浮かべてヨルムンガンドを挑発する。



 「食べたいぞ!絶対に食べたいぞ」



 ヨルムンガンドはパンを食べたい欲求を抑えることができない。



 「仕方がない・・・世界樹の不思議な果実を一つだけ食べる許可を与えよう」



 ヨルムンガンドは食欲に負けた。



 「本当ですぅか?」


 「男に二言はない。しかし、世界樹の不思議な果実を食べると不思議な能力を得ることができると言われている。この能力は人界を崩壊させる破滅の果実とも言われているのだ!それでも食べたいのなら食べてもいいぞ!」



 真剣な表情でヨルムンガンドはフェニを忠告する。



 「そんなのありえないですぅ。ただの甘い美味しい果実ですぅ」



 フェニはヨルムンガンドの忠告をまともに捉えない。果実を食べるだけで能力を手に入れるなんて漫画の世界だけであると思っている。



 「食べて見るとわかるぞ」


 「はーーい」



 フェニは明るく返事をして、美味しそうな金色のりんごような果実を食べた。



 「甘くて美味しですぅ」



 フェニは満足げに不思議な果実を食べて喜んでいた。


 すると、突然フェニの体が虹色に輝き出した。



 「何か不思議な気分ですぅ」



 フェニは全身に流れる魔力がみるみる増えていくのを感じ取った。そして、フェニの頭には小さな黒い2本のツノが生えてきた。



 「頭に何か違和感があるのですぅ」


 

 フェニは頭を触ってみた。



 「ツノがあるのですぅ。リプロ様とお揃いですぅ」



 フェニは、僕の魔人の姿を見たことがある。なので、フェニは僕と同じようにツノが生えたのがとても嬉しいみたいであった。


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