第370話 竜人国家ユグドラシル編 パート6
「ヨルちゃん、私のツノかっこいいでしょう」
フェニは、自慢げにヨルムンガンドにツノを見せて嬉しそうに言う。
「その禍々しいツノから推測すると、フェニちゃんが食べた不思議な果実は魔界の果実だ」
「魔界の果実?」
「そうだ。魔人の力を手に入れたのだ」
「魔人?私は魔人になったのですぅか?」
「そういうわけではないが、魔人のように強くなったの思ってくれたらいいのだ」
「はーーい」
フェニはよく理解できなかったが、とりあえず元気に返事をした。
「フェニ、そのツノはどうしたの?」
僕はリヴァイアサンに乗って、フェニのいる世界樹の頂上まで来たのであった。
「美味しい果実を食べたらツノが生えたのですぅ。リプロ様とお揃いですぅ」
フェニは無邪気にはしゃいでいる。
「ヨルムンガンドさん、フェニに何をしたのですか!」
僕はヨルムンガンドに詰め寄った。
「パンをもらう代わりに世界樹の不思議な果実をあげただけだ」
「世界樹の不思議な果実・・・」
僕は魔界の文献で世界樹の不思議な果実の事を読んだことがある。あまりにも弱すぎる人間の為に、能力を与えようと思った神ウーラノスが面白半分で人界に植えたのが世界樹である。世界樹は数十年に一度だけ不思議な果実が実りそれを食べた者は、不思議な能力を得ることができるのである。僕の推測だけど、レオのような特殊能力を持っている人間は、先祖が不思議な果実を食べたことがあると考えている。
「何か文句があるのか!」
ヨルムンガンドは大声を上げた。
「人間に不思議な果実を与えないように、竜人族が空に隠したと聞いたことがあります」
ウーラノスが植えた世界樹の不思議な果実を巡って、大規模な戦争が勃発したと文献に書いてあった。なので、争いを終結させるために竜人族の手によって、世界樹を空に隠したらしい。
「1人くらいいいだろう。それに、フェニちゃんなら悪いことはしないはずだ!」
ヨルムンガンドはフェニを信頼しているわけではなく、ただパンが食べたかっただけである。それをこれからリヴァイアサンが説明する。
「リプロさん、ヨルムンガンド様は非常にパンが大好きなのです。パンは人間が作り出した最高傑作であると、会うたびに私は聞かされています。フェニちゃんが、リプロさんが作った窯を使用して出来たパンをヨルムンガンド様に差し上げたのでしょう。もちろん不思議な果実と引き換えにね」
「なぜ、詳細を知っているのだ・・・お前は現場を見ていたのか!」
ヨルムンガンドはアタフタして多量の汗を流している。
「見なくても竜人族なら誰でもわかります。それほど、ヨルムンガンド様のパン好きは有名です」
「そ・・そうなのか・・・」
ヨルムンガンドの大きな体がどんどん小さくなっていく。
「小さくなってもダメです。なんで、フェニちゃんに不思議な果実を食べさせたのですか?納得のいく説明をしてださい」
リヴァイアサンが追い詰める。
「えええい!うるさいわい。お前の言うように美味しいパンが食べたかったのだ!俺は竜人族の王だぞ。俺のやる事に文句を言うな」
ヨルムンガンドは逆ギレした。
「ヨルちゃんをいじめないでくださいですぅ」
フェニがヨルムンガンドの前に立ちはだかる。
「フェニちゃん・・・ありがとう!」
ヨルムンガンドは心強い仲間を手に入れてホッとしている。
「フェニ、とても大事な話をしているのだよ。少しおとなしくしてくれるかな?」
「はーい!」
フェニは僕の言葉を聞いて、すぐにヨルムンガンドを見捨てる。
「食べてしまったものは仕方にですが、フェニはどんな力を手に入れたのですか?」
僕はヨルムンガンドを追求する。
「黒い二本のツノが生えたと言うことは、魔界の果実だと私は判断した」
「魔人しか使えない闇魔法を使えるということですか?」
「そのはずだ。そして、肉体も魔力も強化されたはずだ。しかし、完全に魔人になったわけではないので、普段の生活に支障は出ないはずだ」
自身ありげにヨルムンガンドは言う。
「ツノがあったら不思議がられるわ」
リヴァイアサンが心配する。
「髪飾りだと言えばいいだろう」
無責任な発言をするヨルムンガンドであった。
「このツノは私のお気に入りですぅ」
フェニはツノを触りながら嬉しそうに言う。
「フェニが喜んでいるなら、これ以上の追求はよそうかな」
「そうね。でも2度と不思議な果実を人間に与えてないで下さいね」
リヴァイアサンが強い口調で言った。
「お前が人間を連れてきたからこうなったのだろう」
ヨルムンガンドはボソッと言った。
確かにその通りであった。フェニのわがままを聞いた僕とリヴァイアサンにも責任はある。
「フェニ、町へ戻るよ」
「はーーい」
フェニだけは、ことの重大さを全く理解できていないのである。
僕とフェニはリヴァイアサンに乗って、世界樹の頂上から降りた。
「頂上はどうでしたか?」
エキドナがフェニに声をかける。
「世界が一望できて凄く綺麗でしたですぅ」
フェニはニコニコと笑う。
「フェニちゃん、そのツノはどうしたのですか?」
エキドナがフェニのツノに気づく。
「当然生えたのですぅ。かっこいいですぅ」
「エキドナ、こっちへきて!」
リヴァイアサンはエキドナにフェニが不思議な果実を食べたことを説明した。
「フェニちゃんはどうなる?」
エキドナが不安げな顔をする。
「フェニちゃんは、最強の人間になったと言っても過言ではないわ。いや、竜人族でも敵わないかもしれない・・・フェニちゃんが悪い方向に進めば人界は滅んでしまうかもしれないわ」
深刻な顔でリヴァイアサンが言った。
「フェニちゃんなら大丈夫よ。強大な力を平和の為に使ってくれるはずよ」
「私もそう思っているわ。でも、フェニちゃんの力を利用する者がいるかもしれないわ」
「僕が責任を持ってフェニを管理するよ」
僕はフェニにフェニックスの能力を与えている。それに加えて魔人並みの力を手に入れたフェニを僕は管理する義務があると思った。
「そうね。リプロさんに任せるわ」
「それが1番ね」
リヴァイアサンとエキドナは納得してくれた。そして、僕はフェニに僕が魔人であることを説明する事にしたのであった。
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