第381話 カースド共和国編 パート3

 

 「ルシスちゃん、どうしたの?」



 「食い逃げをしようとした人は、さぞかしお腹を空かしていたのだと思います。私がその人の代わりに代金を払うので、許してあげてもらえないでしょうか?」



 私は頭を下げてお願いする。



 「いくらお腹が減っていても食い逃げはダメよ。きちんと罰を受けてもらわないと!」



 犯罪者を簡単に許すわけにはいかないのである。



 「待ってください。私から食い逃げ犯にはキツく言っておきますで、捕らえるのだけはやめてください。先程の設備の件も無償でおこないます」



 私は食い逃げ犯はトールさんたちだと断言できる。小ルシスが袋の中の大金を石にすり替えたので、トールさんたちはお金を払うつもりが石になったのであろう。



 「ルシスちゃん、食い逃げ犯にはきちんと反省してもらったほうがいいわ」



 ロキさんも私と同じで食い逃げ犯の目星はついている。なので、ロキさんはきちんと反省してもらうために、一度牢に閉じ込められてた方が良いと思っている。



 「でも・・・」



 私は少し責任を感じている。トールさんたちが、すぐに大金が石だと気づいて食べに行くのを諦めると思っていたからである。まさか、こんな短時間でお店の食材がなくなるまで食べ尽くして、食い逃げ犯になるとは想定していなかったのである。



 「悪いのはルシスちゃんじゃないのよ」


 「そうです。ルシスお姉ちゃんは悪くはないのです」


 「あなたたち、もしかして食い逃げ犯に心当たりがあるのですか?」



 察しの良いディーバ様は、私たちのやりとりを聞いてそう思ったのである。



 「はい。実は・・・」



 ロキさんが先程の経緯を説明した。



 「そういうことでしたか・・・、ロキさん、どのようにすべきだと思いますか?」


 「トールたちには、一度痛い目にあって反省して欲しいのです。なので、2、3日牢屋に閉じ込めてください」


 「それが良いと思います」



 小ルシスはロキさんの意見に賛成している。



 「もちろん、支払いと迷惑金は私が責任を持って払います」


 「わかったわ。お店の方にはきちんと説明して理解してもらうわ。ルシスちゃんもそれで良いですか?」


 「はい」



 私はロキさんの意見に従うことにした。



 「さっきの無償で設備を整えてくれる件は了承するわ。トールさん達は罪には問わないけど、反省のために2.3日牢屋に閉じ込めるわね」



 ちゃっかり者のディーバ様である。


 私たちはトールさんのことはディーバ様に任せて、王都へ向かうことにした。




 

 「待ってくれ!さっきまでお金はあったのだ!」



 トールさんの叫び声が店内に響き渡る。



 「私は関係ありません」



 イフリートは颯爽と精印の中へ逃げて行った。



 「イフリート、私も連れて行ってよ!」



 ポロンさんはイフリートに叫ぶが、イフリートは無視して1人だけ逃げてしまった。



 「お前達を無銭飲食の罪で連行する」



 トールさんとポロンさんは拘束されて、ラディッシュの町の留置場に連れて行かれた。



 「俺は冒険者だ。お前ら『ラスパ』を知らないのか?」


 「もちろん存じ上げています。あなたがたが『暴食』のトールさんとポロンさんですね」


 「そうですわ。お金ならルシスちゃんが持っているはずよ。すぐに連絡してよ」


 「そうだ。俺たちは騙されたのだ!俺たちは被害者なのだ!」


 「ディーバ伯爵様に連絡をしていますので、その件はディーバ伯爵様にお伝えください。私たちは町の平和のために業務を全うしているだけです」



 トールさんとポロンさんは衛兵の説明を聞いて大人しくなった。それは、反省しているのではなく、ディーバ様に説明したら、解放されると思ったからである。


 トールさんとポロンさんは留置場に連れていかれて、牢屋の中へ閉じ込められた。そこへ、ディーバ様がやって来た。



 「トールさん、ポロンさん・・・なんてことをしてくれたのですか!」


 「ディーバ様聞いてくれ!最初は本当にお金はあったのだ。でも、支払いの時は石に変わっていたのだ。決して食い逃げをするつもりではなかったのだ」


 「そうよ。私たちが食い逃げなんてしないわよ。早くここから出してよ」


 「いきなり言い訳ですか・・・少しも反省しているようには見えませんね。あなた達は、ルシスちゃんから大金を取り上げて食堂へ向かったとロキさんから聞いているわ。いくらルシスちゃんが優しくて文句も言わないからと言って大金を取り上げるのはいかがなものかと思います。それでもルシスちゃんは、あなた方をすぐに助けてあげてと言っていました」


 「それならすぐに解放してくれ!」


 「そうよ。早く出してよ」


 「でも、そういうわけにはいかないわ。私の領地で悪意ではないにしても犯罪を犯したのは事実です。身元引き受け人が来るまでこの牢屋に監禁します」



 「それなら早くロキを呼んできてくれ」


 「そうよ。ロキが身元引き受け人になってくれるわ」


 「そうね。ロキさんも怒っていましたが、あなた方を見捨てるようなことはしないわ。しかし、ロキさん達は、王都へ向かっているわ。ロキさん達が戻ってくるまであなた方は牢屋で反省するのよ」


 「そうな・・・」


 「嘘よ・・・」



 トールさんとポロンさんは牢屋で倒れ込むのであった。





 

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