第61話 エッグプラントの町パート3



 「ルシスちゃん、聞いているの」


 「モフモフが・・・」


 「ルシスちゃん、これは大事な話しだよ」


 「モフモフより大事なことなんて・・・」


 「モフモフも大事なのはわかるけど、先にドラゴンの話をしましょう」


 

 リヨンさんの安堵の笑みが曇ってきている。



 「わかりました。先にドラゴンの話を聞きます」



 仕方がないので、私はロキさんからドラゴンの要求内容を確認した。



 「それなら、この前にお出ししたプリンがいいと思います。甘い物が好きなら問題ありません」


 「それがあったわね。これでなんとかなるかもしれないわ」


 「なんだ。そのプリンという食べ物は?」



 説明するよりも食べた方が早いと思ったので、ヤウルンにプリンを食べてもらった。



「これは絶品だな。このプルプルした食感に舌が溶けるような甘さ、今までに食べたことのない食べ物だ。これなら守護聖竜様も納得してくれるかもしれない」


 「こちら側からもお願いしたいことがあります」


 「報酬のことか」


 「報酬のようなものです。私たちは、ミスリルを求めてこの地にきました。ミスリルはドワーフしか持っていないとリークの町で聞きました」


 「もしや・・・お前たちも食べるのか」


 「違います。最高の装備を作りたいと思っています。それでミスリルを探しています」


 「そういうことか。残念ながら、今はミスリルはない。しかし、ドラゴンの住処を目指すなら竜光石をゲットできるかもしれないぞ」


 「竜光石とはどんな鉱石なのですか」


 「竜光石は、守護聖竜様がお食べになった、ミスリル・アダマントが体内から排出された特別な鉱石だ。ミスリル・アダマントの不要な成分を取り除いた、最高級の鉱石と言われている」


 「それはう○こじゃないのか」



 こんな下品なこと言うのはトールさんしかいない。



 「いきなり入ってきて、何を言っているの!」


 「だってそうだろ」


 「失礼なことを言わなでトール。ヤウルンさん申し訳ありません」


 「いや、気にするな。そう思われても構わないが、竜光石は、ドワーフにとって伝説の鉱石であり、守護聖竜様からの恩恵です。それほど貴重な鉱石であることは知っていてほしい」


 「わかりました。ドラゴンの住処に行ったときに探してみます」


 「そうした方がよいだろう。ミスリル・アダマントよりも貴重な鉱石だからな」


 「はい。それで、ドラゴンの住処はどこにあるのですか」


 「アトラス山脈の山頂に住んでいるが、そこまでへの道はかなり入り組んでいる。案内役にリヨンをよこそう。リヨンは、守護聖竜様への貢物の運搬を毎回任せているので、山頂への道にも詳しいし、それに守護聖竜様とも面識もあり、スムーズに話が進むだろう」


 「それは助かります」


 「やったー。リヨンさんと、同行できるんなんて嬉しい」


 「ルシスちゃんは、かなりリヨンさんを気に入ったんみたいだね」


 「はい。もう親友です」



 リヨンさんは、絶望的な眼差しで座り込んでいる。



 「リヨン、悪いがこの冒険者達を守護聖竜様のところへ案内してくれ」


 「守護聖竜様の機嫌を戻すためなら仕方ありません。案内いたします」



 リヨンさんは渋々承諾した。私たちが、プリンを届けないとドラゴンの怒りが収まらないからである。ルシスという、厄介な女の子の相手をするのは辛いが、そこは我慢するのしかないのである。



 その日は会談が終わった後、私の提供したお酒とおつまみをみんなで心置きなく食べたのであった。気付けば、その部屋には入りきれないくらいのドワーフが集まってきて、お酒やおつまみの取り合いになっていた。


 私は、モフモフのリヨンさんの立髪にしがみつきながらその光景を眺めていた。



 翌朝、私たちはエッグプラントの町を出て、ドラゴンの住処へ向かった。もちろん私の特等席は、リヨンさんの頭の上である。リヨンさんは、諦めているので何も言わない・・・



 「守護聖竜様の住処は、アトラス山脈の山頂になります。そこに向かうには、ドワーフが鉱山へ行くために、作ったトロッコを使って近くまで行くことができます。そこからは、私だけが知る秘密の抜け道を使えば半日もあれば着くと思います」


 トロッコは、ドワーフ10人が乗れる大きさなので、大きさ的に問題ない。魔力によって、駆動するみたいなので便利である。


 私たちは、快適なトロッコに乗って山頂を目指した。何度かトロッコを乗り換えて、やっと山頂付近までたどりついた。後は、リヨンさんの知っている、秘密の抜け道を通れば、ドラゴンの住処に着くことができるのである。


 リヨンさんの話によると、ドラゴンは普段は竜人として人の姿をしている。ドラゴンは姉のステン、次女のエウリ、三女のメドゥーの3姉妹になる。姿はとても美しく、頭には鋭い大きな2本の角があり、背中には鋭い翼、お尻から長い尻尾が生えている。


 姉のステンは、温厚で人柄もよく話しが通じる相手なので、交渉するなら姉のステンが良いらしい。次女のエウリは大人しく口数も少ないが、とても気品がありおしとやかな性格である。三女のメデューは、元気な明るい性格だが、かなりの食いしん坊で、今回町を石化した当事者である。


 姉の2人は、今回のミスリル・アダマントの盗難に関しては、私たちの落ち度なので、ドワーフに対して、何も要求してこなかったが、メドゥーだけが楽しみにしていたおやつがなくなったので、代わりを用意しろと怒ったらしい。


 私はどこの種族にも、食いしん坊はいるのだなぁーと感じた。そして、食い物の恨みは恐ろしいと思った。私もプリンを盗み食いをしたせいで、天国行きの予定が・・・いつの間にか、この異世界に来てしまったのである。


 私たちは、秘密の抜け道を通って、無事にアトラス山脈の頂上にあるドラゴンの住処に、到着したのである。  


 そこで待ち受けていたのは、顔を真っ赤にして、腕組みをしながら、こちらを睨みつけている可愛らしい竜人の女の子だった。

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