第32話 パースリの町過去編パート1



 パースリの町が、ゴブリンの大群に襲われる少し前の日にさかのぼります。



 僕はこの町の孤児院に来て1年になる。この孤児院は、この辺りを治める領主様が、多額の援助をされている。そして、子供達により良い環境を与え、未来を担う人物を育てる機関として、全力を注いでいる。


 この孤児院は外観も、貴族様のお屋敷と間違えるくらい立派な建物であり、1階には大きな広間、食堂、大浴場、など完備される。2階は、子供達の部屋になっていて、1部屋、2部屋、4部屋がある。年齢によって、部屋の割り当てがされている。


 孤児院では、午前中は教育の授業を受け、午後からは戦闘訓練をうける。また、授業や訓練は町の貧しい家の子供達にも解放されている。


 この充実したシステムの為、この国では、かなり評判になっていて、他の孤児院の子が、ここの孤児院に入りたいと願う子も多い。


 僕もこの孤児院に、入りたくて前の町の孤児院から、去年ついに入所できる事が出来たのであった。


 入所後、半年は、噂通りの素晴らしい孤児院だったが、半年後、僕は見込みなしという事で、地下の部屋での暮らしに変わった。



 ここの孤児院の実態は、見込みのある兵士になれる者を、育てる孤児院であり、その見込みのない者は、地下の部屋に送られてしまう。僕は、兵士になる見込みがないと判断されたみたいだ。



 地下の部屋は、薄暗くて何もない大きな部屋だ。そこには30人くらいの子供がいる。ほとんどが、僕と同じ男の子だ。女の子は、魔法が使えるので、孤児になる割合が少ない、魔法は生活にとても便利なので、両親を亡くしたりしても、身内の方が引き取る事や、養子なる事がほとんどである。


 この孤児院でも、女性の割合は1割程度だ。


 地下の部屋には、2人の女の子がいる。女性は将来有望なので、地下の部屋に来ることはない。この2人の女の子が、この部屋にいるのは理由がある。


 1人はアンナという14歳の女の子だ。この子は、町長に、この地下室の改善を求めた為、この部屋に連れてこられたらしい。


 しかしこの女の子が、この部屋にきてからは、魔法で、部屋を毎日綺麗にしてくれたり、食事も今までは、冷えた食事しか与えてもらえてなかったが、魔法で温めてくれるようになり、食事も美味しく食べれるようになった。


 アンナが来る前は、この部屋は、汚くて悪臭のするひどい有様だったらしい。


 もう1人は、クロエという女の子だ。この子は兄と一緒にこの孤児院に来たらしい。兄がこの部屋に連れて行かれたので、兄と離れたくないので、一緒に来たらしい。



この地下での生活は、勉強も戦闘も教えてくれない。僕たちがするのは、町での強制労働だ。奴隷のように扱われ、汚い仕事や、重労働を朝から晩まで、休む事なく働かせられる。少しでも、休むと、しつけという名の、暴力がおこなわれる。それで亡くなる子供達も多い。


 町の人は、税金で、あんな立派な孤児院で暮らせているのだから、落ちこぼれの子供達は、奴隷として、働くのは当然だと思っている。孤児院はあくまで、この町のまずしい子供達の、教育の場であり、ついでに、孤児の面倒を見てあげている、という考えなのである。


 今日は、特別な日である。月に2回おこなわれる、町長の狩りの日である。この狩りの日は、町長、自らが、狩りを楽しむ日であり、護衛の冒険者を連れて狩りに出かける。


 僕たちの役目は、獣を誘き寄せるエサの役目だ。逃げ遅れると、死に繋がるのでとても危険である。この狩りの日で、何人もの子供達は大怪我し、亡くなっているのである。


   


 「今日はイノシシでも狩ってやろう」


 「バサク男爵様なら、容易いなことでしょう」



 バサク・オズボーン男爵この男が、この町の町長である。



 「わしも、昔は名のある冒険者だった。お前らよりも強かったぜ」


 「いえいえ、今でも、バサク男爵様が、本気を出されましたら、私達では、勝つのは難しいでしょう」


 「は、は、は、そうかもしれんな」



 冒険者のミエミエのお世辞に、かなりのご満悦だ。


 

 「バサク男爵様、向こうにイノシシが見えます」


 「本当か、そこのガキ、向こうに行って、イノシシをこちらに追い立ててこい」


 「はい、わかりました」



  僕と一緒に連れてこられた、男の子が、イノシシの方へ向かう。失敗は許されない。男の子は、イノシシに気付かれないように、背後に回ろうとしたが、イノシシはすぐに男の子に気付いた。


 ここでイノシシが逃げたら、この男の子は、バサクに何をされるかわからない。男の子の顔は青ざめている。


 しかし、イノシシは、男の子目掛けて突進してきた。


 

 「よし、でかしたぞ」



 イノシシは、射程圏内に入ってきたのであった。バサクは、弓矢を飛ばす。

 何度も弓矢を射抜く。射抜く。射抜く。射抜く。


 が全く当たらない。


 イノシシは、弓矢に気付いて、男の子を追いかけるのをやめて逃げ出した。


  

 「一発くらい当たっただろう」



 誰がどう見ても当たっていないが・・・



 「私が確認してきます」



 そういうと、冒険者の1人が、イノシシが逃げた方向へ走って行った。そして、数分後。



 「矢が1つ当たっていて、あちらで、力尽きて倒れていました。見事です」


 「うむ。これくらい楽勝だ」


 

 バサクは満足そうだ。こんなアホな奴のために、僕たち孤児は、ひどい目にあっている。領主様の援助金も、ほとんどは、自分のものにしているらしい。領主様、いや、クソ領主もこのアホバサクのやっている事に、気付かない無能な領主だ。



 「もう少し奥に行くぞ」


 「バサク男爵様、これ以上、森に近づくと危険です。最近は、ベアーウルフの目撃情報があります」


 「ベアーウルフかぁ、わしでも少してこずりそうだな」


 「さすがのバサク男爵様でも、厳しいかとおもわれます」


 「そうか、それならやめとくか・・・・お・・・あそこにも、イノシシがいるぞ。もう少し奥へ行くぞ」


  

 そう言うと、バサクは、イノシシを追いかけて、森の方へ向かった。慌てて護衛の冒険者もついて行く。



 残った他のバサクの護衛の女性冒険者が、僕達を連れてきた馬車に乗り込み、バサクを追いかけた。


 

 「ごめんね、バサク男爵のせいで、今から危険ところに行くことになるわ。ここから先は、私たちでは、君達を守ることは、難しくなるから、危険だと感じたらすぐに逃げてね」






 「バサク男爵様は、見つかった?」


 「ああ、みつけたが、でも森の入り口あたりまで、来てしまった。早く戻ろう」




 「ここで、狩をするぞ。子供らを馬車から、降ろして周りを探索させろ」


 「危険です。おやめください」


 「うるさいぞ、早く探索させろ」



 バサクと冒険者が揉めているみたいだ、僕たちは、話しがきこえていたので、冒険者に迷惑をかけたくないので、探索する事にした。



 「僕たち見てきます」


 「イノシシがいたらこちらへ、お引き寄せろ」


 「わかりました」



 そう言うと、僕達は森へ入り、イノシシを探した。森の奥へ行くほど、危険なので奥へ行かないように、入り口付近で僕はウロウロしていた。



 「まだいないのか」


 

 アホバサクが吠えている。



 「うわぁぁー助けて」



 森の奥へ、イノシシを探しに行った、1人の男の子が叫ぶ。


 僕は気になって、危険だけど森の奥へ進む。

 

 森の奥へ進むと、熊みたいに大きなオオカミがいる。ベアーウルフだ。僕は叫んだ。



 「ベアーウルフがいる。みんな逃げて」



 最初にベアーウルフに見つかった子は、ベアーウルフの足元で、人形にように転がっている。僕の声にベアーウルフが気付く、僕も逃げなければあぶない。しかし、このまま馬車の方へ逃げたら、みんな、ベアーウルフに殺されてしまう。


 アホバサクは死んで欲しいが、冒険者や、他の子供達まで、巻き込みたくない。僕は、森の奥へ逃げる事にした。





 

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