第33話 パースリの町過去編パート2
僕は、無我夢中で走った。ただひたすら、走り続けたのであった。もう走る体力もなくなってきた。みんなは無事に逃げれたのかな?あの町に戻っても、ろくな人生は待ってはいない。ここで死んでも後悔は無いかな・・・
いや、死にたくない。あんなアホバサクや、町の人々から奴隷のように働かせれて、最後は、結果的にバサクを助ける形で、ベアーウルフのエサになるなんて悲しすぎる。
力のない僕は、ずっと、虐げられる人生しか待っていないのかもしれない。それでも、死にたくない。僕は、死への恐怖から震えながら、涙を流しその場に座り込んでしまった。
死にたくないと、思いながらも、最後は何もせず諦めてしまった。
「君はそこで、何をしているの」
僕の前にあらわれたのは、ベアーウルフではなく、金色の髪ををした僕と同じ歳くらいの男の子がいた。僕と違うところと言えば、頭に黒くて綺麗な2本のツノが生えていることだ。
「ベアーウルフに、襲われたので、逃げているところです」
「そうなんだ。でもベアーウルフは逃げていったよ」
子供の僕でわかる。この子はものすごく強い。見た目は、美しい美少年だけど、伝わってくるオーラで、息をするのも苦しくなるくらいだ。しかし、僕に対する敵意は感じられない。
「助けてくれたのですか」
「ベアーウルフは、僕に気付いて勝手に逃げたけどね。少し君に興味があって、上から見ていたんだよ。君は弱いのに仲間の為に身を犠牲にしていたね」
「それくらいしか、僕に出来ることはなかったのです」
「人間にしては立派なものだよ。聞いた話によると、人間は弱い者いじめや、争い事ばかりしているみたいだからね。弱いのに頑張るのはいいことだよ。僕の大切な人も、力を失ってしまったけど、精一杯生きているはずだから・・・」
「僕も強くなりたいです。あの町の人たちを見返してやりたい」
「町で何かあったのかな」
僕は、孤児院や町でのことを少年に話した。
「その町はパースリの町でのことなんだね」
「はい。パースリの町はご存知なのですか?」
「そうだね。あの町の教会に興味があったからね」
「神守教会ですか?あの教会の教えはひどいものです」
この少年は亜人であると思った。神守教会の教えだと、亜人は魔王に手先であり、この国を滅ぼす、災いの種族とされているので、亜人にとってはひどい教えである。
「そうだね。・・・・そうだ君にいいものあげようか。あの町にかなりの怒りが、あるみたいだしね」
「何をくれるのですか」
「このハーメルンの笛をあげよう。この笛は魔獣を召喚できる笛だよ。君が望んだ日に魔獣の大群を送り込めることができる便利な笛だよ。これで、町の人に復讐ができるよ」
「魔獣に町を襲わせる笛なんですね」
「そうだよ、そんなに強い魔獣じゃないけどね。この笛は2回使えて効果は一週間だよ、一週間経つと、魔獣は召喚元に消えて行くよ」
「僕は襲われないのですか?」
「笛を吹いた人が、召喚主だから、襲うことはないし笛を吹いた時に日時も設定できるので、安全な場所に避難していたらいいよ。ついでにこれもあげるよ。この石をもっていたら、魔獣が近寄ることはできないよ。もし守りたい人がいるなら、これを渡すといいよ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、僕はもう行くね。その石を持っていたら、この森でも魔獣に襲われることもないから、森から抜ける事ができるよ」
「待ってください」
「まだ、何かようかな」
「僕は、強くなりたいのです。貴方様にように強くなりたいです」
「・・・」
「お願いします。僕は素質もなく、神技を得る事もできませんでした。無能力者なので、いくら頑張っても無駄だと言われて、この先もずっと、虐げられる人生は嫌なのです。お願いします。僕を強くしてください」
「・・・」
「お願いします」
「具体的にどう強くなりたのかな」
僕はずっと思っていた。女の子に生まれていたら、魔法も使えて強くなれるかもしれないと。
「女性にように魔法が使えるようになりたいです」
「そんなことか。それなら簡単だ。少し痛いけど我慢してね」
そう言うと少年は、僕の胸に手を突き刺した。しかし、さほど痛みは感じなかった。何をされたかよくわからないが、その少年は、僕の胸の中に突き刺した手で何かしているみたいだ。
「終わったよ、これで君は今日から女の子だよ」
「何をなされたのですか?」
「少し君の魔石をいじっただけだよ、少しサービスしておいたからね」
体の異変は、すぐに分かった。体、声、顔の形、全てが女性になったのがわかる。しかし、一番の変化は魔力だ。体に流れる魔力を感じる。血液が血管を流れるように、魔力も全身に流れている。この魔力の流れを、意識してコントロール出来る量が増えるほど、より強力な魔法が使えるらしい。
「じゃあ、行くね」
「待ってください」
「まだ何かようかな?」
「私を、弟子にしてください」
「・・・・」
「お願いします」
「・・・・」
「お願いします」
「それは、さすがに無理かな」
「それなら、1日でいいので、魔法の使い方を、教えてください」
「・・・・」
「お願いします」
「・・・・」
「お願いします」
「これで最後だよ」
「はい。最後のお願いです」
少年は、私に根負けしたみたいで、魔法を教えてもらえる事になった。少年の名はリプロというらしい。
リプロ様の指導は、魔力の流れをイメージして、魔力の流れを感じとる。というシンプルだけど、やってみると、これがかなり難しい訓練であった。しかし、数時間後には、なんとか魔力の流れを感じとる事ができた。
あれから、私の最後のお願い攻撃が炸裂し、1日の予定が、3日に伸ばす事に成功した。3日後には、リプロ様の指導のおかげで、レベルの低い魔法だが、自在に使えるようになったのである。
「君は魔法の才能は、あるみたいだから、これからも頑張るんだよ」
「ありがとうございます。それで、最後のお願いなんですけど・・・」
「・・・・」
リプロ様は沈黙で答える。
「私に名前をつけて、もらえないでしょうか。女性として生まれ変わったので」
「そうだな・・・フェニなんてどうかな」
「素敵な名前です。これからは、フェニと名のります」
私はリプロ様に、お礼をすると、この森を抜けてパースリの町へと向かった・・・
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