第31話 ラディッシュの町パート3
「簡単な依頼よ。娘が王都へ帰る時の護衛をお願いしたいのよ。昨日のオークパレードの発生、数日前のパースリへのゴブリンの占拠。偶然だといいのだけど、念のために、あなた方に護衛をして欲しいのよ」
「私からもお願いします。不甲斐ないですが・・・また、オークスターレベルの魔獣が、あらわれたら私にはどうすることもできません」
「王都かぁー、あんまり行きたくないな」
「他国の冒険者は、王都の冒険者から嫌われているので、ご迷惑をかけるのでは?」
ロキさんが心配そうに言う。
「確かに、王都を拠点とする冒険者は、他国の冒険者に対してよくない感情を持っているのは事実です。でも、最近は王妃から、ギルマスに改善するようにとお達しがいっているはずです。それに、あなた方を、Cランク冒険者に推薦しよう思っています」
「それは、本当ですか?」
みんなビックリしている。
「あなた方は、それだけの実力があるとおもっているわ。私は、王都のギルマスとは仲が良いので、今回のあなた方の活躍をきちんと報告するわ」
「これはビッグチャンスかもな」
「確かにそうね」
「王都に行きましょうよ」
3人の気持ちは同じみたいだ。念願のCランク冒険者の扉が目の前にあるのに、その扉を開かない冒険者などいないのである。
「引き受けましょう」
「助かります。それと、王都に行く途中に、ブラカリの町へ行って欲しいの」
「ブラカリかぁ・・・簡単には、Cランク冒険者の推薦はもらえないと言うわけか」
ブラカリの町とは、聖魔教会と名のる、魔王崇拝者が領主をしている特殊な町である。
この国は、『神守聖王国オリュンポス』という。
150年前この国は、魔王により殲滅の危機に瀕していた。国の7割の地域が、魔王の手下の魔獣により崩壊した。そして、その魔獣の軍勢が、王都の近くまで攻め込んできた。その軍勢を率いる魔王を倒したのがこの国の当時の王子だったらしい。
王子は生まれながら、神の力を授かっている神の子と言われる能力者であった。その能力を駆使して、様々な討伐を成功させ、Aランク冒険者になった人物である。
王子は、魔王があらわれた時は、他の国で魔獣の討伐中であった為に、直ぐには対応できなかった。しかし王都に攻め入られる前には間に合い、魔王を討伐したと言われている。
魔王討伐には、かなり苦戦したらしく、仲間の冒険者の3名は、この戦いで命を失い、王子も魔王に殺されかけたが、王子の体に神ゼウスの力がやどり、王子は体を雷に変えて身を挺して、魔王を倒した・・・が王子は、魔王を倒したあとに、力尽きて天界へ召されたと言われている。
神ゼウスが、王子に手を差し伸べて、この国を救ってくれたので、神から守られている国ということで、神守聖王国となのっているのである。
そして、その天に召された王子を神と、讃えるのが神守教会なのである。
しかし、その教えを、真っ向から意義を唱えるのが、ブラカリの町の聖魔教会である。
聖魔教会の教えでは、そもそも魔王がこの国を侵略したのではなく、魔獣王が侵略したとの考えである。
150年前、魔獣の侵攻は、ブラカリの町まで、押し寄せていた。もう、逃げる場所もなく、あとは、魔獣に食い殺されるのを、待つのみであった。この町を治める領主は、ただ、神に祈りを捧げ奇跡がおきることを待っていた。
そして、奇跡はおきた。あらわれたのは神様ではなかったが・・・
領主の前にあらわれたのは、背が高いくとても美しい女性・・といってもおかしくないほどの、美しい男性であった。髪は長く金色で、瞳の色は透き通るような緑色。肌は白く、どこかの国の王子様のような姿であったが、頭には黒くて鋭い2本のツノがあり、背中からは黒くて大きな尖った翼が生えていた。
領主は一目見て希望はなくなり、この町、この国、いや、この世界は滅ぶであろうと感じた。領主は恐ろしさのあまり、動くことができなかった。
その時に、男性と領主はこんなやりとりが、あったらしい。
「魔王が、あらわれたというのは本当か?」
「はいそうです。」
「それは、間違っているぞ。この国で暴れているのは、魔王ではなく、魔獣王だ。この世界の生き物は争いが絶えないな。このまま滅びても、かまわないが魔王のせいにされては困る」
「もしかして、貴方様が魔王様ですか」
「そんなことは、どうでもいい。今回だけは助けてやるが、今後は、種族関係なく争い事はしない事だな」
そう言うと、男性は、黒い大きな渦を上空に作り上げた。その大きな渦は、まるで、ブックホールのように、ブラカリに侵攻している全ての魔獣を、一瞬で吸いこんでしまった。そして男性は魔獣王のもとへ向かったのである。
これが、聖魔教会の教えであり、魔獣王を魔王が倒して、この国が救われたと言う考えである。
この教えは、神守教会の教えとは、真逆にちかいものがあり、聖魔教会が魔王様の示す、種族関係なく共に暮らす世界を目指すが、神守教会は、魔獣だけでなく、人間以外の種族は全て危険な存在とみなし、また、神に守られているのは、人間だけであるので、それ以外の種族は滅ぼした方が良いという考えである。
魔獣の群れに、家族や大事な人を殺され、また、町も破壊された人々は、当初は神守教会の教えにすがる者もたくさんいた。しかしここ50年くらいは、神守教会の人間至高主義的な考えは、極端であると、意を唱える者も多くあらわれるよになってきた。今の国王は神守教会よりであり、王妃は聖魔教会よりである。
昔は、神守教会の考えは、国の教えであるとされていて、教会はかなりの力を持っていたが、今はその力は弱くなってきたので、教会からは不満の声が上がっているらしい。
また、聖魔教会の教えは、王子の功績を侮辱する教えであり、国を危機に陥れた魔王を崇拝するとは、非国民だと当時は酷く迫害を受けたが、その後、その考えを受け入れるものも、増えてきて、他の国から、または、人間以外の種族もブラカリの町を訪れて、ブラカリに町は、この国で1番の発展を遂げたと言われている。
しかし、ブラカリの町は、魔王を崇拝しているので、大半の国民は、この町に訪れるのは、避けているのである。
「ブラカリへ行きましょう」
私は、ブラカリの町は、本で読んだことがあったので、1度行ってみたいと思っていた・・・いや、絶対に行きたいのであった。
「あの町は、俺たちの国でも有名な町で、絶対行きたくない町No.1の町だぜ」
「行きたい。行きたい」
「私も、あまり乗り気ではないですが、伯爵夫人の依頼なので行くことに賛成だわ」
「マジかぁー」
「やったぁー」
私とトールさんのテンションは真逆だった。
「そしたら、娘が王都に帰るのは2週間後なので、よろしくね」
「わかりました」
私たちは、伯爵夫人の依頼を受けて、宿屋に戻ったのであった。
「ルシスという女の子は、聞いていたとおり、悪い子ではなさそうね。しかし、とても、オークを殲滅させたとは、信じられないわ」
「しかし、ディーバ様、報告には間違いはありません」
「あなたの報告は、信じているわ。でも、わからないことばかりだわ。なぜ魔王と呼ばれたら、あんなに嬉しいそうにするのだろう・・・。もしかしたら、ブラカリの町にヒントがあるかもしれないわ。何か探ってきてね」
「わかりました」
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