第219話 神守聖王国オリュンポス パート28



 そして、『グルメ祭り』が開催された。


 『グルメ祭り』は王都の大広場で行われる。大広場の真ん中に3つの出店が立ち並ぶ。そして、出店で買った品物を広場で食べるのであった。1番多く売り上げを出したお店は、ネテア王から褒美がもらえるのである。



 1番インパクトのある『ラスパ』の唐揚げ屋さんに、たくさんの行列ができた。私の作った可愛いピンクの出店の効果もあったが、神守聖王国オリュンポスの混乱を防ぎC1ランクになった『ラスパ』がどんな冒険者なのか、見に来るお客さんも多かったのである。


 私は気合いを入れて、たくさんの唐揚げを作った。それは少しでも待ち時間を短くするためである。私は、ゴーレムを作って代わりに仕事させることもできるのだが、自分が作り出す最高級の唐揚げをお客さんに届けたいのであった。お客さんが私の唐揚げを食べて、美味しいと笑顔になってくれるのをとても楽しみにしていた。


 次々と私の作った唐揚げを、ロキさん達が販売する。初めは恥ずかしがっていたロキさんも、お客さんから、『その衣装可愛くて、とても似合っていますね』と言われて、喜んでいた。


 トールさんとポロンさんも無駄愚痴を言わず、黙々と仕事をしていた。C1ランク冒険者になったので、いつもの悪ふざけはせずに一生懸命唐揚げの販売を頑張っていたのであった。


 しかし10分後・・・次々とお客さんからのクレームが押し寄せてきたのであった。



 「唐揚げ5個入りを注文したのに4個しか入っていません」


 「唐揚げ8個入りを注文したのに7個しか入っていません」



 なんと唐揚げの入り数が足りないとクレームが絶え間なく続いたのである。



 「トール、ポロンつまみ食いをしたの!」



 もちろん真っ先に疑われるのはこの2人であった。



 「俺はC1ランクになった冒険者だぜ。『ラスパ』の信用が下がることしないぜ」



 トールさんの曇りなき眼差しは真実を言っている。



 「私もよ。C1ランクになっての最初の依頼で、ヘマをするわけにはいかないわよ」



 ポロンさんの真剣な表情に嘘の気配は全く感じることはできない。



 「ロキ・・。お前が犯人なのか!」



 推理小説で刑事が実は犯人でした的なあくどいストーリーのように、誠実なロキさんが唐揚げをつまみ食いしたのかもしれないとトールさんとポロンさんは思ったのであった。



 「そんなことしないわよ」



 ロキさんの純粋な瞳に嘘の光は映らない。



 「じゃ、誰なんだ」



 トールさんが叫ぶ。


 私は唐揚げを作るのに夢中で、『唐揚げつまみ食い事件』に気づいていなかった。


 

 「お客様にお詫びをして、唐揚げを一個多めに渡して対応して」



 ロキさんは敏速に対応した。


 しかし、唐揚げ不足のクレームは一向におさまらない。


 その時、ポロンさんが異変に気付いた。


 ポロンさんが唐揚げを8個詰めて、お客様に差し出そうとした時、唐揚げが瞬時に消えたのであった。


 

 「キャーーーー」


 「どうしたポロン」


 「唐揚げが瞬間移動しましたわ」


 「なんだと!唐揚げ自ら姿を消したのか・・・」



 トールさんはうなだれるように言った。



 「トールそう言うことよ。私たちは大きな間違いをしていたのよ。私たちは大事な仲間を疑っていたが、真犯人は唐揚げ自身だったのよ」


 「さすが、ポロン名探偵!これで事件は解決だな」



 トールさんとポロンさんがかたい握手をして事件の解決を喜んだ。



 「何を言ってるのよ。唐揚げが自分で消えるわけないじゃないのよ」



 ロキさんが2人を怒鳴りつける。



 「じゃ、唐揚げはどこに行ったのよ」


 「そうだ!そうだ!」



 トールさんとポロンさんが反抗する。



 「天井の角を見てみなさい」



 ロキさんが天井を指さした。


 そこには、天井にへばりつきながら唐揚げを食べているサラちゃんがいた。



 「サラ、何をしている!」



 トールさんが叫ぶ。



 「バレてしまったわ。でも、私を除け者にするからいけないのよ」



 サラちゃんは天井からおりてきて、頬を膨らまして怒ってるアピールをする。



 「これは『ラスパ』の依頼だぜ」



 トールさんは言う。



 「私も『ラスパ』の一員ですわ。アトランティスの地下遺跡に運んであげたのは私ですわ」



 サラちゃんが堂々と言った。



 「確かに、サラちゃんは『ラスパ』の一員だわ」



 ロキさんが言った。



 「そうなのよ。私は『ラスパ』副リーダーなのよ!」



 サラちゃんは胸を貼って言った。



 「・・・」



 副リーダーの件はみんなスルーした。



 「サラちゃんごめんね。サラちゃんも手伝ってくれるかな?」



 ロキさんはサラちゃんに販売の手伝いをお願いした。



 「嫌よ。私は『ラスパ』の副リーダーなのよ。販売なんて下っ端のトールとポロンがしたらいいのよ。私はここで唐揚げの完成度をチェックする、唐揚げアドバイザーとして協力するわ」



 サラちゃんはにこやかに言った。



 「誰が下っ端やねん!」



 トールさんは関西弁でツッコんだ



 「そうそう、私が『ラスパ』の下っ端のポロンです。なんなりと雑用を言ってください・・・て誰が下っ端やねん!」



 ポロンさんが慣れないのりツッコミをした。



 「サラちゃん・・・何をしているのかな」



 私は鋭い視線でサラちゃんを威圧した。



 「オホホホ・・・なんでもないのよ。忙しそうにしていたから、手伝いにきたのよ」



 サラちゃんの顔が真っ青になっていた。



 「ありがとう。サラちゃん!それならみんなで販売を頑張ってね」



 「もちろんよ」



 サラちゃんは元気よく返事した。


 こうして、『唐揚げつまみ食い事件』は無事に解決したのであった・・・が『ラスパ』の唐揚げ屋さんは、唐揚げの量を誤魔化していると噂がたって、売り上げと『ラスパ』の評判がどんどん落ちていくのであった。

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