第339話 魔石国家ケルト王国編 パート9


 僕たちが屋敷の中に入ると、鎧を着た5人の兵士が剣を構えて待っていた。



 「お金を置いてささっと立ち去れ!」



 兵士の1人が剣を僕に向けながら言った。



 「ここは魔石具屋さんじゃないのですか?」


 「お前らのような他所者に、高度な魔石具を売るわけないだろう。ここはお前らような金だけは持っている馬鹿な奴らから、お金を奪い取る場所だ。命だけは助けてやるからお金を置いてささっと自分の町へ戻るのだな」


 「強盗は犯罪ですぅ。この町の兵士さん達に報告しますぅ」



 フェニは兵士に臆することは全くない。僕がいるので安心しているのである。



 「ハハハハ、ハハハハ、このガキは面白いこと言っているぞ。俺たちがこの町の兵士だ!他所者からは自由に金品を奪っても良いとテウス王から許可はもらっている。この町に立ち入った者の全ての財産はテウス王の所有物になるのだ!」


 「そうなんですね。でも、僕はお金を渡すつもりはありません」


 「渡さないのなら奪うだけだ。俺らに逆らわなければ命だけは助けてやったのにな!」



 兵士は僕を睨みつけて、ニヤニヤと笑い出す。



 「殺しても構わん。金を奪え!」



 兵士は他の兵士に指示を出すが、誰も動こうとしない。



 「おい!何をしている?ぼーとしてないで、ガキを殺して金を奪え」


 「・・・」



 残りの4人の兵士たちは魂が抜けたように白目を剥いて呆然と立ち尽くしている。


 僕は人界に来る際に2体の魔物を連れてきた。一体は移動用のアバオシャ、もう一体は僕の影に潜んでいるバクである。バクは小さな魔物で10cmサイズの可愛い魔物である。しかし、可愛い姿とは裏腹にバクは恐ろしい魔物である。バクは魔人にしか姿を見ることができないので、人界では誰もバクを見ることはできない。そして、バクは魔石を喰らう魔物である。バクは人間の体を傷つけることなく魔石のみを食べるので、4人の兵士は、何も気づくことなく魔石を食われて死んでいるのであった。



 「お前達どうしたのだ!」



 兵士は仲間の兵士を揺さぶって声をかける。しかし、返事をするどころかそのまま倒れ込んでしまう。



 「どうなっているのだ?」



 兵士は困惑して、あたふたして顔が青ざめていった。



 「お前が何かしたのか!」



 兵士は怯えた表情で僕を見た。



 「悪いことしたから悪魔様が、罰を与えたのではないのかな?」



 僕は兵士を冷たい目で睨みつけて言った。



 「許してくれ、俺が悪かった。治癒の魔石具を売っている場所を教えるから許してくれ」



 兵士は頭を下げて懇願する。



 「本当ですか?」


 「はい。今から高度な治癒の魔石具を売っている場所の地図と紹介状を用意します」



 兵士は震える手を抑え付けながら紹介状と地図を書いて僕に渡してくれた。


 僕は地図と紹介状の内容を確認してから屋敷を後にした。



 『リワインド』



 屋敷を出た後に僕は『リワインド』の魔法を使って、時を巻き戻して死んだ4人の命を復活させた。


 

 「おい、ガキはどこに行った」


 生き返った兵士が大声で言った。



 「お前・・・達・・死んだのではなかったのか?」


 「何をバカなことを言っているんだ!俺が死んでいるわけないだろう」



 兵士たちは自分たちが一度死んでいたなんて気づくわけがない。



 「しかし、さっきまでお前達は死んでいたはずだ!」


 「お前は夢でも見ていたのではないのか?それよりも大金を持ったガキはどこへ行ったのだ!」


 「知らない。気づいたらガキ達は消えていた」



 兵士は命乞いして、店の地図と紹介状を書いたとは恥ずかしくて言えないのである。



 「幻術魔法か・・・」



 1人の兵士が呟いた。



 「そうだな。そのガキはかなり高度な幻術魔法を使ったに違いない。俺たちにお金を奪われると察知して、幻術を使って逃げたのだろう」


 「それに間違いない。それなら俺がお前達が死んだ姿を見たことも納得がいく」


 「ガキを探すか?」


 「いや、高度な幻術魔法を使うガキを相手するには危険がある。次の獲物を探す方が安全だ」


 「そうだな」



 兵士たちは僕を探すことを諦めてくれたのであった。



 「リプロ様、さっきの可愛い小動物はなのですか?」


 「フェニにはバクの姿を見えるの?」


 「他の人には見えないのですか?」


 「そうだよ。バクは僕にしか見えないよ」



 魔人にしか見えないとは言えない。



 「私にはバクちゃんは見えますぅ。なぜだろう?」


 「もしかしたら、僕が能力を与えたせいかもしれないね」



 僕がフェニに悪魔であるフェニックスの能力をあげたから、フェニは魔人に近い体になってしまったので、フェニにもバクが見えるのであろう。



 「バクちゃん可愛いですぅ。触ってもいいですか?」


 「いいよ」


 

 僕はバクをフェニに渡した。


 フェニはバクを抱きしめて嬉しそうにしている。バクもフェニに抱きしめられてとても嬉しそうだ。バクはフェニが気にいたみたいで、フェニの腕から離れようとしない。



 「本当に可愛いですぅ」



 フェニもバクを離そうとしない。


 僕はバクを影に潜ますのを諦めて、魔石具屋に向かった。

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