第340話 魔石国家ケルト王国編 パート10


 僕は強盗の1人が書いてくれた地図に示された魔石具屋に到着した。さっきの強盗の屋敷と同じように立派な屋敷であった。しかし、この屋敷の門にはきちんと門兵がいて、紹介状の提示を要求してきた。この魔石具屋は会員制であり、会員以外は紹介状がないと入れない規則となっていた。



 「ロイドさんの紹介ですね。あの方が紹介状を書くなんて珍しいです。ロイドさんのお知り合いですか?」

 

 「はい。そうです」



 僕は適当に話を合わせてみた。



 「そうですか・・・今日はどのような魔石をお探しですか?」


 「姉の難病を治す魔石具を探しています」


 「治癒の魔石具ですね。それなら色々とありますので、屋敷まで案内します」



 僕は門兵に連れられて屋敷の中へ入っていた。



 「ロイドさんから紹介です。治癒の魔石具を探しているそうです」



 そう言うと門兵は屋敷から出て行った。



 「治療の魔石具ですね。浄化の魔石具、呪い解除の魔石具、状態異常解除の魔石具があります。どれがお望みですか?」


 

 店主は、僕の要望に叶いそうな魔石具を取り出してテーブルに並べた。


 治療の魔石具は、病によって弱くなった魔石を元の綺麗な魔石に変えるオーソドックスな治癒の魔石具である。しかし、品質、効能はかなり良さそうだが、経験を積めば作ることはさほど難しくない魔石具である。


 呪い解除の魔石具は術師に呪いをかけられたり、アンデットの魔獣に呪われた時に必要になる魔石具である。この魔石具もある程度の知識があれば作ることができそうだ。


 状態異常解除の魔石具は、毒や混乱、不穏などの状態異常を治す魔石具である。これもある程度の技術があれば作る事ができる魔石具だ。


 僕は治療の魔石具を手に取ってみた。



 「これはかなり貴重な魔石具ですね」



 僕は店主の様子を伺うために嘘を付いた。



 「ほほう、この魔石具の価値がわかるのですか?」


 「治療の魔石具は、どこでも売っていますが、ここに置いてある治療の魔石具は、品質が格段に違います」



 と言って治療の魔石具を欲しそうな演技をした。



 「若いのによくご存知で、この治療の魔石具は、その辺で売っている治療の魔石具とはレベルが違います。腕のある職人が長年の研究をもとに作り上げた治療の魔石具の最高傑作と言えます。これならどんな難病でも治すことができるはずです。是非お買い上げください」



 店主は僕がこの魔石具を気に入ったと思い込んで、価値以上に誇張して僕に説明した。



 「いえ、僕には必要の無いものです」



 魔石具屋の店主はボッタクルことができなくてガッカリしている。



 「あなたがお探しの治癒の魔石具とはどのようなものでしょうか?」


 「高度な治癒の魔石具です」


 「この治癒の魔石具ではダメなのでしょうか?大抵の病気なら完治するはずです」


 「はい。これでは私の姉の難病を治すのは無理です」


 「ほほう・・・かなり深刻な事態なのですね」


 「はい。もっと高度な魔石具は無いのですか?」


 「ロイドさんの紹介ですので、特別にレアな魔石具を見せてあげましょう」



 魔石具屋の店主は僕を隣の部屋に案内してくれた。フェニは、キョロキョロしながら、僕の邪魔をしないようにおとなしくしている。



 「これは身代わりの魔石具です。これを使うとどのような状態からでも元の状態に戻ることができます。あなた様のお姉さまの難病もこの魔石具が代わりに病気を引き取ってくれるでしょう」



 身代わりの魔石具とは、死に直面しそうなダメージなどを負った時に代わりにダメージを吸収してくれるレアな魔石具であり、人界でこの魔石具を作るのは不可能である。僕は身代わりの魔石具を見て天界の介入があると確信した。



 「ぜひ、それを買いたいです」



 僕は天界介入の証拠として、この魔石具を購入することにした。



 「これは1点しか無い貴重な魔石具です。かなり高額ですがどれくらいお金を持っているのですか?」



 魔石具屋の店主は、ニタニタと笑みを浮かべながら言う。



 「いくらですか?」


 「✖️✖️✖️です」



 かなりのボッタクリ価格を提示したきた。この価格だと豪邸が2軒は買える金額である。



 「かなり高いように思えますが・・・」


 「でも、これがないとあなたのお姉さは助かることはできません」


 「でも・・・手持ちが足りなくて・・・」



 お金は十分に持っているので買うことはできるが、ボッタクリ価格で買うつもりはない。



 「お金はなくても大丈夫ですよ。お連れの女の子と交換で構いません」



 魔石具屋の店主はフェニをじっと見てデレデレしている。魔石具屋の店主の狙いはフェニであった。フェニを奴隷としてもらうために高額な金額をふっかけてきたのである。



 「リプロ様の役に立てるのなら、私はどうなっても構いません」



 状況をよくわかっていないフェニだが、自分が役に立つなら命でも投げ出す覚悟があるたいである。



 「フェニ、そんなことをしなくてもいいよ。この魔石具は諦めるよ」


 「でも・・・お姉様を助けるには、あの魔石具が必要ですぅ。私はリプロ様に命を救われましたので、その恩返しがしたいのですぅ」


 「フェニ、せっかく生き延びた命を粗末にしたらダメだよ。こんな男のところに行ったら、ひどい目にあうよ」


 「大丈夫です。変なことをされそうになったらやっつけますぅ」



 フェニなら、魔石具屋の店主なんて簡単に倒すことができるはずであるが、そういう問題ではない。



 「どうしますか?私はどちらでもいいのですよ?」



 いやらしそうな目つきでフェニを見ながら言った。



 「身代わりの魔石具は諦めます」



 天界の介入が確認できただけでよしとした。それにお姉ちゃんの浄化を治すにはこの魔石具ではダメである。これくらいの魔石具なら僕でも作ることが出来るからである。



 「お前は良くても俺は困るのだ!その女を俺によこせ」


 「ダメです。フェニは渡しません」


 「お前の意見など聞いていない。命が惜しければその女と置いていけ」



 魔石具屋の店主が合図をすると、部屋の中に屈強な4人の男性が入ってきた。



 「バクちゃん、あいつらを倒しちゃえ!」



 フェニは大事に抱えていたバクを放ったのであった。

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