第72話 ブロッケン山にてパート1




  馬車で、ブロッケン山の近くまできた私たちは、ここで野営することにした。もちろん私の簡易の家での野営である。


 いつも通りに快適な家で、美味しい料理を食べていたら、召喚していないのに勝手にサラちゃんが、あらわれた。サラちゃんは、いつでもポロンさんの精印から自由に出入りできるのである。



 「イフリートから聞いているわ。チーズインハンバーグを私に用意しなさい」



 サラちゃんは、イフリートを使ってこちらの情報を全て把握しているのである。それならば、私たちをブロッケン山まで運んでくれたらいいのに、自分に都合の良い事しか把握していないみたいである。


 仕方がないので、私はチーズインハンバーグをサラちゃんに用意してあげた。



 「お前はホントに食べることしか興味がないよな」


 「精霊神は、強力な魔力が必要なのよ。だから、食べる事は大事な仕事なのよ」


 「イフリート、本当なのか」


 「私には答えることはできません」


 

 イフリートは、普段は精印の中にいるのだが、サラちゃんがきたので姿をあらわしている。



 「こいつは嘘だな。ただの食いしん坊なだけだろ」


 「・・・」


 「トール、それ以上サラちゃんをいじめないでね。明日は乗せてもらわないといけないから、しっかりと食事をしてもらいましょう」


 「仕方がない・・・好きなだけ食べろ」


 「もちろんですわ」



 調子に乗ったサラちゃんは、お酒・食べ物をどんどん食べていった。



 「ルシスちゃんもっとないの?この量だとみんなを運ぶパワーが蓄積できませんわ」



 それを言われると、出さないわけにはいかないのである。今後のことを考えると、さらに食料・お酒の在庫を確保しないといけないと感じたのであった。


 その夜は、試練の時と同じように、サラちゃんは、動けなくなるまで飲食してしまったのである。



 翌朝、案の定、サラちゃんは食べ過ぎと飲み過ぎで、ぐったりとしている。


 

 「おいサラ、起きろ。出発するぞ」


 「・・・・」


 「起きろ」


 「こうなったらサラマンダー様は、絶対に動くことはありません。私の力でイディ山の住処へ戻します」



 イフリートは、そう言うと、精印に入ってサラちゃんをイディ山へ連れて帰った。



 「あいつ、ホント使えないな」


 

 トールさんは激怒している。無駄に食料を消費しただけになってしまった。



 「仕方がないわ。馬車で進みましょう」


 

 私たちは、使えないサラちゃんを諦めて馬車で移動することにした。


 数時間後、ブロッケン山に到着した。ブロッケン山にはすごい霧がかかっていて、1m先も見えない状態である。この霧が視界を封じて、この山を登るのを邪魔しているのである。



 ダークエルフになったサンドマンは、砂の入った大きな袋を持った妖精である。その砂は、眠気を誘う魔力が込めらている。エルフの体を吸収したことにより、その眠気の砂の効力は、絶大なものになったらしい。一度その砂の魔力で眠ってしまうと、サンドマンを、倒さない限り眠りから覚めることはない。


 この霧の中だと、サンドマンの砂の攻撃の餌食になってしまう。これ以上進むのは危険である。




 「この霧の中を進むのは危険です。私がこの霧を吹き飛ばします」



 私は風魔法で、この辺りの霧を吹き飛ばすことにした。



 「タイフーンフェスティバル」



 いくつもの竜巻が発生した。その竜巻は高さ30mくらいの巨大な竜巻だ。巨大な竜巻が、あたり一面の霧を吹き飛ばす。


 竜巻が消えた後、霧で覆われたいてブロッケン山は、視界の良い澄み切った山に生まれ変わった。



 「これで視界は良好です。先を進みましょう」

 

 「そうだな。これで、不意打ちでの攻撃は無くなったな」


 「そうですわ。これで安全ですわ」


 

 私たちは、馬車から馬に乗り換えて山道を進むことにした。途中に何度か魔獣に遭遇したが、私たちの相手ではなかった。特にポロンさんのイフリートの力は、絶大なものがあり、炎の矢は一瞬で、魔獣を消滅させるのであった。



 「イフリートの力はすごいな」


 「これも、ルシスちゃんが、教えてくれた魔力の使い方のおかげですわ。イフリートの力を最大限に、利用することができますわ」


 「俺たちは確実に強くなっているよな」



 トールさんが嬉しそうに言った。


 ブロッケン山の中腹までたどり着くと、また魔獣が私たちを襲ってきた。



 「あっちにブラックウルフが4体いるぜ。次は俺が倒してくるぜ」



 トールさんは、素早い動きで、ブラックウルフの群れに突っ込んで行く。今のトールさんの動きにブラックウルフはついていけない。トールさんはハンマーを振り回して、次々とブラックウルフを潰して行く。


 

 「楽勝だな」


 「トール、あまり無理をしてはダメよ」


 「大丈夫だぜ、シールドも張って防御も完璧にしてるぜ」


 「でも調子に乗ったらダメよ」


 「それよりも、向こうから異様な魔力を感じないか」


 「確かに感じるわ」


 「あれは、ワーウルフじゃないのか」



 ワーウルフとは、人間の姿をした狼、すなわち狼男のことである。ワーウルフに噛みつかれた人間は、ワーウルフになってしまうらしい。


 ワーウルフは、身長2mもあり鋭い牙に爪を持ち、動きも俊敏で力も怪力である。討伐難易度はC3ランクである。



 「俺にやらせてもらえないか」


 「無茶はダメよ」


 「ああ、危なくなったら援護を頼む」



 トールさんは、久々の強敵に興奮している。最近は伝説級の強さのドラゴンや、サラマンダーを見てきたので、やっと自分の腕を試せる魔獣が出てきたので喜んでいるのである。


 私は、トールさんの今の実力なら、勝てると思うので静閑することにした。


 ワーウルフも、こちらに気付いていて、こちらの動きをじっと見ている。先に動いたのは、トールさんだ。トールさんは、雷・風属性である。風魔法を使って跳躍力に勢いをつけて、ワーウルフの頭上目掛けて飛び上がる。


 さらに、風魔法で勢いをつけて、ワーウルフの頭へハンマーを叩きつける。


 ワーウルフのスピードも、かなり早いが、トールさんのスピードに反応が少し遅れる。ワーウルフが気づいた時にはトールさんはワーウルフの真上にいた。


 ワーウルフは、両手でハンマーを防ぐ。しかし、トールさんの強化された、筋力・攻撃力により、ハンマーの威力は増大しており、ワーウルフの両腕は潰される。が・・・ワーウルフは、潰れた両腕を気にせず、トールさんの顔面目掛けて噛み付いてきた。


 トールさんは、のけぞりながら攻撃をかわして、後方へ下がる。ワーウルフは、攻撃の手を緩めない。潰れた両腕を引きずりながら、トールさん目掛けて、突進してくる。トールさんも、引き下がりはしない。ワーウルフに目掛けて突進する。


 ワーウルフの太ももは直径1mもある筋肉の塊だ。ワーウルフの突進にぶつかることは、トラックに衝突するのと同じくらの衝撃がある。ワーウルフはトールさん目掛け渾身のタックルをかましてきた。


 トールさんはスライディングをして、ワーウルフの股の隙間をくぐり抜ける。


 標的を失ったワーウルフはそのまま木を薙ぎ倒していき倒れ込む。



 トールさんは、すかさず振り返って、風魔法で加速しワーウルフへ突進して、円を描くようにクルクル回りながらハンマーを振り回す。



 『クルンクルンハンマー』



 ワーウルフは、両腕を潰されていて抵抗する術がない。ワーウルフは、トールさんのクルンクルンハンマーにより粉々になってしまった。



 「これで終わりだな」


 「そうね・・・・でも、ワーウルフはまだ3体いるみたいよ」


 「マジかあーーー」



 トールさんは驚きを隠せないのであった。



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