第278話 ホロスコープ星国 パート55
ヴァンピーは、魔法を使って牢屋を破壊して、スコーピオを助け出した。そして、2人で私が開けた穴を通って、私を捜索するのであった。
一方私は、お腹いっぱいの食事を取って満足していた。
「もう、食べれないですぅ」
しかし、目の前にはまだ、スープやサラダが準備されている。しかも、調理場の奥には食堂があり、山のように積み上げられたパンと大きな入れ物の中には、リンゴジュースが溢れるほど入っていた。
「パンさんとリンゴジュースさんが、私を呼んでいますぅ〜」
私は、パンとリンゴジュースを見捨てて、この楽園から去ることはできない。
幸いにも、私には収納ボックスがある。私は、パンとリンゴジュースを全て収納ボックスに入れた。そして、パンとリンゴジュースを楽園から救出した満足感から、そのまま私は、食堂のテーブルの下で眠りについたのであった。
「スヤスヤ・スヤスヤ」
私が、眠りに着くとすぐに、食事を作り終わって、休憩していた料理人たちが、調理場に戻ってきた。
「どうなっているのだ」
料理長は驚きのあまり、気を失ってしまった。
「料理長、しっかりしてください」
料理人が料理長に駆け寄った。
「ジェミニ王とアリエル様にお出しする料理がなくなっているぞ」
料理人の1人が悲鳴のような大きな声で叫ぶ。
「ネズミでも侵入したのか?」
料理人たちは考える。しかし、犯人の目星をつけることができない。
「ネズミがこんなに綺麗に食べるとは思えない。侵入者がいるのでは?」
「それは、ないだろう。どんなバカでも、ジェミニ王とアリエル様にお出しする食事に、手を出す者などいないはずだ。もしそんなことしたら、死刑に等しい罰を与えられるのは、みんな知っているはずだ」
私は、とんでもない重罪を起こしたみたいであった。
「犯人よりも、俺たちの心配をした方がいいかもしれないぞ。今から、代わりの料理をお出しすることはできない。誰かに食事を盗まれた報告したも、管理責任を問われて、アケルナルの町に投獄されるのは間違いないはずだ」
料理人たちは自分たちの状況を冷静に判断した。
「俺たちはどうしたらいいのだ」
料理人たちが頭を抱える。
「食堂のパンも全てなくなっているぞ」
「なんてことだ・・・これは暴動が起きるかもしれないぞ」
兵士たちは、朝食の焼き立てパンをとても楽しみにしている。そのパンがないとなると暴動が起きてもおかしくないのである。
「これは、単独犯ではない。組織ぐるみの犯行だ」
料理人たちは推測する。
「レジスタンスでしょうか?」
「間違いない。短時間で、これほど大胆な犯行をおこなえるのは、レジスタンスしか考えることはできないだろう」
料理人たちは、絶望的な顔をして言った。
「逃げるぞ」
気を失っていた料理長が意識を取り戻した。そして、逃げようと言い出したのであった。
「どこへ逃げるのですか?私たちの家族はこの町に住んでいるのです。家族を置いて逃げることはできません」
料理人たちは、王都を捨てて逃げるのには、時間がないのであった。
「自宅へ逃げればいいのだ。レジスタンスは兵士たちの食事を奪い、兵士たちに暴動を起こさせる気だ。そして、その暴動に乗じて、革命を起こすつもりであろう。このまま城にいるのはとても危険すぎる。王都を捨てて違う町へ逃げるのが得策だが、そんな時間はない。なら、一旦自宅へ逃げてから、革命の様子を見てから、どうするか判断した方がいいだろう」
料理長は、この国の情勢には詳しい方である。ジェミニ王が王位についてから、国民たちの不満は限界に来ている。いずれ革命が起きることは想定していたのであった。
「わかりました。一刻も早く逃げましょう」
料理人たちは、すぐに調理場を後にして、自宅へ逃げたのであった。
『スヤスヤ・スヤスヤ』
料理人たちが、絶望的な思いをしている間も、私は気持ちよく安眠していた。しかし、その安眠も長くは続かなかった。
「ベガちゃん、重いですぅ」
私は、ベガちゃんに押し潰される悪夢を見ていたのであった。
料理人が逃げ出した後、私の作った穴を通って、調理場にヴァンピーたちがやってきた。
「私の思った通りです。フェニさんは、ジェミニ王とアリエルの食事を綺麗に完食しています」
スコーピオは、私を信頼しきっている。
「フェニちゃんは、豪華な食事に目がないだけよ」
ヴァンピーは、私のことを1番理解している。
「食堂を見てください。パンとリンゴジュースがなくなっています。フェニさんは兵士の指揮を下げるために、パンとリンゴジュースをどこかへ隠したのでしょう」
スコーピオは、私の行動に賛辞を送る。
「フェニちゃんは、パンとリンゴジュースが大好きなのよ。だから、パンとリンゴジュースを盗んだのよ。どうせ、収納ボックスに閉まって、後でのんびり食べようと思っているのよ」
ヴァンピーは、完璧な推理をしたのであった。
「それよりも、料理人たちに見つからないように、早くフェニちゃんを探しましょう」
ヴァンピーは、私の探索を優先する。
「料理人たちは、もう逃げているはずです」
スコーピオは推察した。
「なぜ、逃げたのかしら?」
「簡単です。革命が起きると気付いたのでしょう」
スコーピオは堂々と言った。
「なぜ、革命が起こると気づいたのかしら?」
「簡単です。ジェミニ王、アリエルの食事を盗み者などいないでしょう。頭のいい料理長なら、レジスタンスが、革命を起こすために、食事を盗んで混乱を起こすのが目的だと察知するでしょう」
「確かに、そう判断するのは妥当かもね。フェニちゃんの食い意地の悪さも役に立つこともあるのね」
ヴァンピーだけが、私の事を理解しているのであった。
「フェニさんの作戦は着実に進んでいます。早くフェニさんを見つけ出して、みんなの元へ連れて帰りましょう。正義感の強いフェニさんは、1人でこの国を救おうと、王の間に行ってるかもしれません」
スコーピオは、私のことをかいかぶり過ぎている。
「フェニちゃんのことだから、たくさん食べて満足して、その辺で寝ているわ」
ヴァンピーは、あの名探偵のように、鋭い推察をしたのであった。
「そんなことはありませんよ」
スコーピオは、笑いながら言った。
「スコーピオ、少し静かにしてもらえるかしら」
ヴァンピーは何か異変に気づいた。
スコーピオは、口を閉じておとなしくした。
「重いですぅ。ベガちゃん重いです」
私はたくさん食べすぎたので、お腹が苦しい。なので、ベガちゃんに押し潰される悪夢をみて、うなされているのである。
「そこね!」
ヴァンピーは、私のうめき声に気づいて、食堂のテーブルの下で、苦しんでいる私を発見したのであった。
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