第108話 武道大会パート9
「ウォーターリーパー、なぜ戻ってきた」
「申し訳ございません。今日はお腹の調子が悪いので、精印からのサポートのみに専念します」
「そ・そ・それなら仕方がないな。サポートを頼んだぞ」
ロイドはあっさりと受け入れた。
「ポロンさん、ウォーターリーパーは逃げたのだと思います。精霊神様の一部である私に、挑む妖精などいないと思います」
「そうなのね。それならロイドを倒しますわ」
ロイドは、岩に隠れながら氷結の矢を放つ。逃げも隠れもしないポロンさんは恰好の的になる。しかし放たれた氷結の矢は全てポロンさんの炎の矢によって撃ち落とされる。
そして、ロイドが隠れる障害物の岩はことごとく、ポロンさんの炎の矢によって粉砕される。
もう隠れる場所のなくなったロイドは、弓を捨てて剣での勝負に切り替える。
「剣で勝負だ」
ロイドが叫ぶ。隠れる場所を失ったロイドに、炎の矢を連射撃ちをすれば、勝負は簡単に終わるのだが、お人好しのポロンさんは、剣での勝負を受けることにした。
「わかりましたわ。剣で勝負しましょう。でも私は剣など持っていないわ。どうしましょう」
「私が剣になります」
イフリートは、姿を変えて燃え盛る剣に変身した。イフリートの剣は防御シールドを張っているポロンさんでさえ、汗をかいてしまうほどの熱を周囲に放っている。中距離戦を捨てて、接近してきた、ロイドは、あまりの暑さのために、剣に魔力を送るのをやめて防御に魔力を注ぐ。
「なんだ、あの燃え盛る剣は、熱くてこれ以上は近づけないぞ」
ロイドは、あまりの暑さのために少し後退する。
「イフリート少し暑すぎですわ」
ポロンさんは、少しキレ気味で剣を上下に振って、イフリートに注意をした。
上下に振られた剣から、高温の熱風が発生してロイドを襲う。
「なんだこの熱風は防ぐのは無理だぁーー」
高温の熱風がロイドを包み込む。ウォーターリーパーの水魔法で、熱を和らげようとロイドの体を水の玉が包む。しかし、その水も一瞬で高温に変わり、ロイドはおでんのようにグツグツと茹でられる。
熱湯に茹でられたロイドは、熱湯の玉の中で意識を失う。
「それまでだ」
審判が試合を止める。
試合が終わった知ったポロンさんは、氷の矢をロイド目掛けて放つ。ポロンさんの氷の矢によって、ロイドを包み込んでいた、熱湯がぬるま湯に変わる。広場にはずぶ濡れになって気を失っているロイドが倒れている。すぐに救護班が駆けつけて、回復魔法をおこなう。
「ロイドお兄様が・・・・負けましたわ」
「魔法だけじゃなく、弓も、剣も桁違いの実力だ・・・あんなのに勝てるわけがない」
ダミアンの子供のメイドーナ、レノアは呆然と立ち尽くしていた。
「勝者はポロン選手です。勝者を拍手で称えてください」
しかし、観客席は鎮まりかえっていた・・・・昨日の爆炎の魔法といい、ロイドを追い詰めた炎の矢、そして、最後の燃え盛る剣の凄まじい熱風。観客達は唖然として声が出なかったのであった。
ポロンさんは、試合を終えて控え室に戻ってきた。姉のヘラがポロンさんに声をかける。
「ポロン、圧勝だったわね」
「はい。物足りなかったです。次はライアーお兄様の出番です。応援しましょう」
「ライアーが勝つのは、わかっているので応援しても無駄よ」
「お兄様は強くなられたんですね」
「違うわポロン。シャノンを買収したのですわ」
「そうなのですか」
「そうよ。ライアーがまともに戦ってシャノンに勝てるわけがないのよ」
ポロンさんは少し悲しそうにしている。兄のライアンはポロンさんにとっては、命の恩人と言ってもおかしくないくらいの恩を感じている。優しいお兄様が買収をするなんて信じられなかったのであった。
ヘラの言う通り、ライアー対シャノンの戦いは、ライアーがかろうじて勝利を収めた。しかし、見ていて退屈な試合であった。お互いに終始、中距離で弓での戦いを続け、魔力を使いすぎたシャノンが、戦闘不能を宣言して試合が終わった。
「次の対戦はポロンかぁ・・・・あれが精霊神の加護の力だろう。棄権しようかな」
ライアーは、ポロンさんに八百長のお願いをしようと企んでいたが、終始ヘラが側にいるので八百長のお願いができない。そして、ポロンさんと戦っても勝ち目がないので棄権するか迷っていた。
ヘラは、メイドーナを危なげなく倒して2回戦進出を決めた。
「さすがお姉様。素敵ですわ」
ポロンさんは、広場の側でヘラを応援してヘラの強さに感銘を受けていた。
ポロンさんは、少し悩んでいた。この武道大会の優勝者が、次のエルフの国の王になる可能性が非常に高いのである。幼い頃から優しくて強いヘラ。少し意地悪だが、ポロンの人生を変えくれたライアー。どちらが王としてふさわしい人物か迷っていたのであった。
ポロンさんは、自分が王になるなんてこれっぽちも考えていない。この武道大会が終われば、また、私達と一緒に冒険に出かけるからである。
王になる者は、王になるまで様々な国の行事に参加して、国の運営を熟知しないといけない。そんな面倒なことをポロンさんがするわけがなかったのであった。
最後の試合はレノア対ザックである。試合はレノアがかろうじて勝つことができた。これで、2回戦に進めた4名のうち、3名はアールヴ王の子供であり、王の面目は保たれたのであった。
「さすが、王様の子供達です。誰も負けることがなく、2回戦まで進めました」
「良い結果で満足している。しかし次からは、兄妹対決になるのが不安だ」
「やはり優勝はポロン王女様ですか。修行の成果でずば抜けた強さを披露しています。いくらヘラ王女様でも、あの強さには勝つのは難しいでしょう」
「そうだな。しかし、ヘラは姉としてポロンに全力で戦い、試合の過酷さを伝えようとするのだろう」
王様と側近は、あえてライアーには触れないのであった。ライアーの勝利は、あまりにも不自然であり信用されていないのであった。
2回戦は明日の昼から開催される。1回戦が全て終わって夜のお食事パーティーが開かれる。サラちゃんはお食事パーティーには出禁を食らっているので参加できない。代わりに、城の食堂で豪華な食事が用意されている。
雷光石を手に入れることができたサラちゃんは、機嫌が良かったのでポロンさんの言いつけ通りに、城の食堂でのお食事会に参加したのであった。なので、2日目のお食事パーティーは、無事平穏に終えることができたのであった。
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