第276話 ホロスコープ星国 パート53

 

 ヴァンピーは、夜間の王都を守る監視責任者である。ジェミニ王の眠る王の部屋に入る権限は持っている。ヴァンピーはシーシェを納得させるために、王の間に行くふりをした。


 ヴァンピーは、しばらくシリウス城内をウロウロして、時間を潰しながら、私が閉じ込められている地下室へ向かった。



 「ヴァンピー、ジェミニ王の返答はどうだったの?」



 次は、グェイがヴァンピーの行方を遮るのであった。



 「しばらく様子を見るみたいだわ。そして、朝の会議で対策を練ると言っていたわ」



 ヴァンピーは適当な事を言った。



 「そうなのね・・・私は、あの女の子が不審な動きをしないか監視するわ」



 グェイは、かなり緊張しているみたいで、体が震えている。



 「女の子は普通の人間よ。女の子を監視するよりも、王都の門でウルフキングが現れないか、監視した方がいいと思うわ」



 ヴァンピーは、グェイがいると私を助けることができないので必死であった。



 「そうね・・・最大の敵はウルフキングよね。ヴァンピー、一緒に王都の門を守りましょう」



 グェイに手を引かれて、ヴァンピーは王都の門へ引き戻されるのであった。



 ヴァンピー・シーシェ・グェイの3人は、いつ襲って来るかもしれない、ウルフキングの脅威に怯えながら、監視業務をおこなっている。もちろん、ヴァンピーは、ウルフキングが襲ってこない事を知っている。しかし、ヴァンピーも緊張した面持ちで、監視業務を行なっているのである。


 

 「王国随一の魔法使いのヴァンピーでも、ウルフキングが怖いのね」



 落ち着きなのないヴァンピーを見て、シーシェが言った。しかし、ヴァンピーが落ち着きがないのは、私が原因である。このままだと、朝になれば私が捕らえれていることが、ジェミニ王の耳に届くのである。そうすれば、ウルフキングの従者が、王都に出現したと王都内が、パニック状態になってしまうのである。



 「そうね・・・未知数の魔獣だから、震えが止まらないわ」



 ヴァンピーは、未知数の行動をする私に、震えが止まらないのであった。



 「そうね。スコーピオさんの話しでは、ウルフキングは、Cランクを超える力を持っていると言ってたわ」



 不安を隠しきれないシーシェ。



 「でも、王都内ではC3ランクの魔獣だから、そこまでの脅威はないと言う情報もあるわ」



 情報は、いろいろと錯綜しているのである。



 「最悪を想定しておいた方がいいわ。気の緩みは判断を鈍らせるわ」



 シーシェが、肩を震わせながら言った。



 「ヴァンピー、何をそんなにソワソワしているの」



 グェイが、ヴァンピーのあまりにも落ち着きのなさに、異変を感じているのであった。



 「もしかして、あなた・・・おトイレに行きたいの?」



 グェイは、ヴァンピーがトイレを我慢していると勘違いしたのだった。



 「ヴァンピー、気にすることはないのよ。トイレを我慢するのは体に悪いわよ。早く行ってきなさい」



 シーシェもヴァンピーの落ち着きのない姿を心配していた。なのでトイレに行くように勧めたのであった。



 「ありがとう。お言葉に甘えて、トイレに行ってくるわ」



 ヴァンピーは、地下牢に行けるチャンスが出来た思って、ダッシュで私が捕らえられている地下牢に向かったのであった。



 「そこまで我慢しなくてもいいのにね」



 ヴァンピーの高速ダッシュを見たグェイとシーシェが、笑いながら言うのであった。



 

 私が地下牢に幽閉されて4時間は経過していた。時計の針は朝の5時を指していた。


 シリウス城の調理場は、朝早くから、料理人が朝食の準備をしている。それは、王都を警護するたくさんの兵士の食事を作らないといけないからであった。


 王都を守る兵士たちは、自宅から通う者も多いが、シリウス城内を守る兵士は、住み込みで、昼夜交代の警護体制を取っているのである。安い賃金で奴隷のように働かせられている兵士たちの唯一の楽しみが、朝食と夕食である。ジェミニは、兵士たちに贅沢な暮らしをさせない代わりに、食べるものだけは、きちんと与えているのであった。


 それは、体力がないと、きちんとした警護業務ができないからである。なので、住み込みの兵士たちには、美味しい食事を与えているのであった。その兵士たちの元気の源である食事を作るのが、シリウス城専属の料理人たちであった。


 料理人達は、朝食はできたの美味しいパンと、スープとサラダを用意する。そして、飲みものは、みんなが大好きなリンゴジュースが用意されるのであった。しかし、料理人たちが1番苦労するのが、国王と『星の使徒』への食事である。特に、食にこだわりのあるジェミとアリエルの食事を作るのが1番大変なのである。



 「今日はカプリコーン様は外出中なので、ジェミニ王とアリエル様の食事の準備を始めるぞ」



 ジェミとアリエルは、どんな料理を食べたいか、料理長に伝えている。なので、要望に応じた料理を作らないといけない。何を出されても『美味しいぜ』と言ってくれるカプリコーンが、不在なので料理長は残念がっている。



 「カプリコーン様に出す料理は簡単だが、ジェミニ王とアリエル様は、評価が厳しいので、今日も全力で料理を仕上げるぞ」



 料理長は、料理人たちに檄を飛ばす。


 ジェミニとアリエルの舌に合わない食事を出すと、アケルナルの町へ投獄されることもあるので、料理人たちは、料理を作るのも命懸けなのである。



 「スコーピオ様の食事はどうしますか?」



 料理人の1人がつぶやいた。



 「スコーピオ様は、地下牢に投獄されているらしい。食事は、パンを一つだけ与えるように、と言われている」



 料理長が静かに言った。


 料理人が朝食の準備をしている頃、ヴァンピーは、やっと地下牢にたどり着いたのであった。



 「ヴァンピー様、こんなところに何しに来たのですか?」



 地下牢に入る扉を警護している兵士が、嬉しそうに言った。もちろん、ヴァンピーの美しさにメロメロである。



 「女の子が捕らえらたと聞いたので、状況を確認しに来たのよ」



 ヴァンピーは、兵士を誘惑するように、魅惑的な笑顔で兵士の目をじっと見つめる。



 「4時間ほど前に、シーシェ様とグェイ様が手配書の女の子を地下牢に幽閉するように指示がありました。なので、1番奥の強固な牢屋に幽閉しました」



 「そうなのね。それで、女の子の様子はわかるかしら」



 ヴァンピーは、兵士の肩を触りながら、誘惑する。




 「1時間前から、牢屋内から大きな音がするので、牢屋の状況を確認しました。すると女の子は寝ぼけながら、壁にぶつかっているのを確認することができました。あの女の子は、かなり寝相の悪い子だと思います。今は、大きな音も無くなりましたので、行儀良く寝ていると思います」



 兵士は、ヴァンピーのことをうつむきながら、チラチラと恥ずかしそうに見ている。



 「私も少し見学させてもらっていいかしら」



 チラチラと見ている兵士の顔を、両手で押さえて、兵士の目をじっと見つめて言った。



 「地下牢へ入るにはジェミ王の許可証が必要です」



 兵士は業務を全うする。




 「お・ね・が・い・よ」




 ヴァンピーは魅惑的な瞳で兵士を翻弄する。



 「少しだけなら、問題ないと思います」



 兵士は鼻の下を伸ばしながら言った。



 「あ・り・が・と・う」



 ヴァンピーは兵士の頬に手を当ててお礼を言った。


 こうした、ヴァンピーは、やっと地下牢に辿り着くことができたのであった。


 

 「これはどう言うことなのよ」



 やっとたどり着いた地下牢で、ヴァンピーが目にしたモノは・・・私が幽閉されているはずの地下牢に、子供の形をした大きな穴が、空いているのを発見したのであった。



 

 

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