第282話 ホロスコープ星国 パート59


 ヴァンピーは、ヴァルゴのことを諦めて、私のところへ戻ってきた。



 「ヴァルゴは、連れてこなかったのか?」



 レオが尋ねる。



 「肌の手入れで忙しいから、すぐには出れないみたいよ」



 ヴァンピーは不貞腐れながら言った。



 「あいつは、準備には1時間はかかるはずだ。1時間後に出発しよう」



 レオは寛容であった。



 「何を言っているのよ!一刻も争う事態なのよ。今すぐ兵士たちの暴動を止めないと、大変な事になるわ」



 レオの寛容な態度にイライラするヴァンピーである。



 「では、ヴァルゴなしでシリウス城に行くとするか」



 レオは、ヴァンピーのイライラしている態度を落ち着かせるために、シリウス城へ行くことを決心した。



 「私は、パン屋さんに行きたいですぅ」



 私の第一志望はパン屋さんである。第二志望のシリウス城は後回しである。



 「だめよ。フェニちゃんがパンとリンゴジュースを盗んだから、暴動が起きているのよ」



 私は、ヴァンピーに怒られた。



 「フェニ王を責めるではない!フェニ王も何か考えのあっての行動だったのだろう」



 レオは、私には甘々なのである。



 「フェニちゃんは、目の前に、おいそうなパンとリンゴジュースがあったから盗んだのよ。だから、今から返しに行って暴動を止めるのよ」



 もう、それしか方法はないのであった。



 「もったいないですぅ」



 私はせっかく手に入れたパンとリンゴジュースを手放したくないのである。



 「ダメよ。でもパンとリンゴジュースを返したら、王都の美味しいパン屋に行ってもいいわよ」


 「すぐに返して来ます」



 私は即答した。たくさんのパンとリンゴジュースよりも、王都で1番おいしいパン屋さんのパンのが魅力的なのである。


 私は、すぐにヴァンピーの屋敷を飛び出した。そして、炎の翼を出して、大急ぎでシリウス城へ向かった。今すぐにシリウス城に行けば、パン屋さんの開店時間に間に合うので、私は急いでいるのである。



 「フェニちゃん、待ちなさいよ」



 ヴァンピーの叫び声は、私には届かない。



「フェニ王、私もついて行きます」


 『ライオンモード』



 レオは、ライオンに変身して、ものすごい勢いで、私を追いかけてシリウス城へ向かった。



 「私も急いで、シリウス城へ行かないと、また、フェニちゃんが何をしでかすかわからないわ」



 ヴァンピーは考える・・・私の飛行スピードはかなり早い。だから、追いつくのは不可能である。しかし、少しでも早くシリウス城に着くために、ヴァンピーは名案が浮かんだのである。



 「キャンサー、シリウス城へ行くわよ」


 「もちろんだ。俺もすぐに『高速横走り』で、フェニ王の元へ駆けつけるぜ」


 「私を乗せて行くのよ」



 ヴァンピーは、馬でシリウス城へ向かうより、キャンサーに運んでもらった方が、早いと判断したのである。


 ヴァンピーは、キャンサーに肩車される形で、シリウス城へ向かったのであった。



 「私は後で、ヴァルゴを連れて行くわ」



 一部始終を見ていたノスフェラーは、のんびりとリンゴジュースを飲みながら、ソファーで二度寝をするのであった。



 私は、シリウス城の食堂の位置をきちんと覚えていた。それは、おいしいスープの匂いがするからである。私は、パンとリンゴジュースを拝借した時に、サラダとスープの存在も確認していた。しかし、全てを持っていくのも悪いと感じたので、パンとリンゴジュースだけ拝借したのであった。


 しかし、パンとリンゴジュースのみ拝借しただけなのに、ヴァンピーに、あんなに怒られるとは、想定外だったのである。


 私は、シリウス城の食堂の窓をぶち破って、食堂の中へ侵入した。



 「パンはどこだ!」


 「リンゴジュースはどこにあるのだ」



 私が、窓を突き破って侵入したのに、誰も気付かないのであった。それほど、兵士たちはパンとリンゴジュースがなくて、パニックを起こしているのである。



 「女の子が、こんなところで何をしているのだ」



 1人の兵士が私の存在に気付いた。



 「パンとリンゴジュースを持ってきました」



 私は、すぐにパン屋さんに行きたいので、説明を省いた。



 「冗談はよしてくれ。どこにパンとリンゴジュースがあるというのだ。俺は今、猛烈にイライラしているのだ。子供でもつまらないことを言うと、何をするかわからないぞ」



 兵士は、かなりイライラしている。今にも私を殴りつけようとする勢いである。



 「どうぞ」



 私は、テーブルにパンとリンゴジュースを出した。



 「・・・」



 兵士は凍りついた。



 「どうぞ」


 私は、パンとリンゴジュースを盗んだ場所に全て戻したのであった。



 「みんな、パンとリンゴジューが戻ってきたぜ」



 さっきの兵士が、大声で叫んだ。



 「なんだと!」



 方々でパンとリンゴジュースを探していた兵士たちが、一斉に食堂に戻ってきた。



 「本当だ」


 「俺たちのパンとリンゴジュースだ・・・」



 パンとリンゴジュースを見た兵士たちの目には、うっすらと涙が溢れ出していた。



 「女神様が、パンとリンゴジュースを用意してくれたのだ」



 さっきの兵士が、私を指差して言った。



 「女神様、ありがとうございます」



 食堂へ戻ってきた兵士達が、私に跪いて言う。



 「気にしないでください。それよりも、早くパンとリンゴジュースを召し上がってください」



 女神様と言われて、少し気分のいい私であった。しかし、私は盗んだモノを、返しただけである。



 「女神様の慈悲に感謝を込めて、パンとリンゴジュースをいただきましょう」



 兵士のリーダらしき男性が大声で言った。



 「女神様に感謝を!」



 食堂にいる全ての兵士が声を揃えて言った。


 さっきまでの殺伐した雰囲気が一転して、和やかな雰囲気に変わった。



 「さすが、フェニ王です」



 途中から、状況を見ていたレオが、ヴァンピーに言った。



 「偶然よ。兵士たちが勘違いしてくれたからよかったけど、もし、フェニちゃんがパンを盗んだ犯人だとバレたら、大変な事になっていたわよ」

 


 ヴァンピーは、兵士たちの暴動が収まってホッとしているが、私が女神様と崇められて、複雑な心境であった。



 「フェニ王の判断は正解だったのです。これで、兵士たちは、フェニ王の指示に従います。ヴァルゴの『魅惑』を使わなくても、フェニ王の力で兵士たちを、従わせることができるのです」



 レオは嬉しそうに言った。



 「・・・」



 ヴァンピーは、結果的にはそうなってしまったので、何も文句は言えないのである。



 「パン屋さんに行かなくてわ!」



 私は、炎の翼を出そうとした。



 「フェニちゃん、待ちなさい」



 ヴァンピーは、私のことを理解している。なので、私がパン屋さんにいかにように、腕を掴んだのであった。



 「兵士たちよ!俺の話を聞け!!!」



 ヴァンピーが私を捕まえると同時に、レオが食堂に姿を現して、兵士たちに声をかけたのであった。

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